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【J1:第18節 名古屋 vs 仙台】レポート:プラスもマイナスもある“両者痛み分け”。順位を落とし、負傷者も出した名古屋と仙台だが、次へつながる素材は手にした。(12.07.15)

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勝敗のアヤを知る強豪ならではの“割り切り”が、ストレスの溜まるスコアレスドローを演出した。その代償は、名古屋は勝てば仙台に勝点差4に迫ることができるチャンスを逃したこと、仙台は2節から守ってきた首位の座を明け渡すこととなった。気温27.8度、湿度80%という厳しい環境もそれを助長したことは確かだが、それ以上にスコアレスの試合を生んだのは、「これでいい」という思考回路だった。

仙台にはアウェイで0-4の惨敗を喫している名古屋は気合十分にホームゲームを迎えていた。負傷欠場が心配されていたダニエルも無事にスタメンに名を連ね、出場停止のダニルソンのところに田口泰士を起用した以外は、前節と同じメンバーで首位打倒を目論んだ。その思いは想像以上に強く、前日にはストイコビッチ監督が練習後に「明日は2万人では足りない。3万人来てほしい」と報道陣を通じてサポーターに訴え、リベンジの後押しを願ったほど。この日の入場者数は24397人と希望には届かなかったが、サポーターはキックオフ前に「+3」というコレオグラフィで応えるなど、名古屋の雰囲気は非常に良いものとなっていた。

対する仙台は富田晋伍が負傷で前日に出場を断念するアクシデントに見舞われながらキックオフを迎えていた。代役は左サイドバックでの出場を予定していた田村直也で、それが言い渡されたのは当日のミーティング。もともと出場停止の鎌田次郎のポジションにボランチの角田誠を起用していたため、仙台は前節からボランチ2名とCB、SBそれぞれ1名を入れ替える形で臨んでいた。自慢の堅守を支えていた中盤のフィルター2枚の不在は、言葉や態度には表さなかったが、この日の大きな懸案事項だったはずだ。

立ち上がりからゲームは拮抗した。前述の暑さに加え、ピッチ状態も良くなく選手の動きが鈍い。名古屋は3トップの両ウイングをワイドに、そして高い位置にポジションを取らせることによって仙台のサイドバックをけん制。U-23代表帰りの永井謙佑と同期の金崎夢生を急先鋒に、小川佳純と藤本淳吾が積極的にDFラインの裏を狙う。押し込まれた仙台はダニルソン不在で守備力の落ちたバイタルエリアを起点に、赤嶺真吾とウイルソンのカウンターで対抗。この日のフォーメーションは4−4−2だったが、試合の経過とともに梁勇基が中央でボールを受ける回数が増え、“前線基地”としての役割を果たすようになっていった。

しかし、両チームともに決定機が生まれない。理由はそれぞれだ。仙台は押し込まれた展開になったことで選手間に共通の認識が広がった。その認識とは「クロスは上げさせても最後のところはやらせない」(仙台・菅井直樹)というもの。手倉森誠監督は「名古屋は3トップ、そしてインサイドハーフの小川、藤本がストロングポイントで裏は与えたくない。そうなれば下がらざるを得ない」と補足した。必然的に仙台は守備時にはいわゆる“ベタ引き”状態になり、攻撃はカウンター頼みになっていった。

そうなれば名古屋の攻勢は必至だったが、その効果が上がらない。中央で待つケネディの高さは間違いなくアドバンテージであり、サイドで起点を作れていることは決定機へ直結する要素のはず。だがウイングが両サイドに張っていることでケネディのサポートが減り、上げるクロスの精度が普段以上に必要になってしまった。仙台の渡辺広大と角田は余裕をもって2人でケネディに対応すればよく、GKの林卓人とともに落ち着いた守備を展開できていた。仙台の攻撃を封じた名古屋だったが、その代償として破壊力抜群のケネディと永井のコンビネーションを失ってしまい、ゴール前に脅威を生み出すことができなかった。

後半へ向かうチームに両指揮官は継続を指示した。ストイコビッチ監督は「我々のペース」とし、「サイドチェンジでスペースを空けろ」とし、手倉森監督は「焦れずに集中しよう」と守備から入ることを確認している。つまり前半の展開の中で、何かしらの違いを生んで勝点3を手に入れろということだ。だがその思惑は半分しか達成されなかった。得点だけが生まれなかったのだ。名古屋の攻勢はさらに強まったが、サイドからの高精度クロスがピンポイントで合うのを待っているような攻撃では効率は上がらない。藤本も「わかっている状況からのクロスでは多くのチャンスは作り出せない」と試合後に反省の弁を口にした。仙台も“ベタ引き”からのカウンターではいつもの切れ味は出せず、前後半それぞれ3本のシュートに留まり無得点。中盤を厚くする交代策は守備には成果を挙げても、攻撃に影響をもたらすことはなかった。

スコアレスドローは、試合経過からすれば妥当な結果だ。90分間で決定機と呼べるものは、それぞれ1〜2回程度のもの。枠内への決定的なシュート自体はなかったと言える。しかしその成果、あるいはその“収支”を考えれば、両チームへの打撃は妥当とはいえなさそうだ。冒頭で書いたように両チームが順位を下げただけではなく、試合終了間際にはケネディと角田が競り合いで交錯。着地に失敗した際にケネディは右ひざを痛め、角田は右ひじ骨折の疑いでユニフォーム姿のまま病院へ直行した。2人はチームのキーマンだけに、長期離脱はしてほしくないところだが……。ともに負傷者を多数抱える状況で、今後は選手層とチームマネージメントも重要な割合を占めてくるだろう。

もちろん悪いニュースばかりではない。名古屋は期待の新人・田鍋陵太がリーグ戦デビューを果たし、強烈なシュートも放った。仙台は負傷した角田の本来のポジション=ボランチで、松下年宏と田村のコンビが及第点以上の働きを見せたことが光明となる。特に名古屋は永井がオリンピックで離脱する期間の代役を模索しているところだ。これまでならば藤本を上げて田口をセンターに、というのが通常の考えだったが、田鍋をそのままウイングに据えるという選択肢も出てきた。盤石のリーグ折り返しとはならなかったが、ポジティブな要素は両チームともにある。0−0というスコアだからこそ見えるそれぞれの立場というものは、実に興味深い一戦ではあった。

以上

2012.07.15 Reported by 今井雄一朗
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