地獄を味わった97年フランスワールドカップ最終予選を彷彿させる苦い試合だった。久保竜彦(横浜)が後半ロスタイムに挙げたゴールでようやく「勝ち点3」を手に入れた日本。だがチーム全体に攻守のバランスを欠き、パス回しやシュートのミスを連発。指揮官の采配にも不可解さを残すなど、今後に向け、さまざまな課題が浮かび上がった。
2006年ドイツワールドカップアジア1次予選の初戦・オマーン戦が18日、19時20分から、埼玉スタジアムに6万207人の大観衆を集めて行われた。日本は1−0で勝ち、ホームでの勝利という「最低限のノルマ」を何とか果たした。
2002年秋のチーム発足から1年5ヶ月。ジーコジャパン最大の目標であるワールドカップ予選が、ついにスタートした。この日の埼玉はキックオフ時の気温が7.6度と相変わらずの冷え込みだったが、スタジアムの熱気がそんな寒さを打ち消した。
ジーコ監督は前日に予告した通りの先発をピッチに送り出した。GK楢崎正剛(名古屋)、DF(右から)山田、坪井慶介(浦和)、宮本、三都主アレサンドロ(浦和)、ボランチ・稲本潤一(フラム)、遠藤保仁(G大阪)、攻撃的MF中田英寿(ボローニャ)、中村俊輔(レッジーナ)、FW高原直泰(ハンブルガーSV)、柳沢のイレブンで、「欧州組中心」という考え方は変更なしだ。
対するオマーンは基本3−5−2だが、日本の2トップと4枚の中盤にマンマークをつけてきた。ノルウェーでプレーするGKハブシ、「オマーンの中田」といわれるMFバシルらがスタメンに名を連ねた。先発イレブンの平均年齢は20.3歳と、実質的に「ユース代表」ともいえる若さだった。
立ち上がりは日本のペースだった。中村が右サイドに張り、ゴール前に何度かクロスを入れるなど、早い時間帯に得点が生まれそうな空気が漂った。しかしオマーンはそんなに甘い相手ではなかった。日本の攻撃陣6枚を徹底マーク。体を張った粘り強い守備から速い攻めを狙ってきた。相手の術中にはまった日本はリズムがつかめなくなり、パス回しのミスを連発。前々からの課題であるFW陣の決定力不足も際立ち始めた。
空回りする日本とは対照的に、オマーンはシンプルな戦術を繰り返した。ボールを奪ったら、まずはロングボールを一気に前線へ。日本の最終ラインを下げさせてスペースを作り、そこに中盤やアウトサイドの選手が入り込んで得点機を狙っていたのだ。オマーンのマチャラ監督は、日本の守備陣に高さがないことを把握したうえで、ハイボールを多用。坪井慶介、山田暢久(浦和)らがゴール前で何度か危ない場面を招いた。
それでも日本は前半29分、願ってもない先制のチャンスを得る。中村からのパスを受けた高原が強引にドリブル突破。ペナルティエリア内で倒された。かなり微妙な判定だったが、レフリーは「PK」を宣告。中村がペナルティマークに立った。ところが、レッジーナでもPKを任されるPKのスペシャリストは、予選の重圧のせいか、相手GKにコースを読まれシュートをミス。日本は前半最大の得点機を逸した。
前半は0−0で終了。不甲斐ない戦いぶりに6万人を超えるサポーターから大ブーイングが起きた。流れを変えたい指揮官は、体調不良の柳沢を下げ、久保竜彦(横浜)を投入。1点を奪いに行った。
その久保は後半開始早々、2度3度といい形でヘディングシュートを放ち、リズムを変えた。自信を取り戻した日本は積極的な攻撃を仕掛ける。25分には2列目から飛び出した中村がフリーでシュートを放つも、これも精度を欠いた。守備のミスも重ねるなど、この日の中村には輝きが見られなかった。
指揮官は19分には遠藤保仁(G大阪)に代えて小笠原満男(鹿島)を投入。中田をボローニャでプレーする守備的MFに下げて攻撃の形を作ろうとするが、練習もしていない新布陣がすぐに機能するはずがない。「いったんボールをFWに当てて中盤に戻しても、サイドの上がりが遅く、攻撃の人数が足りなかった。サイドチェンジとダイレクトパスを織り交ぜる普通の攻撃もできなかった。修正しようとしたけど、最後までできなかった」と中村は苦しい胸の内を口にした。
もはやスコアレスドローかと誰もが思った後半ロスタイム。信じられない出来事が待っていた。中村のスネに当たったボールが相手DFに当たって久保へ。フリーになった彼は、落ち着いて左足でシュート。これがゴールネットを揺らし、日本は勝たなければならない本拠地での試合をようやくモノした。
とはいえ、厳しい試合だったことに変わりはない。まず不可解だったのはジーコ監督の選手起用だ。39度もの高熱を出し、まともに戦えるはずのない宮本、山田、柳沢の3人を強行出場させたことには疑問が残る。特に山田は、登録締め切りの前日から発熱しており、メンバーから外すこともできた。にもかかわらず、指揮官は代役の加地亮(FC東京)を18人から外し、あくまで山田にこだわった。ジーコ監督にとって重要なのは、コンディションの良し悪しでなく、「自分の中のヒエラルキー(序列)」だったと言わざるを得ない。
欧州組はまさにその典型だろう。この日は稲本、中村が最後まで本調子を取り戻せなかった。それなのに、1月下旬から合宿で強化してきた国内Jリーグ組を積極起用しようという姿勢は伺えなかった。チームに合流したばかりの欧州組は連携を高める練習をしていないため、スムーズな攻撃ができないのも当然だ。中村も「前の代表みたいに、もう少しみんなが集まって練習する時間できれば、連動した攻めもできるだろうけど、そうもいかない」とジレンマを言葉にした。指揮官が「欧州組重視」を貫く限り、日本代表が抱える連携面の課題を早急に改善するのは難しいだろう。
W杯予選は今後も月1回のペースで否応なしにやってくる。シンガポール、インドといえども、アウェーでは何が起こるか分からない。初戦のラッキーな1勝に浮かれているヒマはない。目の前の課題を直視し、チームを立て直してもらいたい。
2004.2.19 Reported by 元川悦子
J’s GOALニュース
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