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【J1:第31節 湘南 vs 名古屋】名古屋側レポート:18年目の大願成就。今季のチームを象徴する勝負強い戦いで湘南から勝点3を奪い、名古屋が悲願のリーグ優勝を果たす。(10.11.21)

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11月20日(土) 2010 J1リーグ戦 第31節
湘南 0 - 1 名古屋 (14:04/平塚/12,650人)
得点者:66' 玉田圭司(名古屋)
スカパー!再放送 Ch308 11/21(日)後08:00〜
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後半アディショナルタイム、名古屋のベンチ前が騒がしい。気づけば、控えメンバー以外の選手たちまでもがベンチ脇に勢ぞろいしている。18年越しの悲願が達成される時が、刻一刻と迫っていたのだ。湘南と名古屋の一戦に先駆けることわずかに2分。神戸vs鹿島の結果がスコアレスドローに終えたことを、名古屋のベンチは試合終了前に知ることができた。終了間際、ストイコビッチ監督がジェスチャーで「ドローか?」と確認し、笑顔を見せる。そして直後、歓喜の時は訪れた。試合終了のホイッスルが平塚競技場に響き渡ると、名古屋のメンバーとスタッフがピッチに飛び出していく。名古屋グランパス、リーグ初優勝。かつてはリーグのお荷物と呼ばれ、その呼び名を脱却した後も万年中位と揶揄されたチームが、ついにリーグの頂点を極めてみせた瞬間だった。

決して楽な道のりではなかった。数字だけを見れば31試合で21勝と圧倒的な勝ち星を挙げてはいるが、うち14試合が1点差のゲームであり、3得点以上を記録した試合は4試合しかない。美しく攻撃的なサッカーがそのメインコンセプトにあるチームだが、今季の戦いぶりを振り返れば、そこにはひどく現実的な戦い方で勝点を稼いできたシビアな勝者の顔がのぞく。田中マルクス闘莉王や金崎夢生を獲得し、リーグ屈指のタレント軍団となった名古屋だったが、その能力は全て「とにかく勝つ」ことに向けられてきたのである。

悲願の初優勝を手繰り寄せたこの日の湘南戦が、まさに「とにかく勝つ」名古屋を象徴する試合だったから面白い。2位に勝点差8をつけて首位を独走するチームと、その前の節でJ2降格が決まったチームの対戦と聞けば、誰もが前者が後者を90分間にわたって圧倒する試合を想像する。だが、机上の論がそのまま具現化しないのがサッカーである。キックオフからピッチ上で展開されたのは、名古屋の“思わぬ”苦戦だった。

名古屋は予想通りの現状のベストメンバーを並べてきた。控えには3日前の天皇杯で良い働きを見せた吉村圭司と田口泰士が名を連ねる。こうした実力・結果主義の選手起用もまた、選手の気持ちをよく知るストイコビッチ流のマネジメントである。選手間の活発な競争意欲をかき立てることで、チーム力は底上げされ続けてきた。

だが、充実の戦力を誇る名古屋も、こと優勝については未体験の領域だった。闘莉王や田中隼磨、三都主アレサンドロなど以前に所属したチームでの優勝経験を持つ選手はいたが、それはあくまで少数派。この試合に勝ち、鹿島が引き分け以下なら優勝が決まる。そうした意識が過剰な慎重さを生み、選手たちの動きを鈍らせていた。前半の名古屋はあくまでセーフティーに、ミスをしないようにとするあまりにかえって中途半端なプレーとなり、湘南に付け入る隙を与えてしまっていた。楢崎正剛を中心とした守備陣が粘り強く対応し、失点こそしなかったが、名古屋は明らかに優勝を意識して堅くなっていた。

それでも勝ってしまえるのが今季の名古屋の強みである。ハーフタイムのストイコビッチ監督の指示に特別な戦術的アドバイスはなかった。その言葉は要約すれば、「シンプルに自分たちのサッカーをやれ」ということ。45分間の苦戦を経て、落ち着きを取り戻したチームは徐々に本来の戦いを思い出していった。

そして63分、勝負を決める一手を指揮官が繰り出す。小川佳純に代えて、杉本恵太。投入直後の66分、阿部翔平の見事なサイドチェンジから抜け出すと、ドリブル突破から美しいセンタリングをファーサイドへ。DF2人の間に滑り込むようにしてヘディングでゴールを決めたのは、玉田圭司だった。今季リーグで14試合、278分の出場に留まっていた男が、起用に見事応える決勝アシストを決める。決めた玉田も見事だったが、ほぼファーストタッチだったワンプレーで結果を出した杉本の方がさらに見事だった。杉本は先制直後にも同じような流れから惜しいシュートを放つなどし、チームに漂っていた緩慢な雰囲気を一掃。スーパーサブとして局面を変える役割をきっちり果たしてみせた。

試合はその後、一時は湘南が攻め立てる時間帯もあったが名古屋が無難に対応。終盤は3バックで守備を固め、湘南の追撃を封じ込めた。そして、冒頭の場面に行き着くのである。サポーターの大歓声の中、ピッチに「名古屋グランパス、優勝です!」のアナウンスが響くと、歓喜の輪はさらに大きくなっていく。チーム全員が素直に喜びを分かち合う姿には、このチームの雰囲気の良さと、かつてない一体感が凝縮されていた。

J1リーグが1シーズン制になってから、最終節前に優勝が決まったのは初のこと。毎シーズン常に最終節までもつれこんでいた実力伯仲のリーグ戦において、8月に首位に立って以来その座を一度も譲らなかったことは、驚異の戦績といっていいだろう。また、前述した21勝という圧倒的な数字の内訳が、ホーム10勝+アウェー11勝ということも驚くべき事実だ。とにかく今季の名古屋は安定していた。新戦力が加わり、戦術的に未熟だった序盤はケネディや闘莉王のセットプレーを頼りに戦い、W杯による中断期に短期キャンプを行い戦術面を再整備した。負傷者が続出した終盤にかけてはバックアッパーたちの奮起でチームレベルを落とすことなく戦い、常に一定以上の強さを発揮することができる集団として機能し続けた。指揮官は言う。「強い信念と『ネバーギブアップ』の哲学、戦う気持ちの結晶が優勝となった。しかし継続性も重要だった」と。1年間を強者であり続けることの難しさは過去の例を出すまでもない。3連覇王者の鹿島の今季を見れば、それは一目瞭然である。2010年のリーグ戦で、名古屋は常に強者であった。

「次のステップは、まずは残りのリーグ戦3試合をしっかり戦うこと。まだまだこのクラブも大きくしていきたい。そして来季はACLもあるので、アジアでナンバーワンにもなりたい」
監督業スタートからわずか3年でリーグを制したストイコビッチ監督の野心は尽きない。その野心にほだされた選手たちもまた、それは同じことだろう。初のリーグ制覇はひとつの到達点だが、同時にスタート地点でもある。新たな歴史の始まりは、中2日で迎えるリーグ32節のF東京戦。豊田スタジアムでの“凱旋試合”である。王の帰還を待つ地元のサポーターたちの前で、2010年王者・名古屋はどのような振る舞いを見せるのか。否が応でも注目の集まる一戦は、彼らの新たな挑戦の第一歩である。

以上

2010.11.21 Reported by 今井雄一朗
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