今季からサンフレッチェ担当となった地元紙の若い記者が今週、練習の取材中にポツリとつぶやいた。
「川崎F戦でエースの爆発、あるんじゃないですか」
佐藤寿人の練習での雰囲気、醸し出す空気感、そして表情をファインダー越しに見た時、そう感じたと言う。筆者が「彼が点をとったら、このことを書いてもいい?」と聞くと「2点とってくれたら」と彼は答えた。
そして佐藤寿人は2点を奪う。まずは15分、今季13点目。狙いは、バックパスを受けたGK西部洋平だ。
この時、西部はボールコントロールを意識しすぎたのか、ヘッドダウン。そのGKの様子を確認し、選択を読み切っていた佐藤のしたたかさは、西部の持ち出しが少し大きくなった隙を見逃さない。必死のスライディングを見せたGKの後悔を倍増させるかのように、佐藤の左足から放たれたボールはネットへと吸い込まれた。
その4分後、今度は「美しい崩し」の主役として、紫のエースはまばゆい光を放つ。そのストーリーをご紹介しよう。
後ろで3バック+森崎和幸でキープする広島独特のポゼッション。「ボールをとりに来ないなら、ずっとこうするよ」というメッセージを発するかのごとく、ゆっくりと、ゆっくりと。
苛立ちを爆発させるように、川崎Fの前線がプレスをかけ始める。だが、そこが広島の狙い。前線の圧力と比例して開く中盤のスペースに佐藤が下りてくるその瞬間、森崎和からスピード・コントロール共に最高のクサビが入る。
井川祐輔のマークをワンタッチで無力化し、サポートした石原直樹からのリターンをワンタッチパス。佐藤のダイレクトプレーが、川崎Fの左サイドを切り裂いた。受けたのは、負傷のミキッチに代わって今季リーグ初先発となった石川大徳だ。
今季、最高のコンディションでプレーできている佐藤は、昨年はほとんどできなかった居残り練習を積極的に行っている。そのパートナーに指名されるのが、開始2分で驚愕のJ1初得点を叩き込んだ清水航平であり、石川であった。「クロスは、どこに入れるべきなのか」。ストライカーの立場から、何度も何度も佐藤は要求し、若者たちはエースの厳しい求めに歯を食いしばってクロスをあげ続けた。そのレッスンが、このシーンでは活きた。
ボールは、マイナス方向にフワリとあがった。自陣のゴールに向かって走っていた川崎Fの守備陣は急転回を余儀なくされるが、勢いづいた人間の身体は急には止まれない。それは、物理学の問題。重心がゴール方向にかかったDFは、石川のクロスに競りにいけない。中央にあいたスペースに「寿人さんがくる」とイメージしたクロス。エースが叩き付けたボールがネットに飛び込む軌道を、西部もDFも、ただ見送るしかなかった。
勝負はこの19分間でほぼ決した。広島の勝因は、スカウティングによる分析も含めた「知性」と「コミュニケーション」だろう。先制点は川崎FのCKでの守備陣形を分析し、「最初の1本目はチャレンジする」(高萩洋次郎)という共通認識がスーパーゴールを生んだ。シューターを清水に決めたのも、元FWとしての得点感覚とキック精度の高さを周囲が認識していたからだ。
2点目も「後からつなぐ」川崎Fのやり方を認識した結果であり、3点目は緩急をつけたパス交換で相手をゆさぶる広島のお家芸。前半の守備の課題を試合中に修正できるのもインテリジェンスの賜物。その知性を支えるのは、高い技術とチームの絆。広島の闘いには、チームスポーツたるサッカーの魅力が凝縮している。
川崎Fもチャンスがなかったわけではない。9分に放った小林悠の決定的なシュートが、西川周作に防がれていなかったら。26分、レナトがフリーで撃ったシュートが枠を捉えていたら。「(失点も)取り返す力はあるが、最後のプレーの質が」と風間八宏監督が嘆いたが、その悩みは多くのチームが抱える類のもの。本当の意味で試合の主導権を握り、引いた相手から得点を奪えるようになるには、やはり時間がかかるもの。それでも風間監督は、田中淳一や楠神順平をはじめ、若い選手たちを積極起用しながら、ブレることなく理想を求めていくだろう。その信念がチームをどう導くのか。川崎Fの進む道はやはり注目せねばなるまい。
広島の首位は2002年第1節以来。第5節以降では優勝した1994年ファーストステージ以来18年ぶり。「風間監督との対決で首位に立つのが運命のような気がする」。前述の若い記者の先輩が語った「予言」が当たった。
2度にわたる降格。上位争いすらできない屈辱。常に「残留」を意識する日々を乗り越えてきて手にした頂の座。途中経過とはいえ、感慨が深くなるのは当然だ。もちろん今後は全チームの標的は広島。厳しくもしびれるステージが待っている。しかし、森崎和幸は言い切った。
「今のチームは、最高に団結している」。
1999年デビュー以来、広島の苦闘を体験してきたベテランの言葉を、選手もサポーターも信じている。
以上
2012.07.15 Reported by 中野和也
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