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【AFCチャンピオンズリーグ2010 広島 vs アデレード】レポート:広島、歴史的なACL初勝利。生粋の広島育ちの若者が立役者に。(10.03.31)

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3月30日(火) AFCチャンピオンズリーグ2010
広島 1 - 0 アデレード (19:00/広島ビ/12,094人)
得点者:45' 佐藤寿人(広島)
ホームゲームチケット情報 | 決勝戦は11月13日(土)に国立競技場で開催!
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カッシオが左サイドから真ん中に切り込む。プレスに行く広島。しかしアタッカーは、狭いコースを切り裂き、真ん中で待つリードへ。クサビだ。フローレスが足先でチョンと合わせる。この何気ないパスに走り込むのは背番号9=ファンダイクだ。この試合、再三チャンスを創造していたアルゼンチン人ゲームメイカーとオランダ人ストライカーのコンビが、またも広島を窮地に追いやった。
森脇良太のスライディング。しかし、ファンダイクは冷静だ。懐の深い切り返しで、森脇の情熱を空しくする。
フリーだ。危ない。ビッグアーチ、絶叫。
しかし、「決められた」と誰もが思ったシュートは外れた。ポストをなめるように、ボールはトラックに向かって転がっていった。
ドーーーーッ、というため息がスタンドを包む。

それにしても、どうして彼はシュートを外したのか。
後にビデオで確認すると、ファンダイクのシュートミスは偶然ではなかった。森脇を置き去りにしたファンダイクの足元に強烈なプレスを掛けた選手の存在が、アデレードのエースの足先を狂わせたのだ。
その男=横竹翔は、当初ドッドのマークについていた。前節、広島から先制点を叩き込んだ危険なアタッカーだ。フリーにすれば危ない。
しかし横竹は、フローレスのパスが出た後、思いきってドッドから離れた。そしてファンダイクの切り返しを見せたその瞬間、彼はスロットルを全開し、一気に身体を寄せる。ストライカーの視界は紫の22番によって遮られ、それ故に最後のコントロールに狂いが生じた。もちろん、ツキは広島にあった。しかし、そのツキを引き出したのは、横竹翔という若者の献身だったのだ。

横竹は、広島にとって「秘蔵っ子中の秘蔵っ子」である。スクールの時代からサンフレッチェで育ち、ジュニアやジュニアユース時代には「怪物」と言われたこともあるFWだった。しかしプロではボランチやDFとして起用され、トルコキャンプでは屈強なヨーロッパのストライカーに振り回される。試合に出てもなかなか結果を出せず、練習ではいつもペトロヴィッチ監督に叱られていた。前節、負傷した槙野智章の代役として先発するも、ドッドに振り切られて先制を許し「自分の責任」と唇を噛んだ。
それからわずか1週間。横竹は誰もが刮目する、堂々たる活躍を見せた。アデレードは経験のない横竹のサイドを狙い、フローレスやパンテリスらが圧力をかけてきたが、その度に横竹は落ち着いた対応を見せた。慌てて飛び込んだり、無理をして相手をひっかけたりという「隙のあるプレー」を一切見せなかった。仲間がサポートしてくれるのを信じて我慢し、身体を寄せて自由を奪い、ボールを奪うと冷静につないでいく。76分、広島のCKのこぼれを拾ったアデレードがカウンターを仕掛けたときも冷静に対処し、相手に身体をぶつけた。結果としてファウルをとられ警告を受けてしまったが、価値のあるプレーだった。
横竹は、今の段階でできることを最大限にプレーで発揮することだけに集中した。槙野や森脇良太のような攻撃参加も少なく、森崎和幸のように深い位置から一発で局面を変えるパスもない。しかし、フィジカルの強さを活かしながら必死で闘い、試合に出場する度に何かを学んでいく姿勢を、ペトロヴィッチ監督は高く評価。練習中はいつも「ツバーサ」と叱りつけているが、一方で試合に使い、経験を積ませてきたのである。

前半、「日本でも稀にみるサッカーができた」と指揮官が胸を張り、相手のマレンコーチが「広島が見せたコンビネーションは素晴らしい」と脱帽したほどのパフォーマンスを見せ、佐藤寿人のゴールにより広島はACLで初めて先制した。しかしこの試合の本質は、蓄積した疲れから選手の足が止まり、相手に押し込まれた試合終了間際にある。ここまでの3試合、いつも残り15分で失点し「惜しい」で終わっていた広島にとって、ACL初勝利へのハードルは高かった。そして実際、89分にこの試合最大のピンチが訪れた。そこを阻止したのが、悔しさをバネにして一歩ずつ成長してきた、生粋の広島育ちの若者だったのである。

「広島の育成部門のコーチもみんな、スタンドで応援していたよ」と横竹に告げる。
「本当ですか。みんなが見ている前で勝てて、本当に嬉しい。僕がスタメンで勝ったことは、今までなかったから」。
顔面をクシャクシャにして喜ぶあどけない表情をした少年こそ、広島に歴史的な勝利を呼び込み、1万2000人を超えたサポーターを熱狂させた立役者だ。決して派手ではない。だが、この日の横竹翔は間違いなく、彼自身が「そうなりたい」と願い続けた、ビッグアーチのヒーローだった。

以上

2010.03.31 Reported by 中野和也
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