北嶋秀朗や藤本主税、仲間隼斗に促されてメインスタンド、バックスタンドから移動した観客で、ほぼ完全にギッシリと埋まったゴール裏が、右へ左へと揺れながら踊る選手たちの列に合わせてリズミカルにスウィングする。28節の栃木戦の勝利から始まった『KK劇場』、2度目の公演。「今日見に来てくださった方々も、その瞬間を楽しめた。ああいうシーンはすごく温かさを感じるし、いいことだなと思う」と高木琢也監督も述べた勝利のセレモニーによって、スタジアムはまさしくひとつになった。
もっとも、立ち上がりにペースを握ったのは富山である。前節の福岡に続いてアウェイでの連戦を戦うストレスや、短いスパンからくる疲労を感じさせないアグレッシブな姿勢で、高い位置からプレッシャーをかけて熊本に対して激しく寄せ、囲い込んでボールを奪っては両サイドから攻撃を組み立てていく。しかしトップの黒部光昭に入った後のサポートが若干遅く、徐々にペースダウン。8分のコーナーキックからの福田俊介のヘディングシュート、13分のソ ヨンドクのミドルシュートなど決定的な場面はあったが、熊本のGK南雄太がこれを落ち着いてセーブしたことで、次第に流れは熊本へと傾いた。
熊本は守勢となった序盤の時間を耐えると、後方からのロングフィードで齊藤和樹、武富孝介の2トップをスペースへ走らせて富山DF陣を後ろ向きにさせるのと合わせ、15分には左、17分には中央、そして20分には右からと、少ないタッチの流れるようなパスワークで崩しにかかった。最後の部分でのコントロールミス等があってシュートまで持ち込めない時間帯が続いたが、30分、左サイドの展開からペナルティエリア付近でボールを受けた養父雄仁が落ち着いて左足に持ち替えミドルシュートを放つと、これが右隅に決まって熊本が先制する。
33分の2点目はFKのデザインプレーから片山奨典が決めたものだが、このFKも左サイドからの養父のスルーパスに反応した片山が倒されて得たもの。この試合では特に藤本と藏川洋平、西森正明と片山と、左右のワイドMFとサイドバックの縦の関係が良く、そこにFWが流れて絡むコンビネーションで富山の守備ラインをかき回し続けた。ボールホルダーのルックアップに対して1人がスペースへ顔を出して相手を引きつけ、それによって生じたスペースに3人目がさらに走り込むような熊本の流動的な動きに対し、富山のDFは「とにかく『ボールを奪わなきゃ』という風になってしまって、自分のマークを捨てて行ってしまった」(安間貴義監督)。
後半、富山の安間監督は池端陽介を下げて平出涼を最終ラインに落とし、苔口卓也を前に入れる2トップの形へシフト。苔口のスピードを生かして熊本を押し込み、前に圧力をかけ始める。さらに61分にも関原凌河に替えて西川優大を投入、高い位置で起点を作ろうと試みるが、71分、85分と迎えた決定機も枠を捉えることはできない。一方の熊本はDF陣がチャレンジ&カバーを徹底して跳ね返し続け、前後が伸びた富山の中盤を飛び越して一気にDFラインの背後を狙ったカウンターから、52分、54分、64分、70分とチャンスを量産。それまで効果的なランニングを見せていた西森が後半開始直後に相手選手と衝突して下げざるを得なくなったが、代わりに入った大迫希がスペースへ飛び出す動きを繰り返したことが、押し込まれる時間が長くなった中でも決定機を作れていた要因だ。
72分には、驚異的な回復で復帰した北嶋が藤本に替わってピッチへ。その北嶋が上手く納めてはさばく展開を作る。今までの流れであれば最後は高橋祐太郎を前線に入れていたが、3枚目のカードとしてアデイショナルタイムに入って高木監督が送り出した仲間が、わずかな時間で大きな仕事を果たす。90+3分、左からのボールを受けた仲間が相手DFを引きつけながらドリブルで運び、大外を回ってきた大迫へつなぐと、大迫はこれを落ち着いて左足で流し込み3−0。交代出場の若い2人が試合を決定づけた。
富山にとっては、前半の2失点はアンラッキーな面もあったが、失点を機に守備の対応がばたついた。15試合勝ちなしとなり、スタンドには「残留」と書かれた幕が掲げられるなど状況は大変厳しいが、「リスクを負って攻めに出て、シュートチャンスを作れたことの方をプラスに捉えてやっていきたい」と安間監督が話すように、「下を向かずに」(福田)「やり続けること」(西川)で、結果につなげたい。
熊本は、栃木戦同様にリスクマネジメントをしながら理想的な展開に持ち込んだ。3得点したことはもちろんだが、押し込まれる時間もありながら無失点に抑えたことが大きな収穫。好調の北九州に乗り込む次節も、この流れを維持して少しでも上との差を詰めたい。
最後になるが、今季最多の1万人の観客が作り出したスタジアムの雰囲気は間違いなく選手たちの力になり、ゲームの展開も結果も、この日初めてスタジアムで観戦した人たちにとってポジティブな印象を植え付けるだけの内容の濃いものにできたはず。ほんの数千円で、飲んで食べて、興奮して、時には泣けて、最後は皆で笑える。ホームタウンのクラブを応援するというコストパフォーマンスの高いエンターテイメントの魅力を、その価値を知っている私たちはもっと、身近な人たちに伝えていかなくてはいけない。
以上
2012.08.27 Reported by 井芹貴志
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