Aグループ首位ながらまだ予選突破が決まっていない横浜FMと、前節で6年ぶりの予選敗退が決定した清水。普通に考えればモチベーションに大きな差のある戦いになるはずだが、この試合に関してはその考え方は当てはまらない。

そう言える理由は、清水の今のチーム状況にある。まず今季は公式戦のホームゲーム8試合で1勝しかできていないため、何とかホームで勝ちたいという思いが非常に強いこと。もうひとつは、これまで以上に大胆な選手起用が可能になったため、レギュラー陣に迫る力をつけてきたフレッシュな選手が多く出場しそうなことだ。その意味では、清水サポーターにとっても単なる消化試合とは異なる価値がある。
そんな中で、プロ初出場が期待されるのは、六平光成と藤田息吹のルーキー2人。どちらもゴトビ監督の評価が高く、とくに右サイドバックの吉田豊が出場停止の今節は、同ポジションの藤田には大きなチャンスだ。本人も「つねに準備はできているので、出られたら自分らしくアグレッシブにやるだけです」と強い意気込みを見せる。六平も第10節の川崎Ｆ戦で初めてベンチ入りしており、ゴールに直結する仕事ができるMFとして大きな期待を集めている。
「若い選手にチャンスを与えて成長させることも、ヤマザキナビスコカップでの目標のひとつ」と語るゴトビ監督としては、その2人以外にも試したい選手が多く、疲労がたまっていて休ませたい選手もいるため、ベストメンバー規定がある中で誰を使うべきか最後まで悩んでいるという状況だ。2年目の天才肌アタッカー、白崎凌兵は日曜と月曜の練習を体調不良で休んでいるためどうなるかわからないが、移籍加入の村田和哉や内田健太、昨年は特別指定選手ながら2得点を挙げた瀬沼優司らも、今後大きな戦力になってほしい選手たちだ。
20歳のGK櫛引政敏も、先週の湘南戦（ヤマザキナビスコカップ予選第6節）で好セーブを連発し、非常に評価を高めている。ただ彼の場合も、本人の調子というより、規定との兼ね合いが起用法に大きく影響することになりそうだ。

一方、横浜FMのほうは現在勝点12の首位で、この試合で引き分け以上の結果を残せば自力での予選突破が決まるという立場。もし負けた場合も、川崎Ｆと磐田どちらかが引き分け以下なら予選通過。両方とも勝った場合には、磐田との得失点差勝負（現在は横浜FMが3点上回っている）になるので、かなり有利な立場ではある。
だが、それゆえに先発メンバーをどう組むかという面では難しさがある。主軸にベテランが多いチームで、それでなくても疲労がたまっている中、この試合と中2日でアウェイの鳥栖戦（長距離移動）に連続で出場するのは負担がかなり大きい。樋口靖洋監督としても休ませたい選手はいるはずだが、万が一にもヤマザキナビスコカップでの準々決勝進出を逃すわけにはいかない。指揮官としては非常に頭を悩ませているところだろう。
また、プレッシャーという面も清水のほうが明らかに少なく、フレッシュな選手が思いきり自分の力を出せる状況にある。個の力では横浜FMが上回るだろうが、少しでもスキを見せれば、清水の勢いに足をすくわれてしまう可能性も大いにある。経験豊富な横浜FMにとっても、かなり難しいゲームと言える。

どちらが主導権を握り、どちらがカウンターを狙うのかという予想も、今回は難しい。ただ、清水としては、「今はシュート数も少ないし、お客さんは僕らが攻撃的なサッカーをするのを観たいと思います。だから、ミスを恐れずもっともっとゴールを目指していきたい」（村田）という思いもある。今季の清水はたしかにホームであまり迫力や厚みのある攻撃ができていないが、今回はミスを恐れずに思い切ってチャレンジしやすい状況でもある。
ただ、横浜FMのほうは、むしろ清水が攻めに来てくれたほうがやりやすいかもしれない。落ち着いて清水の攻撃に耐えつつ、何度か生じるであろう清水のミスやスキをついて先制点が取れれば、一気に自分たちのペースに持ち込める。また横浜FMの場合は、苦しい展開になったとしても、伝家の宝刀・セットプレーがある。
もちろん、逆に横浜FMが攻めて清水がカウンターを狙うという展開も起こり得る。だが、いずれにしても横浜FMの老獪さが勝るか、清水がそれを凌駕する勢いを見せるのかという部分は、勝敗を分ける要素としても大きなポイントになるはずだ。

以上

2013.05.21 Reported by 前島芳雄