今季のJ1昇格がすでに叶わぬ夢となってしまっていることはスタジアムへ足を運んだ皆が知っていたはず。しかし、誰ひとりとしてその悲しみを今節へ持ち込まなかったように思われる。目の前の戦いに臨むチームを変わらず全力で後押しすること。そこに集った全員がその気持ちだけを胸に持っていたに違いない。実際そのことを証明するように、試合終了と同時に湧き上がった歓喜の叫びは心からの明るさを感じさせたし、同時にその声は4ヶ月ぶりのホーム勝利に対する素直な喜びが非常に強く伝わってくるものであった。
そして、沈みそうになる気持ちを振り払ってこの一戦に集中していたのはチームも同じ。「モチベーションを上手く持って戦ってくれている」と小林伸二監督も試合後語っていたが、徳島の選手たちは長きにわたって手に出来ていないホームでの白星を必ずもぎ取るんだという強烈な意欲を持って今節へ挑んでいたと言えよう。
だからこそ徳島は早い時間からの主導権掌握に成功した。ボランチの上里一将と濱田武が精力的に多くの場面へ顔を出し、彼らを中心に序盤からボールを支配すると、両ワイドへ幅広くそれを動かす展開で富山ディフェンスを揺さぶっていったのである。また、花井聖が「前に行く姿勢を全員が持っていた」と振り返ったように、徳島は個々でも、組織としても、常に相手ゴールへの意識を感じさせていたと言っていいだろう。そのため見せる繋ぎはしっかりフィニッシュまでがイメージされたもので、ポゼッションだけに終わるようなものではなかった。
すると22分、その幅を使った展開とゴールへの意識に満ちた攻撃がついに実を結ぶ。右サイドで富山守備陣の注意を引きつけた花井が中央バイタル付近に入り込んできた上里へ平行のパスを通し、上里がさらに短く左へ流すと、そこへ思い切り良く駆け込んだのは那須川将大。ワンタッチでいい位置へボールを持ち出したレフティーは、迷いなく自慢の左足を振り抜き、地を這うようなミドルを逆サイドネットに突き刺したのだ。
その後、迎えた後半に徳島は2点目、3点目と得点を重ねていったが、それらを生んだのも前記のゴールへ向かう意識であったことは間違いない。2点目は右タッチライン際の混雑を抜け出したドウグラスが力強く富山ゴールへ一直線のコースにドリブルを仕掛けたことが効いたし、3点目もきっかけは濱田の早い切り替えからの長距離スプリント。普段なら足元にボールを要求し落ち着いてパスを繋ごうとする背番号14がいち早く右サイドのスペースへ飛び出し、得点の可能性が高まる素早いカウンターを自ら引き出したのである。
もちろんそれらのチャンスをきっちり決めた2人についても、ゴールへの意識が申し分なく高かったことを触れておきたい。ドウグラスのドリブルのこぼれ球を富山GKの鼻先でかすめ取って冷静に流し込んだアレックス、濱田のクロスを正確な胸トラップで収めて右足で豪快に突き刺したキム ジョンミン、どちらもゴールを欲する貪欲さがプレーにハッキリ現れていた。
こうして、この一戦に賭ける集中と意欲を体現して3得点を奪った徳島。守備面でも最後まで気持ちを弱めることなく富山を完封にまで持っていき、7試合ぶりの勝点3、約4ヶ月ぶりのホーム勝利を手に入れた。だが忘れてはならない。冒頭で述べた通りこの勝利にはスタジアムで声を出し、見守り続けた多くのファン・サポーターの力も大いに貢献していたことを。悲しみを乗り越えて手にした今節の結果は、選手たちの頑張りに、徳島を愛する全ての人の力もが結集されたことによって得られたものなのである。
泣いても笑っても今季はもうあと残り4試合(徳島は9/30の京都戦が台風のため今週木曜に順延している)しかない。しかも徳島は今節を皮切りに今週ホーム3連戦。それだけに、目標こそ届かぬものとなってしまったが、選手たちには引き続きぜひこのような戦いの姿を見せてもらいたいと思う。昇格も降格もないとは言え、どのゲームも消化試合などではないのだから。
さて最後に、敗れた富山に関してだが、気持ちの面で遅れを取っていたようなことはきっとなかったと思われる。なぜなら先立って行われた(16時キックオフ)試合で町田が愛媛に敗戦。富山はここで勝てばJ2残留を決められる状況だったのだ。しかし、逆にそれがプレッシャーになってしまったのではないか。そのため奪われた先制点が大きくのしかかり、それを跳ね返そうとする焦りが自分たちのプレー精度を落としていく悪循環を招いたのだろう。
とは言え、終了のホイッスルがなるまで諦めないプレー姿勢には十分な可能性が受け取れた。今節の反省をしっかりチームが理解して次へ向かったなら、またチームは前節までのような粘りとタフさを纏えるであろう。そうなれば目指す残留も近いうちに見えてくるように思われる。
以上
2012.10.22 Reported by 松下英樹
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