この1試合で全てが決まったわけではない。それでも、今年から導入されたプレーオフの効果として僅かながらでも昇格につながる可能性を残してリーグ終盤戦を迎えた初めてのシーズンであることを踏まえれば、熊本のクラブ史において忘れがたい日となったことは確か。5連勝の状況で勝点差9の横浜FCを迎えた熊本は前半に1点を失って敗れ、連勝はストップ。39節を終えての6位との勝点差が残り3試合で加えられる最大値の9以上となり、プレーオフ進出、つまり今シーズンの昇格は消えた。
横浜FCのキックオフで始まったゲームは、序盤から熊本がペースを掴んでいく。その要因は、この日の狙いであった連動した守備が発揮できたことだ。横浜FCで攻撃のタクトを振る寺田紳一は「そんなにプレッシャーは感じなかった」と話しているが、武富孝介と齊藤和樹のFW2人による追い込みを合図に、熊本の中盤は巧みにスライドとアプローチを繰り返し、寺田らに前を向かせない状況を作っていく。バックラインからの組み立てにおいて、いい形で縦につける回数を増やせない横浜FCは、先発に戻り前線のターゲットとなった大久保哲哉、時折フリーの状態で落ちてくるカイオに長いボールを入れるが、これに対しては矢野大輔と廣井友信のセンターバック2人が身体を当て、セカンドボール争いでも的確なポジションを取った熊本が優位に立っていた。
攻撃でも、後方からの長いボールで背後を衝きながらも、片山奨典、藏川洋平の両サイドバックが積極的にスペースを見つけてオーバーラップし、藤本主税、五領淳樹が絡んだコンビネーションからサイドを突破して横浜FCゴールに迫る。だが試合後に高木琢也監督が述べている他、選手たちの口からも聞かれた通り、ラストパスやフィニッシュの精度、そして崩すためのひと工夫や判断の共有を欠き、ゴールへ結べない。逆に、横浜FCの守備がややリトリートしてラインを形成した状態の中、自陣からボールを保持してつなぐ時間が増えたことで、不用意なミスからボールをさらわれる場面も目につき始める。本来であればもっとボールを保持したい横浜FCと、高い位置でのプレッシャーから奪ってカウンターを仕掛けたい熊本、試合の流れとしては、双方の思惑とはおそらく逆の展開になっていた。
そうした中、横浜FCが先制したのは前半もアディショナルタイムに入った45+1分。FKからのリスタートにカイオが抜け出すと、熊本は廣井が身体を入れて対応。しかしカイオも諦めずに追い、左足でシュートを放つ。一度はポストに跳ね返ったボールは、無情にも廣井の身体に当たってゴールイン。「簡単にクリアするべきだった」と廣井は悔やむが、山口素弘監督が会見で述べたこうした「ちょっとした差」が、昇格を争うチームとの差として、シーズンを通して積み重なってきたものなのかもしれない。
リードを得た横浜FCは、中盤のスペースをケアする狙いで後半から投入した八角剛史をアンカーに置く4-1-4-1へとシフト。八角がDFラインの前を埋めるのと同時に、寺田と中里崇宏がポジションを1列上げて熊本の中盤にプレッシャーをかけ始める。対する熊本も後半開始直後の50分に藏川から藤本、59分には市村篤司から養父雄仁の右足、83分には片山から市村と、左右の揺さぶりから決定的な場面を迎えるのだが、横浜FCは「最後はボールは中に入ってくる」(山口監督)と、ゴール前に人数を割いて跳ね返し続ける。終盤、熊本は矢野を前線に送ってパワープレーを試みるが、これには大久保を最終ラインに下げてまで競り合わせるなど、「勝点3がどうしても欲しい」(山口監督)という思いの強さを発揮した横浜FCが、1点を守って逃げ切った。
内容としては決して満足いくものではなかっただろう。それでも横浜FCにとっては大きな勝点3だ。京都が1試合多く残している状況ではあるが、この勝利で自動昇格の2位も視野に捉え、順位を1つ上げて残りの3試合に臨む。「決定的なチャンスも作れたし、いい点を生かしながら」(シュナイダー潤之介)、「ずっと勝ち続けて、結果にこだわって」いくことで、6年ぶりのJ1昇格を手にできるか注目したい。
一方の熊本は、前節とは逆に内容を結果に結びつけることができなかった。もちろん、昇格を実現できなかったことに関しては複数の視点からの検証が必要だが、リーグ戦はあと3試合、さらに天皇杯を戦う権利も残されている。次のミッションは、リーグでも天皇杯でも「1つでも上に」いくこと。鳥栖の昇格を見送った昨シーズン最終節に感じた羨望とは違う、無念さを噛み締めた2012年10月21日を新たな出発の日として、次の1歩を踏み出そう。
以上
2012.10.22 Reported by 井芹貴志
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