神戸サポーターによる大久保嘉人へのバースデー・コールを経て始まった札幌との一戦。その期待に応えるように、神戸は前半のいい時間帯に大久保が2ゴールを挙げて試合の主導権を握りかけた。だが、結局は札幌に追いつかれてドロー。神戸のモチベーションが低かったわけではないが、前節わずかシュート1本で大敗した札幌の方がこの試合への気迫が感じられた。札幌のGK杉山哲は試合後に「僕たちにとって今日は消化試合ではなかった」と振り返っている。
前半の立ち上がりは、神戸がいいリズムを作った。特に右サイドハーフの野沢拓也とボランチの田中英雄がバランスよくポジションチェンジを繰り返し、そこに大久保が絡み、札幌に攻撃の起点をしぼらせなかった。このトライアングルを軸に、前線の都倉賢と小川慶治朗、両サイドバックの奥井諒や相馬崇人が攻撃に加わり、厚い攻撃をみせた。
12分には左サイドで野沢からタテパスを受けた大久保が、中央へカットインして強烈なミドルシュートを放つ。札幌のGK杉山が弾いたセカンドボールを神戸の田中がペナルティエリア内で拾い、札幌の榊翔太がたまらずファウル。PKチャンスを得た神戸は、それを大久保が冷静にGKの動きを見てゴールへ流し込んで先制。続く20分には田中からのショートパスを野沢がワンタッチでゴール前に浮き球を入れ、都倉が頭で落としたところを再び大久保が決めた。ポゼッションしながら、崩しの場面ではスピードアップや一瞬のひらめきも見られ、大久保も「前半の入り方は良かった」と振り返っている。パスミスなどの細かい課題はあったが、神戸が目指すスタイルの一端を見ることができた。
だが、あっさりと2点を奪ったことが逆に神戸のリズムを狂わす結果に。一気に3点目を奪いに行くのか、それとも一度ゲームを安定させるのかといった迷いが選手間に生じたように思われる。この時間帯について、神戸の西野朗監督は「久しぶりの先制点、追加点も奪えて、自分たちのペースに引き込めそうないい時間帯もあった。だが、その後は中途半端な圧力の掛け方になり、ワンプレー、ワンプレーの切り替えが全体に遅れた。(中略)その辺のゲームコントロールの悪さがあった」と振り返る。3点目を奪いに行った攻撃陣、ゲームを落ち着かせようとした守備陣。そんな意識レベルのズレで生じたエアポケットのような時間帯を、札幌は見逃さなかった。
35分。札幌はMF岡本賢明のスルーパスを受けた榊がペナルティエリア内にドリブルで侵入。一度は神戸のGK徳重健太にシュートを弾かれたものの、再び榊がセカンドボールを拾ってボレーシュート。やや当たり損ねのシュートはGK徳重の頭上を越えてゴールネットを揺らした。榊は試合後「自分のせいで先制点(PK)を取られたので、なんとか返したかった。でも、1回目のチャンスでしっかり決めとかないとダメですね」と笑顔で振り返っていた。その榊のゴールからわずか2分後の37分。神戸のCKをキャッチした札幌の杉山が、瞬時の判断で前へ走り出していた岡本へ素早くフィード。それを岡本が一気にカウンターを仕掛け、最後は豪快なミドルを叩き込んで札幌が試合を振り出しに戻した。「僕がボールをキャッチした後、(岡本選手が)すぐに動き出してくれていたし、神戸の選手も全く付いてこなかった」とは絶妙のフィードを見せた杉本の見解。神戸の田中は「(あの場面は守備の)枚数が足りていなかったわけではないし、右利きの相手選手が左足でボールを持っていたから、大丈夫かなという落ち着きもあったと思う」と話す。もちろん、神戸の集中力が切れていたわけではないだろうが、「今日は消化試合ではなかった」(杉山)という高いモチベーションで挑んだ札幌の方が、この場面に関しては一枚上手だった。
後半は神戸が自由にボールを回す展開となった。10名以上のケガ人を抱える札幌は、この試合が公式戦初出場となる小山内貴哉ら若手も多く、湿度70%の蒸したピッチでの戦いは容赦なく彼らの体力を奪った。足を吊る選手も見られ、全体的に札幌の足は止まってしまった。そこを神戸が押し込み、面白いようにショートパスが回る。だが、ボールは回るが崩せない。ヨコパスでサイドを変えても、決定的な裏へのラストパスが出ない。ただボールを回すだけの神戸に、サポーターからは展開を促すような指笛が飛ぶシーンも。左サイドバックの林佳祐、MF朴康造、MF森岡亮太を投入して崩しに掛かるが、最後まで粘る札幌を崩せないまま神戸は痛いドローゲームとなった。
札幌の石崎信弘監督は「初めて出る選手もいて、こういう暑い中での戦いとしては非常に良く戦ってくれたと思います。次回からリーグ戦がはじまりますが、今日のような粘り強い戦いができるようにしっかりと調整していきたい」と朗らかな表情で振り返った。
神戸の西野監督は「ペナルティエリアの外ではボールは動いていた。そういう中でのミドルシュートやサイドアタックなどをみんなが同じ絵を持ってやっていく必要がある」と、後半の戦いについて苦い表情を浮かべた。
予選リーグ敗退が決まっている両者にとって、今節はリーグ戦へつながるような内容が求められたゲーム。リーグ再開へ向けて弾みを付けた札幌に対して、神戸は課題が浮き彫りとなった。この段階でどちらが有益かどうかは分からない。その判断は両チームの今後の動向に委ねたいと思う。
以上
2012.06.10 Reported by 白井邦彦













