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【Road to J1〜2006 J1新規3クラブの過去・現在・未来〜】ヴァンフォーレ甲府:クラブ存亡の危機から5年でJ1へ(1)(06.01.19)

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2006年、J1に昇格する3クラブ<京都・福岡・甲府>。昨シーズン圧倒的な強さで3年ぶりのJ1を手にした京都、復帰まで4年という年月を必要とした福岡、そしてクラブ存亡の危機を乗り越えて初めてJ1の舞台に立つ甲府。J1昇格を果たすまでに、何を変えて何を目指してきたのか…。新シーズンを迎える前に、それぞれのクラブのストーリーを振り返りたい。

第1回目は、一時クラブ存亡の危機も伝えられたヴァンフォーレ甲府。経営危機を乗り越え、クラブはどう変わったのか。海野一幸社長を中心としたフロントから見る甲府の過去・現在・未来とは…。


「クラブ整理のためにやってきた社長」


FM甲府が流れるヴァンフォーレ甲府の事務所。山梨文化学園というカルチャースクールの一室を間借りする事務所では、海野一幸社長以下12名の職員がフロントスタッフとしてチームの運営に当たる。海野社長のデスクの後ろの壁にはホームゲームごとの観客動員数を示す赤い棒グラフが大きく張り出されている。グラフのいちばん大きな数値を7千人としていたために、グラフの棒の多くは天井に達して折れ曲がり、長々と天井を這う。今季注目を集めた試合では1万人を大きく超える集客力があることを誇っている。J1に昇格した今季、ホームの小瀬スポーツ公園陸上競技場は改修が終わり、収容人員17,000人となる。グラフの目盛りを小さくしないとさらに天井に赤いラインが伸びることになりそうだ。

昨季J1・J2入れ替え戦で勝利してJ1に昇格。大きく注目を集めた甲府だが、2000年には1億円を超える債務超過に陥り、経営危機が表面化。クラブの整理も止むなし…という状態に追い込まれていた。当時、山日YBSグループ(山梨日日新聞社・山梨放送等)の広告代理店常務であった海野社長は、クラブの整理のために兼務という形で甲府の社長に就任した。
「実質的には死んだ会社だった。整理というのは、債務超過分の返済の目途を立てながら各方面に納得してもらう形でクラブをたたむということを意味していた」と話す。しかし、01年に海野社長が就任してから、整理どころか5年でクラブはJ1昇格を果たす。経営マジックがあったわけではない。では、甲府はどう変わったのか…。そこには、今後Jリーグ入りを目指す多くのチームにとって貴重な「経験談」が詰まっている。

山梨県、甲府市、韮崎市、山日YBSグループを主要株主として97年に法人化した甲府だが、3年間で資本金(約3.3億)を食い潰し、4年目には債務超過が約1億円になった。県内のサッカー関係者やサポーターが資金カンパや署名運動を行い、主要株主四者は01年度の甲府の存続を決めていたが、「サポーター会員数5,000人以上」、「広告収入5,000万円以上」、「1試合平均入場者数3,000人以上」というハードルを02年度の存続条件とした。これらは00年度までの実績の倍にあたる数字で、当時はどれも達成不可能と思われた。達成不可能なハードルだからこそ、海野社長が「クラブの整理を任された社長」だという表現は現実的だった。
海野社長は就任後、「売り上げ増」と「経費削減」を目標に挙げたが「当時から無駄な支出はなかった」と話す。広報担当の鷹野氏は「経営危機が表面化する前から『危ない』という話は聞いていて、裏が白い紙はすべて使うほどだった」と言い、海野社長が就任する前から経費はギリギリまで削減していた。


ゴールを喜ぶ選手たちの背後には、「小瀬名物」ともいえる多くの広告看板が並ぶ
カギは「売り上げ増」にあった。海野社長は広告の販売金額を下げてでも多くのスポンサーから支援してもらうという方針を立てた。その結果が、小瀬スポーツ公園陸上競技場の名物となった120を超える大量のピッチ看板やバナー広告だ。また、「どこにでもスポンサー広告を」というアイディアのもと、試合中に準備される担架と担架を持つ高校生のビブスに地元病院の名前を入れたり、ベンチの屋根、幅跳びの砂場にも地元の飲食店や企業名を入れたりするようになった。
このときの海野社長の口説き文句が「税金として国に納めるお金の一部を、広告宣伝費として地域還元の意味で提供してもらえませんか。(広告を出してもらえば)チケットが付きますから福利厚生費でも税務申告できますよ」という言葉だった。一定以上の利益が出ている企業や商店にとって、広告料が150万円(当時)であればそれほど大きな負担とならない形でスポンサーになることが出来た。ピッチ看板を出すことはできなくてもユニフォームのクリーニング、食事、レンタカー、氷、温泉入浴、散髪などをサービス提供の形で協賛してくれる企業や商店も名乗りを上げてくれた。これまで気が付かなかった形で経費削減を果たすことができた。それが地元紙などで紹介されることで、サービスを提供してくれた企業・商店のイメージアップ効果も生まれた。また、これら協賛してくれる全ての企業・商店・団体・個人の名前を、県内で絶大なシェアを誇る山梨日日新聞の紙面に載せるなど、スポンサーにメリットを還元する積極的な姿勢がさらなるスポンサー増に繋がった。
海野社長は「例えば、年間10億円のお金を出していた親会社が、『業績が悪いので5億円しか出せない』と言ってきたら、減った5億円のスポンサー料を急には集められない。でも、1件当たりの額は小さくても、多くのスポンサーに応援してもらっていれば業績が悪くなってスポンサーを降りる企業があっても急に経営が傾くことはない」と言う。行政などから運営費を補填してもらうことができないという甲府の弱点を強みに変える。このように経営危機後の甲府は、中小の企業を中心に多くのスポンサーにサポートしてもらうことで運営費を増やし、昨年度は6億円を超える運営費を持つまでになった。


グランドを転々としながらトレーニングをする甲府。夏は練習後の汗を水道で流してきた


160名を超える登録ボランティアの存在も大きい。高校生、大学生、社会人、主婦、県のサッカー協会、行政からのボランティアも試合の運営に欠かせない存在だ。ボランティアには弁当と次の試合以降使えるチケットがプレゼントされるのだが、活き活きと仕事をこなす姿にチームに対する愛情を強く感じる。
また、開場前にスーツを着たフロントスタッフが1人もいないのが甲府の特徴。社長以下全員がジャージ姿で設営作業を行い、開場直前になってからスーツに着替える。そして、試合後は再びジャージに着替えて撤収作業を行う。J1のクラブにここまで出来るフロントスタッフはいないだろう。

今年度中には、専用の練習グラウンドとクラブハウスの工事が昭和町で着工されるが、選手もこれまでシャワーのないグラウンドを転々としながら黙々と練習して力をつけてきたのだ。置かれた環境を嘆くのではなく、そこでベストを尽くす。この姿勢が甲府の魅力のひとつだ。


◆ヴァンフォーレ甲府:クラブ存亡の危機から5年でJ1へ(2)につづく

Reported by 松尾 潤
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