東京Vは、大きな試合をモノにした。J1昇格争いが激化している中、(第33節終了時点で)首位を走る甲府が鳥取と引き分け、2位の湘南以下、3位大分、4位山形、5位千葉が敗戦と、上位陣が揃って足踏みをした中、きっちり勝点3を奪い、差を詰めることができた。これまでの傾向から言えば、こうした試合で並んで取りこぼすことが少なくなかった。だが、ここで手堅く勝っていけるようになったことは、チームとして少なからず前進していると受け取っていいのではないだろうか。
この試合のポイントとして選手たちがまず挙げたのは、やはり先制点だった。試合前から「どんな形でも良いから先制点を奪いたい」と、中後雅喜、梶川諒太らが語っていたが、希望通りその貴重な先取点を奪うことに成功した。そしてそれは、8月5日vs富山戦(第27節)以来、7試合ぶりのことだった。
前半26分、西紀寛が中央を強引に突破し、アレックスとのワンツーの返しを受けたところで倒されPKをゲット。阿部拓馬が落ち着いて突き刺した。阿部も、かねてから先制ゴールの重要性を人一倍口にしてい選手である。「あれで気分的に楽になれたと思う。よかった」自身にとっても4試合ぶりの得点を、素直に喜んだ。
得点に限らず、この試合の阿部のパフォーマンスは非常に充実していたように映る。ちょっとしたパス交換、タッチライン際のボール処理などで魅せる高い技術に、筆者の周りの観客から「うまっ!!」という賛辞の声があとを絶たなかった。また、残念ながら決めることができなかったが、前半31分に中島翔哉のPKを演出する絶好のスルーパスを送ったのも阿部だった。そして、さらには同38分、相手DFのパスをカットし西のゴールを生み出したのも背番号9と、勝利に直結する活躍をみせた。
実は試合前、高橋真一郎監督は阿部について次のように語っていた。「点を取らないといけない役割だから、いくら普通のプレーをしていても点をとっていないと『調子が悪い』などと言われてしまう。けれど、ここ最近ゴールはちょっと決められていないが、それ以外のプレーでの阿部のチームへの貢献度は、記録上に表れていなくても非常に高い。ただ、本当にストライカーになるにはその中でも点をとらなければいけないけど、大丈夫。次は取るから見ててよ」そして、その言葉通り阿部はゴール以外のプレーでも、そして、PKとはいえエースとして得点という最高の形でチームを勝利へと導き、自らその実力を証明してみせた。
また、チーム全体としても、「できる選手たち」(高橋監督)であることを改めて示した。前節に引き続き、「ボールを奪われたら奪い返せ」という、カウンター防止の最善策は徹底されていた。相手に奪われたところで瞬時に取り返しに行き、セカンドボールを拾って再び攻撃へと切り替えていく。「どっちが負けているチームかわからないぐらい、ウチは1点を取りに行く姿勢が見られなかった」と、愛媛GK秋元陽太が認めたほど、90分間通して常に切り替えに対する意識が高かったということだろう。
後半、柴崎晃誠をボランチに入れ、梶川を左サイドへと1列上げてからも注目だった。中後と柴崎晃のボランチコンビでは、梶川の時と同様、やはり中後が守備的、柴崎晃が攻撃的と役割をほぼはっきり決めていたというが、その甲斐あってか、良い意味で流れ変わらず非常に安定した戦いが続けられた。さらに、「このチームではほぼやっていない」という、梶川のサイドポジションだが、特にリスクマネジメントの部分での対応力の高さが光った。前節では、全体的に攻撃に出ていた際の中後のDFラインに入ってのカバーが非常に効いていたが、それに加え、この試合では、2点リードの試合展開から、「そこまで無理して攻撃しなくても」と状況判断すると、中後がアンカー気味に落ち、その前に柴崎晃と梶川が並ぶ3ボランチ的な形となり、「まずは中だけはしっかりとケアしようと心掛けました」(梶川)。「全部、流れの中で自然とそうなった感じ」だと、梶川は話したが、こうした対応力こそ、「90分間通していろいろな局面があったんですけど、それをコントロールしながら全員が1つになって戦ってくれた結果がこの勝点3につながったと思います」という、高橋監督の試合後の会見コメントを生んだ要因だろう。
高橋監督になって起用されるようになったアレックスに東京V加入後初ゴールが生まれたこともまた、新チームにとっては大きな収穫となったことだろう。「高橋監督リーグ戦初勝利」との報道が主だが、見方を変えると天皇杯含め3戦2勝1分で“無敗”なのである。「こういう感じでしっかりやっていけば、負けないと思うよ」森勇介キャプテンの言葉にも表れているように、ちょっとした変化を好転的に捉えられるようになってきたことだけでも、大きな前進ではないだろうか。この勝利で当然、チームの雰囲気は高まっているだろう。良い流れで、次節千葉、次々節山形との上位対決に挑めそうだ。
敗れた愛媛は、これで13試合未勝利と、非常に厳しい状態が続いている。前節vs横浜FC戦で攻撃的なサッカーができていただけに、ほとんど決定機を作れなかった今節の3失点完敗に無念さはひとしおかもしれない。ただ、何よりも残念だったのは、結果云々以前に「気持ちの無い選手がいた。もちろん失点は悔しいけど、それでも3点目をとられたところで下を向いてしまうのは絶対にダメ。やっている以上、見に来てくれている方にそういう姿を見せてはいけない。たとえ3−0になっても、1点を取りに行くというシーンが見えなくて残念だった」と、愛媛選手自らの口から内容、特にメンタル面での問題についての痛烈なことばが聞かれたことだった。バルバリッチ監督も、会見の席で「ボールを持っていても、ボール保持者に対して味方の選手がパスを受けようとしませんし、周りの選手がサポートしてくれない。パスコースを提供してくれない。その連続でした。前半だけでももう2,3失点してもおかしくない内容でした」と、ただただ嘆くことしかできなかったほどである。
この結果を、誰よりも深刻に受け止め、苦悩の声をあげていたのがGK秋元だった。秋元は、現時点での最大の課題は「コーチング」だという。「何を変えればいいのかわかっているのに変えられないのが一番悔しい」と、コーチングに関しては個々の意識でしか改善できない問題であるもどかしさを感じているようだ。そして、「すべての批判を受ける覚悟で毎試合臨んでいる」と、自らのプレー、そして言動のすべてに責任をもった上で思いを吐露した。「自分がどうしたいのか。どうして欲しいのか。しっかりと言葉に出して言いたいことを言って欲しいのに、聞いても何も返ってこない。プレーでも、やるべきことをしないで、失点したら責任逃れをする選手がいる。“J1”を目指すチームだから“J2”といえると思うけど、はっきり言って、今日の試合は“プロ”と言えるレベルではない。「見ている人に失礼」とも言えるぐらい。来てくださったファンやサポーターに、本っっっ当に申し訳なくてたまらないです。何を言われても受け止めなきゃいけないと思っています」。
J1のビッグクラブ横浜F・マリノスから愛媛のJ1昇格の力になるべく今季から加入した秋元。残り8試合となり、同じ「J1昇格」を目指しながらも相手の東京Vは昇格争い渦中にありながら、一方の自チームのあまりの現状に、目に一杯、今にもこぼれ落ちそうなほど光るものを溜めながら、悔しそうに、情けなさそうに語った姿には、J1経験者の、そしてプロサッカー選手のプライドが表れていた。厳しいようだが、彼の言葉や姿に何も感じないようであるならば、『J1昇格』はほど遠いものと言わざるを得ないのではないだろうか。この試合を機に、愛媛がプロ、そして“J2”クラブとして前進することを心から願っている。
以上
2012.09.18 Reported by 上岡真里江
J’s GOALニュース
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