19回の歴史を持つ多摩川クラシコではあるがこの舞台を経験したことのない選手が思い入れを持てなくても仕方無い。しかし、加入直後のレナトが「ブラジルにもそうした試合はあるし、集中したい。大切なゲームなので、準備してゴールしたいと思う」と発言。また森下俊も「クラシコは盛り上がると聞いていますしがんばりたいと思います」と述べている。多摩川クラシコが、クラブ主導で作られたイベントであるのは間違いない。ただ、そのイベントに意味が与えられ、価値が作られつつあるのも事実。時間と行いの蓄積が歴史になるのだとすれば、そうやって試合の価値がリアルタイムに作られている現場に居合わせる幸せは、この時代を生きる我々にしか味わえないものである。1年ほど精神修養の旅に出ていたFC東京が戻ってきたことで、2年ぶりに開催されることとなった多摩川クラシコの今季の第一ラウンドがいよいよその戦いの火蓋を切って落とされる事となった。
守備面の安定を意図したチーム作りを進めてきた川崎Fは、その意図通りのチームになりつつある。東日本大震災の影響によりイレギュラーな日程になった昨季は、開幕からの4試合で4失点。そのディフェンスは、今季ここまでの4試合で2失点と改善が感じられる。特に開幕戦と2節はリードした終盤に稲本潤一を投入。中盤を3枚に増やす思い切った采配によって1点を守り切る「らしくない」戦いを遂行した。
泥臭く勝点を奪い取ろうとする戦いは結果を出しつつあるが、その一方で、攻撃が思うような迫力を出し切れていないのが気になる。シュート数自体はコンスタントに2桁に載せており、開幕からの4試合で63本のシュート数となっている。相馬直樹体制初年度の2011年が58本だっただけに、客観的な数字として増加している事がわかる。ただし、シュート数ほどには攻め込んでいる印象がなく、試合内容としても決していい訳ではない。シュート数に対し、得点が思うように伸びなかった昨季を省みて獲得した攻撃陣が必ずしも結果を出せていないところに問題が見られる。たとえばレナト。もちろん彼のアシストにより開幕ゴールを決めた實藤友紀をして「触ればゴールになる」というFKによって攻撃面で貢献しているのは間違いない。ただ、ジュニーニョのような、エリア内に侵入し前を向いてシュートを放つ場面が少ないのが気になる。浦和戦の矢島卓郎へのアシストを決めた小松塁も、彼自身はここまでノーゴールであり移籍後初ゴールを期待したい選手である。
安定感を示す守備に対し、攻撃面に問題を抱えているのはチーム内の共通理解となりつつある。たとえば相馬直樹監督は「ネガティブな話ではない」と断りつつも「ゴールを奪われてないが、チャンスも作れてない」とチームの現状を認識。「前には進んでいるが決めるところで決めきれていない。チャンスを増やさないとと考えている」と話している。
攻撃に関しては田坂祐介も「今、自分たちの課題が攻撃にあるのは分かっている。攻撃に比重を置きたいと思っている選手もいる」と話している。だからこそ、攻撃の改善を意図した練習を増やし、チーム内にその意識を浸透させようとしている。
もちろんそうした練習が簡単に効果を出す訳ではないが、浦和を圧倒した4節を前に攻撃練習を増やしていたこともあり「いい時間帯も出つつある」と相馬監督は話していた。ここまでの試合の中で、攻撃練習の成果は出つつある。チーム内に攻撃を改善したいと考える声が充満し、それを実行するための練習が行われ、それが形となりつつある。そして相手はポポヴィッチ監督率いるFC東京であり、激しい打ち合いになる可能性は十分。だからこそ「(攻撃が)爆発する試合になるかもしれないし、そういう(部分を引き出してくれる)相手だと思う」と田坂は話していた。
強風による交通機関の乱れもあり広島までの遠征に川崎Fが9時間をかけ、ヤマザキナビスコカップを戦う一方で、FC東京は北京まで遠征し激しいACLを戦っている。そういう点では、お互いに万全なコンディションにないのは間違いない。ただ、この試合は多摩川クラシコである。FC東京としても内容は度外視してでも、結果を求めてくる戦いになるはずだ。
天皇杯を獲ったFC東京は、ポポヴィッチ監督を招聘しより強いチームへと進化しつつある。人とボールとが連動する時間が増えつつあるFC東京のサッカーは、まだまだ熟成の余地を残している。今の場所に留まっていないという点で怖さを持つが、そんなFC東京の鍵を握る選手として名前を上げておきたいのがルーカスである。
昨季京都の一員としてFC東京と対戦し、天皇杯を含め3度敗れた経験を持つ森下俊が述べる。
「ルーカスは足元にボールが収まる。取りに行こうとしてもうまく体を使われて持たれてしまうし、そこからが早い」と警戒する。ルーカスが収めたボールを、2列目の選手が絡む攻撃はまさに脅威である。スピードの石川直宏が前線をかき回し、ドリブラーの谷澤達也がエリア内への侵入を狙う。スピードアップした攻撃を落ち着かせる梶山陽平の冷静なフォローもある。もちろんルーカス自身のシュートにも警戒が必要であるのは言うまでもないだろう。
その一方で、五輪代表の権田修一が最後尾に控える守備陣も森重真人や徳永悠平、高橋秀人といったJ2を戦い抜いた選手に、新加入選手の力を得て強化されている。そういう意味では難しい戦いになるのは確実である。
ちなみにポポヴィッチ監督というと川崎Fが優勝を狙っていた09年の戦いがどうしても頭に浮かぶ。当時最下位だった大分とのアウェイでの試合は、その順位に相応しくない戦いを大分が見せ、内容で川崎Fを圧倒。スコアこそ0−1だったが、川崎Fにしてみれば精神的にも、そして勝点的にも大きな敗戦となった。この試合の結果、川崎Fは鹿島に順位を逆転されそのまま優勝を逃してしまう。FC東京に同一シーズン中に3敗を喫した森下俊がリベンジを期する以上に、川崎Fはポポヴィッチ監督に対し強い思いを持つ必然性があるのである。
多摩川クラシコは、その背景に重い意味を加えながら2年ぶりに19回目の戦いを迎える。プライドをかけた戦いを制するのはどちらになるのか。本当に楽しみな一戦である。
以上
2012.04.07 Reported by 江藤高志
J’s GOALニュース
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