クラブ創立10周年を迎え、サテライトリーグへの参戦やユースから初の昇格選手の誕生、そして8月には天然芝の練習場ができるなどクラブに大きな変化が訪れている。その上昇気流に乗って、記念すべき1年に花を添える結果を残したいところである。
だが例年通り、シーズンオフに多くの主力選手たちがチームを離れてしまった。関隆倫、永井俊太、須田興輔、ファビオ、深津康太、森田真吾、磯山和司…そして、昨季の大けがを乗り越えて復活の兆しを見せていた北島義生までもが移籍。これでは、大幅な戦力ダウンが予想されるのも致し方ない。
彼らの穴をいかに埋め、そしてレベルアップしていけるか。こうした状況は毎年のように水戸に襲い掛かる「宿命」と言えよう。
だが、4年目という長期政権を張る前田秀樹監督もだてではない。昨季からそうした状況を見越してチームづくりをしてきている。Jクラブの中でも予算の少ないクラブの1つである水戸は、「他のチームから選手を獲れない」(鬼塚忠久強化部長)という現状の中、若い選手を育てなければならない。昨年も小椋祥平や眞行寺和彦、金基洙といった若手を積極起用。若さゆえのミスも目立ったが、それよりもいいところを伸ばそうとする前田監督の下、著しい成長を遂げていった。彼らの成長により、「昨年よりもチームのベースは上がっている」と前田監督も胸を張る。
今季の水戸はFWの大量補強を行った。登録上だけで7人。様々なタイプのFWが揃っており、攻撃のパターンは間違いなく増えるだろう。「前線に人数をかけるサッカーをやる」と鬼塚強化部長が豪語するように、今季は2トップを採用予定。練習試合からFW陣たちが得点を奪ってアピールしており、もともと定評のある堅守に攻撃力が加わることでチーム力のアップは必至。昨季のようにチーム得点王がDF(移籍したデルリスを除くと、吉本岳史)では上位に食い込めるはずはない。上位進出のためにはFW陣の決定力が必要不可欠である。
昨季は一昨年(6勝)の倍以上となる13勝を挙げ、内容面でも確かな成長を見せた。それでも大和田真史は「まったく納得ができない」と言う。「どんな試合でも負けたら悔しい。今年は48勝する気持ちで戦う」と強く誓う。そうした強い気持ちをどれだけの選手が持てるか。若い選手たちがプレー面だけでなく、精神面でも大きな成長を遂げればクラブ創立10周年を歓喜で祝うことも決して不可能ではないはずだ。
【注目の新戦力】
●MF 15 大橋直矢
●MF 16 木村純哉
今季、水戸ユースから昇格した2人のMF。クラブ初の昇格選手だけに、フロントからもサポーターからも大きな期待を集めている。昨年、水戸ユースがはじめて県内のライバル鹿島ユースに勝利したことで彼らの注目度は上がり、2人を中心として攻撃的なサッカーを繰り広げる水戸ユースのサッカーは観る者を釘付けにした。
そんな2人だが、役割は大きく異なる。木村は天才的なテクニックを武器に攻撃を組み立てるゲームメーカー。一方の大橋は中盤の底でのハードワークで相手の攻撃の芽をつぶすボランチ。木村を「陽」と例えるなら、大橋は「陰」。この絶妙なコンビで昨季の水戸ユースを支えたように、未来の水戸を背負って立つ2人なのである。
今季はプロでの幕開けとなるわけだが、鬼塚強化部長が「まだ戦力だと思っていない。彼らは水戸の宝だから、じっくりと育てていく」と言っているように序盤戦での出場は難しそうだ。とはいうものの、練習から彼らの動きは冴えを見せている。特に木村は持ち前のテクニックを随所に披露し、異彩を放っている。フィジカル面も「オフの間、ユースの練習に混じってじっくり鍛えた」と言うように問題はなさそうだ。開幕スタメンとはいかなそうだが、必ず今季中にデビューの時は来るだろう。水戸サポーターならば、その歴史的な瞬間を見逃してはいけない。
【日本代表へイチオシ】
●DF 32 大和田真史
右サイド須田興輔からのクロスに対して、左サイドバックの大和田が頭で合わせる。流れの中で右サイドバックのクロスに対して左サイドバックが合わせるというシーンは、今の日本サッカーでは希少価値が付いている。それが見られたのが昨季の水戸であった。
大和田は本来センターバックの選手で、188cmの高さを武器に空中戦で強さを誇る。だが、昨季の序盤、水戸の守備が崩壊すると前田監督は守備に強い大和田を左サイドバックで起用することを決断する。これが大和田の転機となった。
決して足技はほめられるものではなかったが、与えられたチャンスを生かそうとミスを恐れず攻め上がり、積極的なプレーを連発する大和田。彼の姿勢に呼応するように、チーム全体が攻撃的となり前田監督の目指す全員サッカーが表現できるようになっていった。
今季はセンターバックでの起用が濃厚だが、場合によっては左サイドバックでの起用も考えられる。「昨年は勉強になったし、プレーの幅が広がった」と大和田は振り返るように、今季はさらに成長した姿が見られるはずだ。すぐに「日本代表」というのはおこがましいが、7月で25歳となる大和田が「旬」であるということだけは声高に言わせてもらいたい。
【開幕時の布陣予想】
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中盤はフラットに4枚が並ぶ形となる。中心となるのは秦賢二だろう。「総合力ではチームNo.1」と前田監督が言うように、昨季もシーズンを通して波の少ない働き。今季も彼なくして水戸の中盤は語れない。そして、ポスト永井俊太として期待されるのが権東勇介だ。道都大時代から札幌で特別指定選手として試合に出場しており、経験は豊富。正確な左足のキックと球際の強さで中盤を制圧するだろう。
センターバックは大和田をはじめ、吉本岳史、時崎悠、河野淳吾など実力者が揃っており、崩れる心配はなさそうだ。だが、層の薄いサイドバックにはやや不安が残る。金基洙、森惠佑以外にサイドバック専門の選手はおらず、今季も大和田がサイドバックに回ることもありそうだ。
「誰が出てもおかしくない」という監督の言葉どおり、全30人がスタメン候補。その高い競争意識がチームの好成績へとつながることを願いたい。
Reported by 佐藤拓也
2006開幕直前 クラブ別キャンプ・戦力分析レポート














