「これがサッカー。久々に“ドーハ”を思い出しましたよ」。柱谷哲二監督は苦笑いを浮かべた。
アディショナルタイムの4分が過ぎるまで残り10秒だった。湘南が得た右サイドからのスローイン。それまで通り、岩上祐三の「ロングスローが入ってくると思った」(岡田佑樹)水戸はゴール前に人数を固めた。しかし、湘南はすぐにスローインを行い、ボールは岩上に渡る。不意を突かれ、水戸の集中力が一瞬緩んだ時であった。岩上のクロスに対してニアに走り込んだ菊池大介のマークに行け切れず、頭で合わされて土壇場で同点に追い付かれてしまったのだ。開幕から上位争いを続ける湘南の勝負強さを見せつけられる結果となった。
ポイントはその直前のプレーにあった。1点リードで迎えた90+2分に柱谷監督はDF代健司を投入。システムを4−1−4−1に変更し、守備固めを行った。「代の投入は“守れ”というメッセージだったと思う」と橋本晃司は言う。しかし、その直後、左サイドで鈴木雄斗がボールを受けると、中央のロメロ・フランクが怒涛のランニング。ゴール前に走り込んだ。その動きを見た鈴木雄はスルーパス。ボールは湘南DFの間をすり抜けていったが、フランクには一歩届かず、GKに取られてしまう。そこから湘南に反撃に転じられ、失点へつながるスローインを与えることとなった。「代が入ってきて逃げ切りということを11人が理解して戦えなかった」と石神幸征は唇を噛んだ。そして、試合終了とともに鈴木隆行は18歳の鈴木雄のところへ歩み寄り、諭すように「あそこはキープをしないと」と語りかけた。
勝ち慣れていないチームの“経験不足”を露呈して勝点2を失った水戸。確かに時間帯を考えると、2人のプレーは問題であった。だからといって、彼らの“ゴール”への意識はチームとして失ってはいけないものだ。再三チャンスを作り出したにも関わらず、追加点を奪うことができなかったことがドローに追いつかれた最大の原因である。湘南にトドメを刺そうと最後まで2点目を奪いに行った2人の気持ちも分からなくはない。そこに「戦術的な問題」(柱谷監督)はあったものの、攻撃的な姿勢を貫くことがチームの信念である限り、その姿勢は持ち続けないといけない。そして、もっと早い時間帯に追加点を奪うことができるようになることが次のステップだ。悔やまれるドローであるが、決して下を向くべきではない。
そして、下を向くような内容でもなかった。「水戸は強かった」。湘南のある選手がそう口にしたように、試合は水戸が「終始(湘南を)圧倒できた」(塩谷司)。その根幹にあったのが、水戸らしい攻撃的な姿勢であった。序盤から積極的なプレスをかけて湘南のビルドアップを封じ込め、ボールを奪ってからは果敢に縦パスとサイドチェンジを繰り出して、攻め込み、チャンスを作り出した。
62分に水戸の攻撃が実る。湘南のCKのこぼれ球を拾った水戸がカウンターを開始。その瞬間、怒涛の勢いで駆け上がったのがセンターバックの塩谷であった。中央でテンポよくボールを動かしている間にペナルティエリア内右サイドに入り込んだ塩谷へボールが送られると、「シュートを打とうと思ったけど、ゴール前に小澤が走り込んでいるのが見えた」塩谷はダイレクトでゴール前への折り返しを選択。寸分の狂いなく目の前に送られたボールを小澤司がダイビングヘッドでゴールに突き刺し、水戸が先制点を挙げた。観る者を唸らせる華麗なカウンターからの得点。マイボールになると同時に人がボールを追い越して攻め込んで行く水戸の攻撃的な姿勢が生んだゴールであった。
アグレッシブに戦う。それが水戸の信念である。前節東京V戦では試合に負けたことよりも、その姿勢を出せなかったことが悔やまれた。だからこそ、今節は期するものがあったのだろう。アグレッシブな姿勢を貫いたゆえに奪ったゴールと奪われたゴール。満足いく結果を手にできなかったものの、水戸の目指す戦いはできた。だからこそ見えた課題をこれから修正していくだけである。「全体的に内容は悪くなかったし、激しく戦えていた。球際も厳しく行けていた。次につながるゲームだと思います」。本間幸司は清々しい表情でそう口にした。胸を張ってこの結果を受け入れ、次節愛媛戦に向かうのみだ。この勝点1を巻き返しへの狼煙としたい。
ここまでわずか3敗の湘南の底力を見ることができたゲームであった。「非常に厳しい試合だった」と曹貴裁監督が振り返るように、水戸に押し込まれる時間が続いたものの、1失点で切り抜け、終盤に追いつくことができた。チームのベースである連動したプレスとパスワークに加え、ロングスローや島村毅を前線に入れたパワープレーなどの“飛び道具”を駆使して勝点1を手に入れた。チームとしてしたたかさが増していることを証明するドローであった。順位は4位になったものの、首位大分とは勝点2差。次節大分との一戦は熱く燃え上がることだろう。
以上
2012.07.09 Reported by 佐藤拓也













