完全アウェイの地で、勝点1以上の重みを両手に持ち帰った。四方八方から飛び交うブーイングと、甲高いホーンの音が乱舞するスタジアム。試合前、フィジカルコーチがピッチに出てきただけで喉を絞って野太い声で迎えられる。アウェイゴール裏に陣取ったF東京サポーターの声は時折、間隙を縫うように聞こえてくる。ここが他人の家だと、片時も忘れることはない。
試合は、場内の雰囲気以上に最悪の展開で幕を開ける。開始10分足らずでDF加賀健一が負傷退場し、さらに1人少ない状況で続けざまにPKを奪われてしまう。先制点を許すと、スタジアムは最高潮に。熱狂と化した北京工人体育場が、選手たちをナーバスにさせてもおかしくなかった。
実際に先制点を奪われた直後は、ややプレーが縮こまった印象を受けた。相手DFとDFの間に顔を出す選手が少なく、中盤のパスコースを確保できない時間が続いた。しかし、この流れを変えたのは、前線の2人の小さなビッグプレーだった。
FW渡邉千真は再三、最終ラインと駆け引きを続けて横並びのラインを乱した。そして、その後ろでは、羽生直剛がボディコンタクトを恐れず、相手を背負った状態でボールを受けようとし続けた。激しい当たりの中、ボールキープしてパスの中継点になる。時には下がってチームのパスコースを増やすことにも気を配った。本来のF東京のサッカーを、ピッチで最も小柄な選手が体を張って示す。徐々に試合の流れを押し戻すと、一進一退となってそれまで潜めていた敵陣でのパスワークも何度か機能した。
そして、44分。耳をつんざく音に囲まれたスタジアムに静寂が訪れる。右サイドからのパスが、ゴール中央にポジションを取ったMF長谷川アーリアジャスールの足元に届く。懐を深く使って左側にボールを置く。左足インサイドで放ったボールは、鋭く弧を描いてゴール左へと吸い込まれていった。ゴールを決めた殊勲者は「完全にコースが見えていました。ボールに当てるだけで力も入れずに蹴れたと思います。コースも良かったですし、自分のゴールというよりは、それまでのつなぎがあってこそのゴールだったと思います」と、チームで奪った得点を強調する。最後尾のGK権田修一は、音が消えたその瞬間を「超気持ちよかった」と振り返った。
後半も攻防は続いたが、試合の主導権はどちらが握ったとも言えない展開だった。自分たちの土俵に引きずり込むまでには至らなかった。しかし、相手の土俵の中でも、体をぶつけて後半は球際も激しく戦い抜いた。北京は終盤、ダブルボランチの配給力を生かすために前線のキャラクターを変えた。速さと高さを生かすダイレクトプレーへと傾いたが、その応対もしっかりとできていた。1−1でゲームを終えて完全アウェイの場所から勝点1を持ち帰ることに成功した。同時に、悔しさと、手応えが残った。それが大きな収穫となった。
最後まで戦う姿勢を貫いた姿は、選手の入れ替わりもあったが、2010シーズンに脆弱さを露呈していたとは思えないチームになった。そして、自分たちのサッカーに立ち返れば、必ず得点へと近づく成功体験も得た。1勝2分で蔚山とは勝点で並んだままだが、グループ首位は守った。当地で吸った空気と、体験はきっと得がたい経験値となって蓄積されていくはずだ。多くの選手は戦いを振り返って「次に繋がった」という言葉を使う。何も得ずに帰る選手たちは、その言葉をきっと使わない。
以上
2012.04.05 Reported by 馬場康平
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