DF趙晟桓(チョウ ソンファン)の全北現代(韓国)への完全移籍クラブ間合意が7月29日、発表された。昨シーズンから札幌に加入し主力として活躍していたが、負傷の影響で今シーズンは試合出場を果せていなかった。
能力は間違いなく高かった。身体能力が高く、対人プレーに強い。空中戦でも抜群の強さを持っていた。石崎信弘監督も「ソンファンはJ1でも充分にやれる力を持っている」とそのパワーを評価。3バックの文化が残る韓国でプレーしていた影響から、相手選手に食いつきすぎるという課題もあったが、日本で現代的な4バックの守備戦術を身につけることができれば大きな飛躍をするのではないだろうか。そんな期待を抱かせてくれる素材だった。積極的に口にしていたわけではないが、「将来、欧州でプレーしてみたい」と目標を話していたこともあった。
その目標に筆者も乗っかりたかった。別に欧州に行くことだけが成功だとは思わないが、それでもやっぱり、宮の沢グラウンドから世界トップの地域へと移る選手がいたなら、そりゃあ素晴らしいだろう。ものすごく期待させてもらった。
そしてすごくいい人だったと思う。韓国語以外はまったく通じなかったため直接言葉を交わすことは多くなかったけど、いつも笑顔で挨拶をしてくれた。
そういえば、敗れたある試合後のミックスゾーンを彼は、あまりの悔しさからか無言で通りすぎていったことがあった。どんな日でもしっかり取材に応じてくれる選手だけに「よっぽど悔しかったんだなあ」と感じたのを思い出す。そんで、その数日後のこと。練習後、選手の話を聞こうと待っていた報道陣ひとりひとりに、彼は1本ずつ缶コーヒーを手渡してきたのだ。言葉は何を言っているのか全然わからなかったので、なんでソンファンが我々にコーヒーを奢ってくれたのかその時はまったく理解できなかった。でも、もしかしたらミックスゾーンで取材に応じなかったことを詫びていたのかもしれない、と少し経ってから思ったりした。
全北からのオファーを聞いたのは、発表の2〜3週間前だったという。現在、全北の監督を務めているチェ・ガンヒ氏は、ソンファンが水原三星でプレーしていたときのコーチで、かねてから熱心に誘われていたようだ。そんな恩師からのラブコールだったが、「最初は行かないつもりだった」と明かす。理由は「日本を離れたくなかったから」。
「サポーターの応援が本当にありがたかった。リハビリが苦しいときも、その応援が本当に力になっていた。チームメイトもそう。来日前は、日本の選手は仲の良い選手同士ばかりで集まって、いくつものグループがチーム内にできる感じだと聞いていたけど、全然そんなことはなくて、みんなとても仲良くしてくれた」
急な移籍だったし、発表当日はチームはアウェイゲームへの移動日だったため、サポーターやチームメイトとの別れがしっかりと出来なかったように感じた。でも、それがプロの世界での移籍というものだ。寂しがってばかりはいられない。事は急に動くし、すぐに次の戦いへと気持ちを切り替えなければならない。
だけど、どんな選手でも心中はきっと簡単じゃないと思う。高額なオファーを受けたり、上のディビジョンにステップアップしていったり。今回の移籍だって、日本の2部リーグから韓国トップリーグのチャンピオンチームに移籍したわけだから、ステップアップと見るべきだろう。そうやっていろんな移籍があるけれど、自分を支えてくれた人との別れを簡単に受け入れられるなんてことは絶対にないはず。その辺は、プロの世界であろうと一般世界であろうとたぶん同じじゃないのかな。
移籍が発表される前日の夕方、時間はよく覚えていないけれど、ソンファンやチームメイトで同胞のパク・ジンスとその家族たちが、宮の沢グラウンドの駐車場でみんなで缶ジュースを飲んでいる光景を目にした。特に何かを話すというわけでもなく、静かにみんなでジュースを飲んでいた。だから何だというわけではないが、とにかく、そういうことだった。
「奥さんはいまでも、日本を離れることに反対しているみたいだ」と笑って話し、ソンファンは宮の沢を去っていった。そう、もう次の戦いは始まっている。ソンファンは8月末の実戦復帰を目指し、全北は9月から始まるACL(アジアチャンピオンズリーグ)での起用を視野に入れている模様。
9月15日、ACLノックアウトステージ準々決勝第1戦、全北現代は全州ワールドカップ競技場でアル・シャバブ(サウジアラビア)と対戦する。
以上
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2010.08.02 Reported by 斉藤宏則
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