必勝誓った甲府、京都、湘南、大分と続いた勝点僅差チームとの直接対決を、東京Vは1分3敗という不本意な結果に終わってしまった。前節・大分戦後、土屋征夫が「上位とやって勝てないのも実力。自分たちの力を認めたうえで試合をしなければいけない」とのコメントを残している通り、東京に戻ったチームからは“危機感”ともいえる雰囲気すら感じられる。『優勝＆昇格』は十分可能なだけに、残り12試合「もちろん、全部勝ちにいきます！」（和田拓也）ひたすら全勝目指すのみである。

敗戦に終わったことは痛恨としか言いようがないが、前節、光明と言えたのが土屋と西紀寛の戦列復帰だ。攻守それぞれの大黒柱が戻ってきた影響力の大きさは、2人揃って起用された後半からと、それ以前の前半との内容差が何よりの証明と言えるのではないだろうか。前半は、パスミスなど些細なミスが何度も続き、守備面でも「ボランチの2人の距離が開きすぎてて、前のスペースを使われてしまっていた」など、自分たちのやりたいサッカーがなかなかできずにいたが、後半は一変。土屋が守備を統率し最終ラインの中心からボランチへと的確な声での指示を与えることで、和田、柴崎晃とも前線への指示出しにより集中でき、全体の守備が安定していった。また、西が加わったことで「スムーズにボールが動くようになった」（飯尾一慶）。そして「阿部や飯尾がボールを触れるようになった」（川勝良一監督）ため森勇介や柴崎晃が攻撃に加担する時間が増え、スタイルとする中盤からサイドを広く使った攻撃ができるようになっていった。土屋、西とも先発復帰が濃厚だけに、今節は前半から東京Ｖらしいサッカーを繰り広げたい。

特に期待したいのが、西が牽引する攻撃である。チームのここ3試合の戦いぶりをスタンドから見守り、西が感じたのが「たくさん点がとれるのがウチのいいところ。失点を気にするよりも、点につながりそうな形をどんどん作って流れを作る方がいい」ということだという。彼の欠場した3試合、チームのシュート数は6本、3本、3本に止まっており、攻撃に停滞感が否めなかった。その原因としては「ゴールを横切るボールだったり、ゴールを狙うボールが少なかった」と指摘。自分がピッチに戻ることで、これらの回数を増加させて得点機を増やしたいとの考えが功を奏し、背番号１１が投入された後半だけでシュート数は8本と急増した。
「とにかくポジショニングが良いからボールに触ってくれるし、（ボールを）変な取られ方しないから安心してどんどん上がっていける。パス出しも抜群で、味方の欲しいタイミングにピッタリと合わせて出してくれるから、流れが止まらない。たぶん、西君が入るとサッカーが面白く見えるのは、選手個々のタイミングに合わせてボールが出せるからリズムが一定ではないし、チャンスも単発じゃなくて2回3回とつながるからだと思う」と、飯尾は西の特長とチームへ及ぼす好影響を力説する。
ここ最近なかなか複数得点がとれない原因のひとつとして、「阿部ちゃんのボールを受ける位置が下がってしまっている」ことを何人もの選手が挙げているが、西の存在によってその点も大きく改善されることは間違いない。「ポイントができるからタイミングがはかりやすい。自分のタイミングで動き出しができるのが大きい」と、阿部も自分の思い通りのプレーに専念できると大歓迎する。「あとは、ちゃんとしたチャンスを、2トップが決められるかだね」と西が語れば、「これからは複数点がとれないと厳しいと思う。1点ずつ、しっかりととっていくのが大事」だとエース阿部。そんな2人のホットラインに注目したい。

相手として迎えるのは北九州だ。現在4戦不敗と結果が出ており、雰囲気は上々と言えよう。今節は木村祐志、金鐘必を出場停止で欠いての戦いとなるが、前節では新井涼平が初ゴールを決めるなど“日替わりヒーロー”的存在が誕生していることもまた、チームの好調ぶりを物語っていると言えるのかもしれない。この試合も、フレッシュなメンバーを含め、全員が勝利のヒーローとなるべくアグレッシヴにゴールを目指す。
東京Ｖの選手たちはみな、北九州を「つないで、回してくるイメージ」だと口にする。ポリシーもったパスサッカーを貫く三浦泰年監督だけに、恐らく大きく蹴ってはこないに違いない。東京Ｖとしては、しっかりとプレスをかけ、そこでボールを奪えるか。「高い位置でボールがとれればチャンス」だと、阿部も前線から積極的に奪いにいく狙いだ。

北九州の攻撃の核は、端戸仁である。小学校6年時から県選抜などで共にプレーした経験を持つ同級生・和田（東京Ｖ）も、初の対戦を楽しみにしている。「あんなガンガンくるタイプの選手だとは思わなかった（笑）。止めるのは大変だけど、それよりも前に、ジン（端戸）に入れないことの方が大事になってくると思う」和田は、チーム得点王にボールが入る前で遮断できるかをポイントとして挙げる。

残暑厳しい中で続いた3連戦の最後となる。互いに疲労困憊だろうが、「毎試合、新鮮な気持ちでやるだけです」と、阿部は目の前の1戦１戦にポジティブに向かう。試合を楽しめること。そして勝利が最大の疲労回復への癒しとなってくれるのではないだろうか。

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2012.08.25 Reported by 上岡真里江