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「今はこっち(愛媛FC)のスケジュールが手帳にびっしり埋まっているんですよ」そう言いながら慌しそうに現れた亀井文雄社長。その表情は、いつもの温和で溢れんばかりの笑顔だ。愛媛FCと自ら経営する亀井鉄鋼の代表取締役を兼務する亀井社長だが、現在はもっぱら営業や講演で愛媛FCのPRを続ける日々を送る。多忙ながらも、その笑顔は毎日が充実している証なのだろう。
JFLからJリーグへ。クラブの戦いの舞台は変わっても、現場の最前線に立ち続ける亀井社長に話を聞いた。
Q:現在は営業で精力的に企業を訪問されているそうですが、Jリーグ入りして営業もしやすくなったのでは?
亀井社長
「Jリーグに加入することで各スポンサー料も値上げしましたから、なかなか簡単にはいきませんね。これまでも協賛していただいていたある会社では、ご祝儀だと言ってすんなり値上げを受け入れてくれましたが(笑)。
私たちとしてはJリーグに加入したことで、今まで以上にスポンサーになっていただくメリットがあることをもっとPRしていかなければいけません。例えばスタジアムの看板広告は、JFLの時よりもTVで放映される機会がずっと増えるわけです。そういう点では、観客動員でも画期的な人数を集め、色々なところでニュースになることも必要です。『愛媛FCってすごいじゃないか』と皆さんに思ってもらえれば、お金を出してもらった価値もありますし、新規のスポンサーも増えるでしょう。今までよりもっといい広告を出したい、という話にもなるんだと思います」
Q:その広告収入も含めた年間の運営費はどのくらいになりそうですか?
亀井社長
「今季の運営費は4億円を目標にしています。Jリーグのいろいろなクラブを調査しながら設定しました。昨年は約1億5千万円ですから、4億円という数字は清水の舞台から飛び降りるような感じです。当初は愛媛FCの現状とJクラブの運営費の最低ラインから3億1千万円の計画を立てていましたが、Jリーグの指導を受け、スタジアムの整備も進んだことも合わせて上方修正しました。現実的には当初の計画でもある3億円強での収支でという気持ちもありますが、4億円は達成しなければならない目標だと思って取り組んでいます」
Q:運営費の内訳では、選手の人件費で1億円強ということですが?
亀井社長
「やはり運営費の中では、圧倒的に人件費の割合が大きくなります。できれば今季は現在所属している選手で乗り切って、来季の契約時期に予算の見直しと合わせて戦力の補強を検討していきたいですね。
今後運営費を増やしていくポイントは、やはり今季の観客動員にかかっています。ラッキーだと思っているのは、今年がワールドカップイヤーで、なおかつJ1から3チームも降格してきたことです。そういう意味ではJ2は盛り上がるだろうし、僕らも愛媛を盛り上げていかなければならないと思っています。観客動員は予定よりも多くなりそうです。もちろん今季1試合平均5千人の目標には最善を尽くします」
| 昨年12月、Jリーグ入りが決まって、サポーターから祝福される愛媛FCのフロント陣。(C)愛媛FC |
亀井社長
「余裕のある資金繰りではないので、若い選手の獲得が中心となっているのが現状です。彼らが即戦力として1年目から成績が残せるかというと実際は難しいでしょうから、チーム強化は長い目で見てほしい部分はあります。望月監督とも『半年や1年で成果を求めるのではなく、2年とか3年のスパンでの強化を』と話しています。J2から降格することはないので、思い切って若手を育てるという共通の理解でチームづくりを考えています。選手を育成しながら3年後にJ1を目指せる順位になれば…。
昨季は外国人選手の獲得にも動きましたが、選手の年俸だけではなく通訳、住まい、食事などトータルなコストパフォーマンスの面から断念しました。また、県民クラブとして愛媛県出身のJリーガーも獲得したいのは山々ですが、まだ彼らの年棒を出せるレベルになっていません。これらは次のステップになるでしょう。今季はユースからGK阿部一樹が昇格しましたが、ユースやジュニアユースからトップチームに育てることを怠ってはいけないと思っています」
Q:チームの強化では、Jリーグ加入条件のJFL2位以内を目指した昨季も苦労されましたね。
亀井社長
「新戦力として期待していた選手が、その通りの活躍をしてくれなかったこともあって苦労しました。選手はプレッシャーもあったでしょうが、特に友近聡朗、羽田敬介ら地元選手が中心になって愛媛FCをJに上げようという気持ちで戦ってくれました」
Q:一時は7位まで順位を落としましたが、昇格が見えてきたのはいつごろですか?
亀井社長
「パソコンの画面を見ながらいつもシミュレーションをして、終盤までずっと考えていました。次の対戦相手のことや、ここを落とすとまずいなぁとか(笑)。Honda FC戦(後期第14節)で負けたら、もうだめだと思っていました。次の最終戦、デンソー戦で優勝を決めたのもうれしかったのですが、やはりHonda FC戦で2位以内を確定した勝利は大きかった。僕自身も涙が出ましたが、アウェイまで来てくれた地元のマスコミの皆さんも一緒に泣いていたのを見て、そこまでの気持ちで応援してくれていたことを実感できました。Honda FCには今まで勝っても1点差、アウェイではずっと負けていた。最後に勝てたのはモチベーションの差でしょうね。僕自身は最後10試合くらい、ずっと数珠を握り締めて試合を観ていたんですよ。大学受験以来の神頼みでした(笑)。そこでようやく両肩に乗っていた荷がひとつ降りました」
Q:ほかに肩にのしかかっていた荷とは何ですか?
亀井社長
「会社組織はどこまでで確立したといえるのかわかりませんが、まだまだ愛媛FCの体制は確立していません。これを、きっちりするまでは僕の役割かなと。以前はJ2入りするまでが役割だと思っていました。しかし、システムが中途半端な状況では投げ出すわけにはいきませんし、後継者が出てくれないと引き継ぐこともできません。そのあたりは今後の課題ですね」
Q:今季はJリーグ初年度ということで、厳しい戦いが続きそうですが?
亀井社長
「厳しいなりに、楽しいサッカーをしたいですね。当然勝ちたいですが、勝負事ですから結果として負けてしまうことは仕方がない。しかし、アグレッシブで動き回るサッカーをして、負けてもよくがんばったと言ってもらえないと2度と観に来てもらえないでしょう。特に若い選手には歯を食いしばってがんばってほしい。それと、やはりJリーグ入りで先を越された徳島と草津には負けたくない気持ちはあります。四国ダービーと温泉ダービーは全部勝ちたいですね」
Q:最後に、サポーターの皆さんにメッセージをお願いします。
亀井社長
「友近選手は愛媛FCを通して『愛媛のディズニーランドをつくりたい』と語っています。これにはサッカーを観戦に来ることで非日常的な体験をして、例えばスタジアムで興奮したとか、あるいは知らない隣の席の人と肩を抱き合ったとか、スタジアムでのふれあいが楽しいと思えるようになってほしいという意味があると思います。ですからサッカーを知っている人はもちろん、知らない人もぜひ一度観に来てほしいと思います。コアなサポーターにはもっと試合会場を盛り上げて、選手たちを発奮させていただきたいですね。プロになったとはいっても県民クラブですから、今後も愛媛FCはみんなで盛り上げてもらえるクラブでありたいと思っています」
| 亀井文雄(fumio KAMEI) 1954年生まれ、愛媛県松山市出身。中学生の頃からサッカーをはじめ、1997年までは地元のクラブでプレー。左ウイングを得意とし、プレースタイルは自称マラドーナ。1985年に亀井サンキ株式会社の常務取締役、1997年には亀井鉄鋼株式会社の代表取締役社長に就任。2004年から株式会社愛媛FCの代表取締役社長を兼務。 |
愛媛FCにとっては、2006年がJリーグ百年構想のスタートになる。クラブ、行政やサポーターも含めた愛媛県全体が、今まさに3月4日のJリーグ開幕を目指して準備に追われている最中だ。
「今年1年やってみないと…」インタビュー中に亀井社長が何度も繰り返したこの言葉が象徴するように、手探りのJリーグ元年が始まる。Jリーグにフレッシュな風を送り込み、愛媛にとって飛躍の1年になることを期待したい。
以上
Interview by 近藤義博
◆【Road to J2】愛媛FC:Jを目指した12年〜県民クラブの挑戦を振り返る〜(1)
◆【Road to J2】愛媛FC:Jを目指した12年〜県民クラブの挑戦を振り返る〜(2)















