あーっ、やっちまった。
水本裕貴は天を見上げた。
クラブワールドカップという大切な大会の、しかも最後の試合で、俺はなんというミスを……。
単純な攻撃だった。196センチの巨漢FWキム・シンウクにロングボールを当て、セカンドボールを拾って前に速く攻める。「ハンマーサッカー」と称された蔚山現代のやり方に、驚きはなかった。水本自身、そこにはしっかりと注意を払っていたつもりだった。
17分、相手のプレーを予測し、危なげなく身体を入れた。ところがそこで、「ミス」が出る。水本の出したパスは西川の左をすり抜け、ゴールネットにゆっくりと収まった。
「中学生以来のミス」と水本は自嘲する。だが、このミスによって広島が崩れることはなかった。右ストッパーに入ったファン・ソッコが積極的なチャレンジを見せ、リベロとして今大会初出場を果たした塩谷司も思い切ったクサビのパスに挑戦。キム・シンウクの高さとイ・グノの突破で攻めたてる蔚山現代に対し、最終ラインからの攻撃を構築した。
35分、ファン・石川大徳・森崎浩司の3人でコンビネーションを見せ、FKを奪う。前線には同点への決意を秘めた水本もあがった。塩谷、ファン。蔚山現代ほどではないが、ヘッドに強い選手もそろう。だが、そこで存在感を発揮したのが、170センチと小柄なストライカーだ。
森崎浩の精密な左足は、GKとDFラインの間にピタリ。DFはクリアできず、GKも出られない。そこに巨大な林をすりぬけるように入ってきたのは、佐藤寿人だ。瞬間的にバックステップを踏みながらマークを外し、まるで忍者のような神出鬼没さで飛び込む。
ヘッド。
GKが弾く。詰めたのは得点感覚抜群の左サイド・山岸智だ。血流障害による約5ヶ月の離脱から立ち直り、今季最後の試合で先発復帰を果たした元日本代表が、落ち着いてゲット。後輩・水本が背負い込んだ重荷を軽減させる先輩の復活ゴールによって、広島は同点に追いついた。
思わぬ失点を喫した蔚山現代。イ・グノの抜群の切れ味を持つドリブルを中心に、ゴリゴリと攻め立てる。セットプレーからイ・グノがバックヘッド!西川が止める。キム・シンウクのシュート!バーだ。広島、我慢が続く。
後半も愚直なまでにキム・シンウクにボールを集め、蔚山現代は迫力のある攻撃を繰り返す。だが、ファン・塩谷・水本の3人は集中していた。身体を寄せて自由を奪い、セカンドボールをことこどく拾った。54分にはFKからまたもイ・グノが決定的ヘッドを放ったが、左ほほの裂傷をおして出場した西川がここでもセーブ。組織と個人でしっかりと守る広島、隙を許さない。
56分、守備陣の頑張りが素晴らしい2点目を誘因する。後方からしっかりとボールをつなぎ、青山敏弘から左サイドへ。山岸だ。
「ルックアップした瞬間、(寿人の動き出しが)見えた」
ジェフの育成組織でずっと共に学んできた先輩と後輩。あうんの呼吸。クロスを入れる後輩も、受けに走る先輩も、わかりあっている。スペースに出たボールに対し前に入った佐藤、ほんの少し触る。フェザータッチなキックでコースは微妙に変わり、相手DFの股を通ってゴールへ。逆転!!
焦る蔚山現代。しかし、キム・シンウクの高さもイ・グノのスピードにも慣れた広島は、落ち着いて試合を進める。72分、中盤で森崎和幸がヘッドで競り勝ち、森崎浩司がボールを受ける。高萩洋次郎が動き出す。この時、佐藤はオフサイドポジションから素早く戻り、もう一度動き直した。この動きに、相手は全くついていけない。
パスを受けたのは高萩。この時、佐藤はオフサイドラインを正確に見極めながら高萩のスルーパスを待った。来た。打った。高精度パスと冷静なシュートの組み合わせで、広島は試合を決定づける3点目。
試合終了間際にFKから失点したが、ACL王者を逆転で下す快挙を成し遂げた。F東京・柏の両チームがACLで敗れたチーム相手だっだけに「Jのプライド」(佐藤)を守った勝利でもあった。
今大会でもっとも内容が悪かったこの試合で3点をあげて勝利できたのは、広島のチーム全体の成長。主力が疲労困憊、怪我人もいる中で森保一監督は4人の選手を入れ替えた。全体の運動量にも問題を抱え、パスサッカー全開だったわけではない。だが、全員で粘り強く守り、攻撃では自由にアイディアを繰り出して、やはり全員で守る。そんな広島らしさを発揮してアジア王者に勝ったことは、大きな財産となる。
試合後、同点弾を放った山岸に水本が「ありがとうございました」と言葉をかけた。この日が病気から復帰後の初得点となった山岸は「後輩のミスは先輩が取り戻さないとな」と笑う。選手同士に結ばれた強い絆。それが広島優勝の要因であり、この日の逆転勝利の原動力。この絆をさらに強固にすることが、厳しい戦いが待っている来季を乗り越えるパワーとなる。
以上
2012.12.13 Reported by 中野和也















