忘れられない言葉がある。
草津が逆転勝利を飾った8月15日のアウェイ富山戦後のことだった。ミックスゾーンで取材を終えた廣山望が声をかけてきた。「伊藤さん、試合前にスタジアムの近くのコンビニ駐車場でストレッチしていたでしょ?」。一瞬何のことか分からなかったが、すぐに理解できた。群馬県から富山県までノンストップで車を運転してきて、コンビニでホッと一息。無意識で体を伸ばしていたのだと思う。
廣山の話によると、ちょうどそのとき選手バスがコンビニ横を通り過ぎたのだという。選手たちは車内から記者の間抜けな姿を発見し笑っていたのかと思いきや、ちょっと話が違っていた。「お盆なのにこんなに遠くまで来てくれていて本当にありがたかった。あの姿をみて、みんな気合を入れていたんです。今日の勝利は、伊藤さんとかサポーターのおかげですよ」。涙が出るくらいに嬉しいことを、さらりと言ってくるのが廣山の凄さだ。
こんな言葉も聞かせてくれた。
11月上旬の練習後に廣山を取材しているときのことだった。そのときは試合に向けてのコメントも取り終えて雑談に近い状況になっていたが、その言葉を即座にノートに書きなぐったのを覚えている。記者自身、少し勘違いをしていた。海外の豊富なプレー経験がある廣山にとって、国内の小さなクラブでプレーすることが、物足りないのではないかと考えていた。だが、それは間違っていた。廣山は、上毛三山に囲まれた群馬県での生活を満喫し、草津でのプレーに喜びを感じていた。
「草津は僕がこれまで在籍してきたクラブからは想像もつかないような苦労がある。それを乗り越えようとみんなで力を合わせることが大きな刺激になっている。だから刺激が足りないということはまったくない。サッカーができる喜びは世界のどこでプレーしても同じだと思うから」
この取材から約1週間後、廣山はクラブから戦力外通告を受けた。今日12月14日はトライアウトに参加している。廣山はフットボールという共通言語を携えて、再び旅へと出ることだろう。今まで選手と記者という立場で接してきたが、これからは一人のファンとして彼の冒険を見守りたいと思っている。
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2010.12.14 Reported by 伊藤寿学













