11月20日(土) 2010 J1リーグ戦 第31節
湘南 0 - 1 名古屋 (14:04/平塚/12,650人)
得点者:66' 玉田圭司(名古屋)
スカパー!再放送 Ch308 11/21(日)後08:00〜
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名古屋の快挙が懸かった平塚競技場には、サポーターをはじめ、報道陣も多数詰めかけていた。週間天気予報はよいほうに外れてくれて、秋晴れに冴えた空気が心地いい。立錐の余地なきプレス席からは、ラジオだろうか、試合の熱を伝える実況も聞こえてくる。「来季も続投が決まっている反町監督…」というくだりが耳に飛び込んできたときには、いやまだ何も決まってませんけどと、胸の内でこっそり突っ込みを入れたが、ピッチ上では互いに一瞬の隙も許さぬ集中力の高い攻防が繰り広げられていた。
それにしても、いつ以来だろう。湘南が無失点で前半を折り返したのは、ひも解けば第24節アウェイ山形戦以来のことだった。序盤こそ中村直志やケネディがペナルティエリアに進出して名古屋がゴールを脅かしたものの、湘南も都築龍太を中心に防ぎ、次第に流れを手繰り寄せていく。「ひとりが必ずボールに行き、しっかりプレッシングして守備がハマり、セカンドボールを拾うこともできた。攻撃もシュートまでやり切った」自らも前半3本のシュートを記録した阿部吉朗がそう振り返ったとおり、アクティブな守備とフィニッシュまで持ち込むチームとしての前向きな姿勢がリズムを呼んでいた。長期離脱を経て、6月のナビスコカップ神戸戦以来となる先発復帰を果たした永田亮太も、「サイドにパスを振り、またゴール前に出てシュートも撃っていきたい」と目論んでいたとおりにスパイスを効かせ、また遠藤航が粘り強い1対1から再三攻撃へと繋げたように、DF陣も踏ん張った。
ゲームを主導した湘南の一体感は、後半に入っても褪せない。前半と同じく堅守を続け、セットプレーから、あるいは臼井幸平のオーバーラップにエメルソンや田原豊、寺川能人、永田らが絡み、ゴールに迫った。かたや名古屋の攻撃は、前半から単発の印象が拭えない。ただし、その一太刀が懐深くまで達すれば決着はつけられる。この日唯一のゴールとなった66分の攻撃は鮮やかだった。自陣左サイドから阿部翔平が大きくサイドチェンジを図る。右サイドで収めたのは、直前に投入されていた杉本恵太だ。「入ったばかりだったので警戒していたが、クロスを許してしまった」と、マッチアップした古林将太は自省を忘れない。果たして杉本は前を向いてサイドを深く抉り、クロスを入れ、中央に走り込んだ玉田圭司がぴたりとヘッドを合わせたのだった。
杉本は先制点の直後にもミドルでニアポストを叩き、また再び阿部翔平のクロスに反応してゴールに肉薄した。逆に湘南はこれら名古屋の攻勢を凌ぐと、途中出場の鈴木伸貴がクロスを送り、永田や臼井、エメルソンらがミドルを狙うなどして攻め立てる。しかし相手の倍以上のシュートを放つも最後まで枠を捉えきることはできず、楢崎正剛が蹴り上げたところで長い笛を聞いた。
選手やスタッフ、そして応援に駆け付けたサポーターが喜びを爆発させる名古屋の傍らで、スタンドへ挨拶に向かう湘南に届くサポーターのベルマーレコールが力強い。「サッカーをできる喜びを表現しなければいけない」前節の清水戦後、反町康治監督は選手たちにそう話したという。果たして選手たちは、たとえば遠藤が「名古屋はレベルが高く、1対1の対応や競り合いなど勉強にもいい経験にもなった。その意味では楽しんでプレーできました」と清しさを見せたように、あるいは阿部が、「優勝は彼らが1年間シビアにやってきた結果。素直におめでとうと言いました」と讃えたように、湘南は攻守に積極性を貫き、首位チームを相手に堂々と渡り合って、自分たちのプライドを体現した。
さらに選手たちから口々に聞かれた言葉も忘れてはならない。「今後は自分たちがJ1で優勝したい」。思えば、2006シーズンの最終節でも、湘南は目の前で柏のJ1昇格を目撃した。跳躍のまえに一度ヒザを折り曲げ力を蓄えるように、振り返ればさまざまな悔しさが未来への原動力に繋がっている。あの柏戦で心新たにJ1を目指した坂本紘司は、先日もこんなふうに口にしたものだ。「いくつまでプレーできるかわからないけど、長くできたら今年のおかげだと思う。もう一度この舞台に立ちたいと思うから」。この日は出場停止でピッチに立つことは叶わなかったが、きっと心をいっそう奮い立たせたことだろう。
前節の清水戦を終え、指揮官は語った。
「今年はいろんなことを学んだ。『勉強』という言い方はよくないかもしれないが、5年分ぐらい勉強した感覚だ。人一倍努力してやってきたつもりだが、自分のなかで変化が必要だとも感じている。見方を変えれば、昨季昇格できたから降格もあるわけで、酸いも甘いもいい経験になる。J1に行ったことで見えたことがあるはず。大切なのは、ここからどう学んでいくか。クラブも、選手も、私自身も」。
早くから続投が伝えられたストイコビッチ監督とは違い、反町監督の去就はまだ示されていない。目の前で優勝を決められたその胸中も量ることはできない。ただ、J1での得がたい経験を肥やしとし、近い将来、ふたたびJ1に復帰して、この日の悔しさを、今季の無念を晴らすその道のりに求められているのは、サポーターが送った声援に明らかだ。試合後、名古屋が歓喜に揺れるなか、平塚競技場のホーム側スタンドには「反町コール」が力強く響いた。勉強の成果を発揮すべき場所は、ここだろう。
以上
2010.11.21 Reported by 隈元大吾













