攻めて攻めて攻め抜いて、ついに大分からゴールを奪ってみせた。柱谷体制下、過去3戦の結果は1分2敗。水戸は勝利だけでなく、ゴールすら挙げたことがなかったのだ。「なんとしてもゴールを決めて勝つ」。その執念が水戸を後押しした。

序盤から5バック気味にして守備を固める大分と中盤でボールを動かしながら攻める水戸という構図で試合は進んだ。とはいえ、水戸が主導権を握っているように見えたが、「押し込まれる展開は覚悟していた。その中で少ないチャンスをモノにして勝点3を取れればと思っていた」と田坂和昭監督が振り返るように、それは大分にとっても予想通りの展開。あくまで水戸に主導権を“握らせている”に過ぎなかった。水戸が前がかりになった隙を突こうという狙いであった。

水戸が大分の守備を破れるか。それが今節の唯一無二の勝負の分かれ目であった。ただ、前半は過去3戦と同じように大分の思惑通りの流れで進むこととなった。水戸が攻め立てながらも大分の守備を崩せず、そして38分にCKのこぼれ球を阪田章裕に蹴り込まれて先制点を許してしまう。「いつも通りのらりくらりかわされて、リスタートで失点する悪い流れ」（柱谷哲二監督）のまま前半を終えることとなった。

だが、選手たちには「焦りはなかった」（ロメロ フランク）。「いい攻撃はできていたし、このまま続ければ必ずゴールをできると思った」（フランク）という自信とともにロッカールームへ戻ってきた。さらに、柱谷監督の檄も選手たちを後押しした。「これはいつもの流れだな。これを変えられるのは自分たちしかいない。強い気持ちで戦え！」。後半の水戸の選手たちのゴールへの執念はすさまじいものがあった。中盤でスピーディーにボールを動かし、左右に効果的に展開。ボールを奪われてもセカンドボールに素早く反応してボールを奪い返し、二次攻撃を開始。カウンターの隙すら与えることなく、波状攻撃を仕掛け続けた。57分に作田裕次がこの日2枚目の警告を受けて退場処分となると、さらに水戸の勢いが増すこととなった。

だが、大分の守備のメンタリティーもさすがであった。いくら攻められても集中を切らすことなく、ゴール前で体を張って水戸の攻撃を跳ね返した。攻めても攻めても点が入らず、水戸にとっては「嫌な流れになりそうになった」（西岡謙太）。だが、選手同士で「焦れるな！　焦れるな！」と声を掛け合いながら、疲れの見える終盤にできるであろう大分の穴を突こうと虎視眈々と攻め続けた。

そして85分、ついに難攻不落の大分の守備をこじ開けてみせた。橋本晃司が蹴ったCKのこぼれ球を市川大祐が右足を一閃。前半にも弾丸ミドルシュートを放っている市川。「このままでは終われない」。強い気持ちを込めて振り抜いた右足に水戸に携わるすべての人の魂が宿った。ボールは低い弾道でゴール左隅に突き刺さったのだ。歓喜に沸くスタジアム。ただ、まだ同点に過ぎない。選手たちはここで満足してはいなかった。現在、11位の水戸は目標である「J1昇格」の崖っぷちに立たされている。「この試合で負けるようならば、かなり厳しい状態になってしまう」（市川）という危機感がチームには宿っていた。それゆえ、選手たちは「勝つことしか考えていなかった」（フランク）。逆転ゴールを奪うために、水戸はさらに攻勢を強めた。

そして思いは結実する。終了間際の90+2分、CKのこぼれ球を右に展開。ボールを受けた市川は鋭い切り返しで相手をかわして左足でクロス。ファーサイドに走り込んだ新加入の吉本一謙がヘディングで叩き込んで、ついに逆転に成功。90分間攻め抜いた水戸が4試合ぶりの勝点3を手に入れた。

水戸にとってこの上なく大きな1勝だ。これまで勝てなかった大分から勝利を挙げたことでチームは勢いづくに違いない。同時に昨季から継続してきた攻撃サッカーを貫いて大分の堅守を打ち破ったことにも大きな意義がある。選手たちは自信をつかんだだろうし、チームとしての成長を証明することができた。これで6位との勝点差は11。「首の皮一枚つながった」と試合後、柱谷監督が口にしたように、厳しい数字ではあるものの、まだ「J1昇格」の可能性は残っている。「とにかく目の前の1試合1試合にすべてをかける」と本間幸司は力を込めるように、水戸には誰ひとり「J1昇格」を諦めている者はいない。自分たちの力で大分のゴールをこじ開けたように、自分たちの力で可能性を切り拓いていかければならないということを誰もが分かっている。まずは大分を倒した。そして、横浜FC、千葉の上位との対戦が待っている。この2試合を勝ち抜いた先に大きな可能性が見えてくる。見事な逆転勝利であったが、まだ満足するには早すぎる。本当の戦いはこれからだ。

大分にとって手痛い1敗であったことは間違いない。今季2度目の連敗を喫し、選手たちは肩を落としていた。ただ、大分らしいタイトな守備を基盤とした戦いはしっかりできていた。セットプレーから先制点を決め、水戸に攻め込まれても耐え続け、「自分たちの得意のパターン」（西弘則）に持ち込んだはずだった。しかし、退場者を出したことによって「プランが少し狂った」（田坂監督）ことが悔やまれる。とはいえ、まだ5位をキープ。次節東京Vとの上位決戦で勝点3を取れば再び勢いに乗れるだろう。まずは逆転負けのショックから気持ちを切り替えることが求められる。

以上

2012.08.20 Reported by 佐藤拓也