「自分自身が楽しみにしている。ワクワクしている」。岡田武史監督がメディアに対して、繰り返しているコメントが、ピッチではどのようなサッカーとなって姿を現すのか。横浜FMのサポーターは、シーズン開幕を心待ちしているに違いない。
優勝、年間勝点。もちろん数字やタイトルへの渇望はある。だが、今シーズン、どういうサッカーで、どう楽しませてくれ、どれほどエキサイトさせてくれるのか。まずチームの容貌が気に掛かる。
一般的に、変革へは構成メンバーを替える手法がとられる。ところが今シーズンの横浜FMは、ベースとなる中軸選手は動かさず、新しい幹を求めることはしなかった。大型補強をしたG大阪や浦和とは対照的で、こういうトライは岡田監督ならではの『意地』も感じさせる。昨シーズン勝てなかったこの2クラブに、どうやってリベンジするのか。単に久保竜彦の復活だけでなく、複合的な進化が必要だ。
戦術やシステムというフレームよりも、中身に重きを置く岡田監督は、活性化への第一策として最終ラインの組み替えを行なった。松田直樹の右ストッパーに、那須大亮の左ストッパー。栗原勇蔵や河合竜二もいるディフェンスラインのレベルアップにまで着手したことが、フルモデルチェンジへの本気度が匂ってくる。
「見ている人が、楽しめるサッカーをやりたい」と言い続けてきた松田の方向性が、岡田監督のベクトルと重なる気はするが、松田の攻撃能力を生かそうという狙いは、冒険であることも事実。ただ、充実から突出への階段を闊歩している中澤佑二がいれば、リスクはダウンさせてくれると読んでいるのだろう。
トップの決定力は久保以外にマルケス(元名古屋)、大島秀夫、坂田大輔と役者は揃う。問題はチャンスメイクでベテラン・ドゥトラのクロスのウエイトを減らして、アシストのバリエーションを増やせるか。これがやっかいな問題かもしれない。
リーグの後半戦が昨年のようにもつれるのかどうかはさておき、スタートである程度のダッシュは必要だ。まして、変化とチャレンジを大きく掲げる横浜FMにとって、好結果を推進力にしたいところ。その意味で、2節の鹿島戦(3/11/カシマ)がかなり大きなポイントになるのではないか。新監督を迎えた鹿島にとっても、この一戦の重要度は同じだろう。
現在、横浜FMはハードなフィジカル・トレーニングでケガ人が続出しており(それでも泰然としているところが、岡田監督の洞察力を感じさせるのだが)、ベストにどれだけ近づく布陣でオープニングカードに臨めるのかが問題だ。
クラブを強くするのは補強か熟成か。久保の真価や、岡田監督の奥行き。今シーズンの横浜FMの戦いが、いくつかのテーマに、ひとつの答えをはじき出しそうな気がする。
【注目の新戦力】
●FW 19 マルケス
相手にいると嫌な選手が、自軍に加わったとき頼もしい存在になるか。それとも、見えなかった欠点が顕わになるか。マルケスは前者であることを祈る。名古屋時代のプレーをしてくれれば、それだけで横浜FMの得点力は何割かアップできるはずだと思える。さらに坂田、大島が刺激を受けて、レギュラー競争も熱くなってくるはずだ。
●MF 13 平野孝
J1リーグ戦通算340試合出場、53得点。この人の経歴と数字はすごい。近年の横浜FMのメインテーマであったドゥトラのバックアップという宿題も解けるのではないか。年齢のことは本人の気構えの問題。31歳を自身がどう考えるか。ここ横浜FMを終着駅ではなく乗り継ぎ地点と捉えるなら、左サイドのレギュラー争いというホットな楽しみも生まれる。
●FW 17 吉田孝行
04年の大分とのアウェイ戦で決めたフリーキックの鋭いカーブ。そして中盤での有機的な動き。絡み、流れ、加速とプレーの幅とバリエーションを備えて帰ってきたアタッカー。古巣でのレギュラー確保は簡単な作業ではないが、奪い取ってやるという気迫が横浜FMの中盤、そしてオフェンスのパターンを変える。
【日本代表へイチオシ】
●MF 7 田中隼磨
2000年度に最上級生となった横浜FMユースは豊作で、ここから8人がプロになっている(7人が横浜FMへ。この他に柏に入った鈴木達也)。ただ、この中で現在の横浜FMに在籍しているのは坂田と田中隼磨の2人だけだ。やはり厳しい。いくつかの紆余曲折もありながら、田中隼は成長を続けている。レギュラーを完全に確保し、2006年はさらなるレベルアップが至上命題だ。
抜群のスタミナと高いポテンシャルを持ちながら、まだ上下動の回数やスタンドをどよめかす衝撃度が足りない。試合展開やバランス、ディフェンス時のリスク回避など、突出を押し止める理由はわかる。でも日本代表への大いなるアピールを思えば、ドゥトラを上回るクロス数、アシスト数が欲しい。
クロスの精度で注目してほしいのは、実は左足。昨シーズン、右から一度切り返してから左足で蹴るキックが、シャープでなかなか正確だった。一度マーカーを崩すために「間」が生まれたためかもしれないが、武器を多く持っているのは見ていて楽しい。
●DF 30 栗原勇蔵
「次代の横浜FMのディフェンスの柱になる」という岡田監督のコメントを、素直にほめ言葉とは受け取れない。『次代の〜』なんてコピーの曖昧さは、誰でも知っている。だいたい岡田監督自身、古河電工で1年目からほぼレギュラー、2年目から完全にレギュラーだったではないか。要するに栗原にとって松田と中澤は目標ではなく、追い落とさなければならないターゲットなのだ。彼らとのレギュラー争いが、そのまま日本代表へのアピールにつながる。
【開幕時の布陣予想】
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GKは榎本達がリード。ディフェンスラインは右ストッパーに入る松田の攻撃参加に注目。中盤のシステムは3バックということでボランチは2枚にするはず。ただしフラットにせずに、1人を少し前のラインに配するのではないか(これは昨シーズンもやっていたフォーメーション)。直前にドイツ遠征が予定されている日本代表の2人だが、中澤は開幕戦でも起用する方向だろう。久保はコンディションを見て無理はさせないはず。ベンチで置いて途中から使うか、思い切って外すか。リーグ戦は長い。先発で時間限定で使う状況では、まだないのではないか。河合、栗原、中西永輔、平野、山瀬功治、清水など、サブの顔ぶれを決めるだけでも岡田監督が頭を悩ませそうな選手層の厚さだ。
Reported by 池田博人(インサイド)
2006開幕直前 クラブ別キャンプ・戦力分析レポート














