「“Vゴール”!」
森下仁志監督が高らかに宣言する。今季、ゲーム形式の練習では必ずといっていいほどスコアをカウントしている。ヤマザキナビスコカップ・広島戦の翌日。中2日で迎えるホームゲームに向け、広島戦で出場のなかったメンバーが行っていたミニゲームは終盤戦を迎えていた。指揮官からの合図は文字通り、ここからは先にゴールを決めたチームが勝利する“Vゴール”方式へ突入したことを意味する。選手の“本能”をくすぐる指揮官の細かい“仕掛け”に最も敏感に反応したのは、先週復帰したばかりの山崎亮平だった。
対面する相手に直線的にドリブルを仕掛け、半ば“なぎ倒す“ようにゴール前へ迫ると、冷静な切り返しからシュート。一度は相手にブロックされたものの、そのこぼれ球を冷静に流し込み、“Vゴール”を決めて見せると、ここで全体練習終了のホイッスル。突破を食い止めきれなかった選手は転がってきたボールをゴールへ思いきり蹴り返し、悔しそうに声を上げる。
新体制となり、今季改めて強調されるようになった“球際”だが、山崎にとっては特別なことではなく、幼いころから体に染みついているごく自然な感覚なのかもしれない。そして、その荒々しさとは対照なゴール前での落ち着き――。指揮官をうならせる選手がまた一人チームに戻ってきた。
2月上旬。ロンドンオリンピックアジア最終予選・U-23シリア代表戦で左腕を骨折。今季より磐田のエースナンバー「9」を背負う若きストライカーはシーズン早々に全治2か月という大けがを負うことになった。
負傷の数日後にオペを行い、退院すると、向かった先は磐田のキャンプが行われている鹿児島だった。「試合や練習を見ることができるし、新加入の選手と一緒に生活できることもいいこと」と合流の理由を話し、「早く治したい」と半ば、祈るように語った。ただし、できるメニューは限られている。その一つが、練習が行われているピッチの周りの陸上トラックを歩くという地味なものだった。自由に動かせる右手でボールを大事そうに抱え、時折、バスケットボールのようにトラックに弾ませながら、一人、ゆっくりと歩いていく。ピッチで行われている練習の雰囲気をすぐそばで感じ取り、それを忘れまいとしているようにも見えた。両足は今すぐにでもボールを蹴れる状態にある。サッカー選手であればだれもがそうかもしれないが、人一倍サッカーを愛し、サッカーと共に人生を歩んできた山崎にとって耐えがたい苦痛だったかもしれない。「試合に出たいという思いは常にありました」。リハビリ中、彼の支えとなっていたものは実戦への“飢え”だった。
「挫けずにやり続けていた」。
リハビリを続ける山崎を、森下は静かに見守り、時折、声を掛けてきた。横浜FM戦を前日に控えた20日、指揮官は「“全快”には達してない。ただ、練習で能力の高さを随所に発揮してくれている。あとはその回数を増やすだけ」と彼の状態を説明し、最後にこうエールを送った。
「この苦労がこれからに生きてくる」
負傷から2か月ほど経過したヤマザキナビスコカップ・広島戦。ベンチメンバーに山崎亮平の名前があった。復帰後初となる公式戦のベンチ入りである。出場こそなかったが、磐田の“背番号9”としてのシーズンが始まった瞬間だった。
この試合、ホーム・ヤマハスタジアムに迎えるのは今季開幕から公式戦9試合未勝利の横浜FMだが、中澤佑二、栗原勇蔵という両センターバックはやはりハイレベルであり、Jリーグ屈指である。磐田の攻撃陣とのマッチアップは白熱したものとなるだろう。横浜FMはリーグ戦では08年以来、ここ7試合で磐田に負けがないどころか、5勝2分と大きく勝ち越している。大黒将志、小野裕二、齋藤学といったアタッカー陣はクイックネスの面では磐田の最終ラインを上回っており、守備陣が前田遼一ら磐田アタッカー陣をしっかりとケアし、失点を許さずにゲームを進めることが勝利への鍵となるだろう。何よりしばらく勝利から見放されているだけに、白星への意欲は人一倍持っているだろう。互いに譲れない一戦となることは間違いない。
以上
2012.04.20 Reported by 南間健治
J’s GOALニュース
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