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【J1:第25節 広島 vs 仙台】レポート:静から激、情熱と冷静。首位決戦にふさわしい深みに満ちた闘いを制したのは、ホームチーム・アドバンテージ(12.09.16)

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決戦1時間前。青空が広がっていた広島ビッグアーチの上空は一転して暗くなり、豪雨と雷が襲いかかった。だがそれでも、サポーターの列は途切れない。大部分は紫のシャツに身をまとっているが、約1200キロも離れている仙台からも、ゴールドのシャツを着たサポーターが数多く詰めかけていた。
2万5352人。1週間前の予測=2万1000人を遥かに上回る大観衆がビッグアーチを埋めた。1プレーごとに鳴り響く拍手。途切れない歓声。湧き上がる応援の歌。熱い首位決戦の演出者は、間違いなくサポーターの存在だった。それは森保一・手倉森誠、両監督のコメントが証明している。

天王山は、まず静かにスタートした。仙台は4-4-2の3ラインをコンパクトに並べるブロックを自陣に築き、リスクを回避。広島もボールを保持するものの、後から前線を追い越すシーンはほとんどない。
それでも時に刃がギラリと光り、いくつかの決定機は生まれた。13分、清水航平のクロスに高萩洋次郎が飛び込み、23分には高萩のパスから佐藤寿人が裏に飛び出した。一方の仙台も18分、梁勇基が美しいスルーパスを赤嶺真吾に供給。剣豪同士が互いの呼吸を読みながらも隙を狙い合うピンと張りつめた緊迫感が、静かな前半には漂っていた。

後半、仙台の意識は一変。激しいプレスを広島に仕掛け、ボールを奪いに前に出る。リスクを怖れずにアグレッシブに圧力をかける「今季の仙台」が出現し、ゲームの流れが「静」から「動」へと変わった。広島に勝って勝点差を広げ、独走態勢を築く野心を手倉森監督が露にして見せた瞬間だ。
もちろん、森保監督も「勝点3」にこだわっていた。ホームで連敗、天皇杯では地域リーグのチームに敗れる屈辱。豪雨、そして渋滞。それでもビッグアーチには、広島の勝利を信じて来てくれたたくさんのサポーターに、どうしても勝利を届けたい。
ただ、そのためには情熱だけでなく「冷静さが必要」(森保監督)。駆け引きを仕掛ける仙台に対しても焦れずに我慢し、勝負どころを見極める。48分、朴柱成の横パスを青山敏弘がカットした瞬間こそ「その時」だった。
森崎浩司・高萩・青山敏弘とつなぎ、さらに森脇良太や石川大徳、清水もあがってくる。そこでボールを持ったのは、J1でもトップクラスのパス供給数を誇るパサー・森崎和幸。ただ、今季の森崎和のシュート数はわずか4本。仙台が彼のシュートではなくクサビのパスを警戒し、パスコースを消しにかかったのも当然だろう。だが、「シュートしか考えていなかった」森崎和は、約30mの距離から迷うことなく右足を振り抜く。猛スピードで地を這ったボールは上本大海の右足に当たってコースが変わり、ネットに吸い込まれた。

この先制点が、仙台の闘志をさらにかき立てた。両サイドバックが極限近くまで高く張り出し、運動量で上回ってセカンドボールを拾いまくる。65分、梁勇基のFKがバーを叩き、その4分後にはボランチの角田誠がヘディングシュート。広島はラインが下がり、押し上げも利かなくなった。
70分、高い位置にいた菅井の存在に引っ張られた清水の内側を角田の素晴らしいスルーパスがすり抜ける。太田吉彰が抜け出し、クロス。反応した赤嶺が絶妙のタイミングで前に飛び出し、千葉和彦を強いフィジカルで制しながらヘッドで突き刺した。
仙台らしいサイド攻撃からの力強いゴール。首位チームの勢いは増し、勝利への情熱が広島をさらに押し込んだ。「静」の空気は消え去り、仙台の太刀の激しさが広島を厳しく追いつめる。

だが77分、広島に隠れたビッグプレーが二つ飛び出した。仙台が放ったクロスのセカンドボールを拾い、強い身体で相手のマークを封じてマイボールにつなげた石原直樹。最前線から脱兎のごとく戻って太田へのパスをカットし、仙台のカウンターを防いだ清水。何気ない二つのプレーが仙台の勢いを削ぎ、広島のプレーゾーンを高く変えた。決勝点は、その1分後のことだ。
森崎浩の展開を清水が受けてクロス。そこに石川が運動量を活かして走り込んだ。経験のなさを懸念された二人のワイドプレーヤーがチャンスをつくる。石川のクロスはGKとDFの狭い間をつく。狙いは佐藤。しかし、GK林卓人が左手を伸ばして触る。
こぼれた。高萩だ。ボレーだっ。
身体を必死に倒して抑えたボールはワンバウンドしてネットの上に突き刺さる。ゲット。高萩、両手を広げてメインスタンド側へと走ると、大きくジャンプしてガッツボーズ。呼応する大声援がスタジアムを揺さぶる。「決勝点は広島のサポーターが呼びこんだもの」と敵将に言わせた、全広島の力が結集した成果。静から動、そして激。ユアスタでの決戦とは違うテイストではあったが、この試合もサッカーの深みが存分に表現され、情熱と冷静が混じり合った素晴らしい闘いだった。

残り9試合、優勝という高みに向けて、広島と仙台の挑戦は続く。どちらが優勝しても、J1史上初となる三大都市圏(関東・関西・東海)クラブ以外の栄冠。もちろん、それは許すまじと大都市圏のビッグクラブたちが虎視眈々と狙う。しかしこの両チームには、J2降格などの苦境にあってもクラブと共に歩み、選手たちを励まし続けてきた素晴らしいサポーターがついている。広島、そして仙台。二つのクラブの偉大なる挑戦を、これからも刮目して見つめ続けたい。

以上

2012.09.16 Reported by 中野和也
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