城福浩監督が甲府の監督に就任して驚いたことのひとつが、スタッフの数の少なさ。ただ、Ｊ２クラブの中で甲府だけが飛び抜けてスタッフが少ないわけではない。富山の安間貴義監督が「Ｊ２の中では甲府はビッグクラブですよ」なんて言うほど。京都や千葉の腕力には全く及ばないが、確かにＪ２の中では上位にいる。でも、甲府が大変なのは複数の練習グラウンドを渡り歩くということ。以前よりはかなり固定されてきたが、グラウンドが替わる時は荷物を置きっぱなしにできないので、全てを回収してトラックに積んで次の場所で広げるということを繰り返す。主務と副務の２人でよくやっていると思う。昨年からは主務の鶴ちゃん（鶴田好樹）がホペイロの役目も果たしている。選手のスパイクの手入れもするようになったのだ。でもこれが…。

「鶴ちゃん、毎日何足くらい手入れするん？」
「そうですねぇ。30足くらいですね」
シュパー、シュパシュパ、シュパー（スパイクに付いた芝生を飛ばすエアコンプレッサーの音）
「面倒にならへんの？」
「俺、スパイク磨き好きだから全然なりませんよ」
シュパー、シュパシュパ、シュパー
「ふーん、（荻）晃太も出すん？」
「そうですね、練習用は置いていきますよ。試合用は自分でやってますね」
シュパー、シュパシュパ、シュパー
「さすが、晃太やね。そのへんのこだわりがイイ感じやね」

なんて雑談をしていると広報が、「城福監督の囲み取材を始めま〜す」と声を掛けてくれるので監督の元に集合する。何人かの記者で次節のことについてひと通り質問を終え、最後は雑談を少しして囲み取材を終了する。そして、家に帰って録音したＩＣレコーダーをパソコンに繋いでコメントを起こすのだが、ここでエライことなっていることに気がついた。

「次節の対戦相手の特徴は？」
「そうですね〜、『シュパー、シュパシュパ、シュパー』、という部分が注意点ですね」
「甲府として、どう対応する考えですか？」
「それは、『シュパー、シュパシュパ、シュパー』という対応ですね」
「へー、そうですか。ところで甲府以外にどんなクラブから監督就任のオファーがあったんですか？」
「それはですね、『シュパー、シュパシュパ、シュパー』ですね」
「ほほっ〜、すごいですね。ところで五輪代表チームの戦術ついては、どんなことを感じていますか？」
「個人的には、『シュパー、シュパシュパ、シュパー』と感じてます」

城福監督は他所に迷惑がかかるような質問には答えないので後半は仮定の会話だが、10メートル以上離れている鶴ちゃんが使うエアコンプレッサーの音が目の前の城福監督の言葉をかき消すとは思ってもいなかった。
（鶴ちゃん、大事なトコロがエアコンプレッサーの音で聞こえん〜）と心の中で叫んだ後、必死で思い出し、泣きながら原稿を書きました…。これも甲府にＪリーグがある幸せ？

以上

2012.04.05 Reported by 松尾潤