スカパー!生中継 Ch308 後03:25〜
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残留争いをするチーム・クラブに対してサポーターが持つ、「怒り」、「悲しみ」、「諦め」などの感情を封印することはできない。予算規模が小さいクラブなら「容認」という感情も入ってくるかもしれないが、感情を左右するのはその戦いぶり。甲府は名古屋、鹿島に勝ち、G大阪には2連勝するなど刺激的な勝利はあったものの、拙い試合運びの敗戦が多すぎた。降格するチーム、最後の最後まで残留争いをするチームは当然負け試合が多くなり、その姿を多く見ることになれば結局不満は溜まる。浦和であれ甲府であれ。それでも甲府のサポーターはブーイングではなく、声援でチームを後押しし続けてきた。親が子を思う様にみんな結構我慢強く見守ってきたと思う。言いたいことはいっぱいあるのに…。普通なら残留争い中に大事な試合を落とせばブーイングで選手や監督に対して不満をシンプルにぶつけるが、山梨ではサッカーはもうちょっと複雑。J2最終節で3位に滑り込んだ05年からJ1で戦った06〜07年の記憶が小姑としてチームの今を常に比較・評価するからだ。「タッチ」の「和也」や「めぞん一刻」の「惣一郎」のように、いいイメージだけが増幅される「神聖不可侵」な存在の記憶と戦うことは容易ではないことはよくわかる。あの時代だってみじめな負け試合はあったが、何故かアルバムにはいい思い出の写真が多いのだ。
佐久間悟監督は新潟戦後の会見で今年を振り返り、「守備のブロックを形成するだけでは勝ちきれない。ボールを保有する時間を長く作らないと勝ちきることは難しかった。(移籍獲得交渉で)ボールを持つことをストレスに感じず、アスリート性のある選手を取りきれなかった」という趣旨の話をし、今年9人の選手にオファーを断られたことを明かした。「(チームを車に例えると)部品の足りない車でスタートのすることになったのか」と聞くと、「部品の数が足りないのではなく、ボールを簡単に失わない戦術眼やキックの質を持ち合わせている選手(特にディフェンダー)が必要だった。それができない選手にそれを強く求めても仕方がないと思っている」と答えた。チーム作りの方向性に問題があったのではなく、選手の質が足りなかったと理解することができる。神聖不可侵時代は、選手を伸ばす、選手が「甲府で練習すれば上手くなれる」と思っていることがチームの特徴であっただけに、能力の高い選手を集めて結果を出そうとする方向性に対して神聖不可侵時代を知るサポーターは不満を感じる。「質に問題があるのなら、その選手を育てようとすればいいのに…」という思いがあるからだ。それでも残留が決まっていれば、その声は小さかったはずだ。
12月1日、練習場(昭和押原芝生G)に着く前はどんな雰囲気なのか怖くもあった。新潟戦の後は「分っている頭」を「分っていない心」が抑え込もうとしていたのだが、時間が経てば「頭」が次第に優勢になってきていたからだ。それに契約満了選手の名前が発表され、彼らの顔を見るとかける言葉が見つからない。もう1試合あるのに寂しさが心に流れ込んできて、希望を増幅する余地が小さくなっている。練習ではいくつかの組み合わせを試し、最後はかなり攻撃的な布陣で紅白戦を締めくくった。しかし、文字にしても口にしても「得失点差14」という数字は大きい。大宮対甲府戦、浦和対柏戦で、ホームチームが稀にみる大敗する試合が2つ揃わなければ――浦和にとっては悪夢でしかないが――甲府に奇跡は起こらない。「頭」が分ってしまっているのだから、取材をしていてもぎくしゃくした気分のまま。甲府の選手に「分っている頭」がその気になるようなコメントを求めようとしても難しい。キャプテンの山本英臣は「(前節の)新潟戦は誰も勝っていることに満足していなかった。J1残留を諦めていたら『いい形で締めくくりたい』とか言ったと思うけれど、可能性があるかぎりチームとしても個人としても準備する」と話してくれたが、まだ「頭」が勝っていた。前節、「90分間で後悔したい」と名言を言った片桐淳至も「『どこかで勝点1を拾えていれば』と思ってしまうけれど、この考えは封印しないといけない」と、「心」が「頭」と戦っていた。「得失点差14」をひっくり返すことが少しでも簡単に思えるようなミラクルワードはなさそうだが、それでも選手は「心」で抵抗していると思う。いつもは笑顔でコメント取材に答えてくれる井澤惇は、「できる限り攻めてみる。『無理だ』と言われてもボールを追いかける」と笑顔なしで言った。今はこの心意気で充分だろう。続きは闘争本能をピッチで見せてくれる。最初の1点を早い時間帯取れば「心」がどんどん強くなっていくはず。ただ、最初から勝つ気でいるが、大切なのはまずは1−0で勝つような入り方をして徐々に大宮の選手のモチベーションを挫き、大宮のサッカーを壊すこと。それなくして大量得点はあり得ない。そして、「運」にも加勢してほしい。
12月3日。NACK5スタジアムに入場するとき、甲府の選手が酒場の喧嘩に向かって行くみたいに肩で風を切ってピッチに入って行くのかどうかは分らないが、多くの甲府サポーターが声と気持ちで鼓舞してくれる。サッカーの迫力が最も伝わるNACK5という素晴らしいスタジアムなら一体になれる。この試合の中継の解説者が城福浩氏だということも甲府サポーターにとっては興味深いが、こっちは録画で楽しんで行ける人はスタジアムに行こう。12月3日の夜、サポーターが馴染みの店でどんな会話をすることになるのかは分らないが、最後に「心」を震わせてNACK5スタジアムを後に出来る試合であってほしい。「心」で戦うサッカーがどんなものか楽しみだ。
以上
2011.12.01 Reported by 松尾潤













