怒りや悲しみの発露としてのブーイングと、それでもチームを支えようとの覚悟を持った拍手と声援とが拮抗していた。絶対に負けてはならない試合で、一人少ない相手からゴールを奪えず。逆に試合終了間際の失点によりホーム二連敗。川崎Fサポーターが抱える複雑な思いが、試合後の姿に見て取れた。
そして、わずか数十メートル先に対峙して、我を忘れて喜ぶFC東京のサポーターの姿がこの試合の難しさとその価値とを示していた。
試合は立ち上がりから難しいものとなる。ともにチャンスを作り出していた序盤。F東京はACLによる北京遠征の疲れを感じさせない運動量を見せて川崎Fゴールに迫る。人とボールとが動くスタイルで試合を組み立て、9分には石川直宏がラインの裏に抜け出てGKとの1対1をつくり出す。前半20分にも羽生直剛がラインの裏に飛び出しマイナスのクロス。フリーの谷澤達也に通れば1点という場面となる。
そんなF東京の攻撃の起点になっていたのはルーカス。ポジションを前後に入れ替えつつボールを引き出し、3人が並ぶ2列目の選手がフォローした。こうしたF東京の崩しについて田坂祐介は「ルーカスが居たスペースに2列目の選手が入るのが彼らのストロングポイント。ただ、それは想定内でした」と話す。想定していたからこそ、この形からの失点がなかったのか。それとも想定していながらも、ピンチを招いてしまったと判断すべきか。難しい部分ではあるが、得点が決まるか決まらないかのギリギリの攻防は見応え十分だった。
一方の川崎Fは単発ではあるが何度か攻撃の形を作る。たとえば31分に田坂からのパスを受けた小林悠がエリア内で権田修一と1対1の場面を迎える。しかし、完璧にミートしたこのシュートは権田のファインセーブによってノーゴール。39分にも中村憲剛からのスルーパスをきっかけに小林、矢島卓郎とつなぎ、最後はフォローした中村がループ気味にシュートを狙うが、これは枠を捉えきれなかった。
前半を0−0で折り返した後半開始早々に、試合展開を大きく左右させるプレーが出る。48分のこと。前のスペースに抜け出る動きを見せた中村を長谷川アーリアジャスールがファールでストップ。これがイエローカードの判定を受ける。長谷川は前半43分に小林に対するファールで1枚目のカードを貰っておりこれがこの日2枚目のカードとなる。退場者を出したF東京に対し、川崎Fが攻勢を強めることで試合は一気に動き始める。
権田は1人少なくなった後の時間帯を振り返りこんなコメントを述べている。
「数的不利な練習で繋げなくて怒られるという超理不尽な練習をしていた。その時のことが頭をよぎった選手も多いと思う。今年ラインが高くなったが、どうせやられるならやりたい事をやってやろうと。プレーが切れるたびに下がったらダメだと思ってやっていました」
プロサッカー選手をして「理不尽」という言葉を使わせる練習により、数的不利な状況を想定していたというF東京の選手たちは、この状況を苦しみながら凌いでいく。また、そうした戦いについてポポヴィッチ監督も「10人になっても戦い方を変えずにつなぐサッカーを、パスサッカーを貫き続けました」と胸を張っていた。
ただ、それにしても1人少ない事のデメリットは大きい。ポゼッションでは川崎Fが上回り、チャンスの数も川崎Fが上回りはじめる。ポイントは中村の高いポジションだった。どうしても守備意識が高くならざるを得ないF東京は、バイタルエリアにスペースを与え、そこに中村が入り込む。中村は前線のスペースに走りこむ選手に合わせ、急所を突くパスを次々と通していった。75分に相馬監督は田坂に代えて稲本潤一を投入。中村が前に出やすい状況を作る事でチャンスの数を増やすことを意図する。
しかし、川崎Fは決めきれない。決定機を作りながら決めきれなかった昨季の戦いを受け、攻撃面で補強を敢行したのは御存知の通り。しかし、レナトがエリア内で前を向き放ったシュートも権田に防がれるなど決定力を欠いたプレーが続いてしまう。
そんな中、試合を決めたのはF東京が見せた思い切りのよい攻撃だった。87分。米本拓司とのバランスを重視していたという高橋秀人が、その米本の攻撃的な守備を信じ前方のスペースに走りこむ。この時間帯のF東京は、1人少ないながらも攻撃に枚数をかけ、リスクを取っていた。虚を衝かれた形の川崎Fはバランスを崩しており中盤には広大なスペースが生じていた。
高橋は悠々と強烈なミドルシュートを放つ。
「難しいミドルシュートでした。落ちたりはしてませんが、いいシュートでした」と話す西部洋平がこのシュートを間一髪はじき出す。どよめきの余韻の中、このシュートによってF東京が手にしたCKを森重真人が頭で合わせる。西部はこのシュートについて「あのヘディングシュートは(GKとしては)ノーチャンスでした」と脱帽するしかなかった。
等々力での試合で相手は1人少ないF東京。これほど負けてはならない状況の中、川崎Fはジェシまでもを前線にあげて1点を狙うが、試合はアディショナルタイムに突入。権田に「サッカー人生で初めて見ました。驚きました」と言わしめた6分間のアディショナルタイムも、F東京の粘り強い守備を前に川崎Fはゴールを決めることが出来ず。試合はそのまま1−0で決着する。第19回多摩川クラシコは、手負いのF東京が手にした1点を守りきり、敵地での勝利を手にした。
まだ思うように攻撃を作れてない川崎Fは、もう少しリスクを取って攻める時間帯を作らなければ苦しい戦いの繰り返しになりそう。
「こういう試合は空気が勝手に焦れてくる。それでイライラして、少しずつ難しくなるということはある」と話す西部は「複数の点が取れるようになれば雰囲気も変わると思います」と述べていた。少しずつ内容は改善されてきている。チームが好転する気配はあるのだが、まだトンネルの出口の光は小さい。選手たちをどのように組み合わせ、どこまで攻撃の質を高めていけるのか、その最適解はまだ見えない。
一方、F東京にとってこの勝利は彼らに大きな自信をもたらすものになるだろう。
権田は「勝点は3しかないですが、今日はチームがひとつになった象徴的な試合でした」と話している。また、「勝点3以上の意味があるのでは?」と問われたポポヴィッチ監督も「自分たちのスタイルを変えず、自分たちのサッカーをやり続けたながら結果が出た」ことをもって「自分たちにとって本当に大きい勝ちだった」と述べていた。ACLを戦う過密日程の中、「リカバリーとコンディショニングしかできない」と嘆いていたポポヴィッチ監督だが、そうした厳しい環境でも進歩できることを証明しているという点で、大きな勝利だった。
以上
2012.04.09 Reported by 江藤高志
J’s GOALニュース
一覧へ【J1:第5節 川崎F vs F東京】レポート:数的有利を活かせない川崎Fと、それでもリスクを取ったFC東京との、チーム力の差が出た試合。川崎Fはホームで屈辱の敗戦を喫す。(12.04.09)
- 終盤戦特集2025
- アウォーズ2025
- 明治安田J1昇格プレーオフ2025
- 明治安田J2昇格プレーオフ2025
- J3・JFL入れ替え戦
- AFCチャンピオンズリーグエリート2024/25
- AFCチャンピオンズリーグ2 2024/25
- はじめてのJリーグ
- Jリーグ×小野伸二 スマイルフットボールツアーfor a Sustainable Future supported by 明治安田
- 明治安田Jリーグ百年構想リーグ
- 2025 月間表彰
- 2025 移籍情報
- 2025 大会概要
- J.LEAGUE FANTASY CARD
- 2025 Jリーグインターナショナルユースカップ
- シャレン Jリーグ社会連携
- Jリーグ気候アクション
- Jリーグ公式試合での写真・動画のSNS投稿ガイドライン
- J.LEAGUE CORPORATE SITE













