引き分けという結果は両チームの置かれた立場、状況をくっきりと映し出す。大分の田坂和昭監督は「私はこのチームを率いて3年目になりますが、非常にたくましく成長したなということが、今日の試合から感じられました」と声を弾ませ、名古屋のストイコビッチ監督は「正直に言うと、今日の試合には満足していません。ホームで大分を相手にドローという結果は満足できません」と苛立った。大分は勝点1を得たが、名古屋は勝点2を失ったと考えている。この両者の感覚の違いこそが、ドロー劇の要因だった。
ストイコビッチ監督の言葉を借りるまでもなく、名古屋の出足は明らかに鈍かった。それが連戦の疲労のためなのか、大分の実力を測り違えていたのか、あるいはその両方なのか。「確かに違和感はあった。疲労もあったかも」と話したのは名古屋のダニルソン。対して大分の森島康仁は「僕らを舐めてましたね。前の試合を見ればそうなるでしょうけど」と感じていた。一向にギアが上がらない名古屋に対し、最初からフルスロットルの大分は縦に速い攻撃で主導権を掌握。開始10分で3つのオフサイドを取られた森島を筆頭に、積極果敢にDFラインの裏を狙った。
大分の積極性はわずか19分で実を結ぶ。「名古屋と柏の試合を見て、絶対に足を止めないでやろうと思っていた」という森島がDFラインの連係ミスを突いて抜け出すと、一度は楢崎正剛に止められながらも泥臭く流し込んで先制。前週には田坂監督から厳しい言葉で叱咤され、「これがラストチャンス」と自覚していた大分のエースストライカーは、緩慢な名古屋が見せた隙を逃さなかった。
これで目が覚めた名古屋は反撃を開始したが、運動量豊富にプレッシャーをかけ、確実にゴール前を固めてくる大分の守備には苦戦。32分には裏に抜け出した田鍋陵太が惜しいシュートを放ち、続く35分には小川佳純が直接FKをポストに当てるなど決定機を作ったが、その都度カウンターを仕掛けられ一進一退の攻防に持ち込まれた。前半はそのまま大分リードで、試合は折り返した。
名古屋にとっては想定外の展開に、指揮官は厳しい采配で選手に発破をかけた。後半開始から温存していた玉田圭司と矢野貴章を投入。出場機会を与えられていた若い磯村亮太と田鍋との交代には、「本気で勝ちに行け」という執念がこれでもかと込められていた。玉田と矢野は期待に応え、前線の起点として機能。後半立ち上がりこそ大分に決定機を作られたが、以降は機動力と連動性を格段に向上させ、一気に主導権を握り返した。粘り強く対応していた大分もこれにはたまらず後退し、15分ほどでDF深谷友基の投入を決意。しかし一歩及ばず、ピッチサイドに深谷が現れた瞬間、阿部翔平のアーリークロスに飛び込んだ闘莉王がGK丹野研太と交錯しPKを獲得。これを闘莉王本人がど真ん中に蹴りこみ、試合は振り出しに戻された。
同点となって以降、試合は大味な展開に。名古屋は67分、実に半年ぶりの実戦復帰となるケネディをピッチに登場させたが、いかんせん本調子には程遠い。194cmの高さは脅威以外の何物でもなく、彼をオトリにすることで矢野の高さや玉田のドリブルが生きる場面もたびたび生まれたが、得点を奪う切り札にはなりえなかった。試合のラスト10分は疲労もあってか中盤のプレッシャーのないノーガードの打ち合いとなり、決め手を欠いたまま終了のホイッスルを聞いた。
1-1というスコアに対するスタンスは冒頭でも紹介した通り。選手たちの反応もおおむね監督の意見に同調するものだった。その上でそれぞれの収穫を考えれば、両エースストライカーが復活の兆しを見せたことがまずは挙げられる。
名古屋はケネディの戦線復帰が何よりの朗報。玉田の1トップで構築してきた流動的なサッカーの再考に迫られるが、ケネディがベストパフォーマンスを発揮していた頃は、彼を起点に玉田や金崎夢生(現ニュルンベルク)、小川、藤本淳吾らが縦横無尽に前線を駆け巡っていた。その形を思い出すことができればチームはさらに向上するだけに、今後最大の課題はケネディの組み込み方になってきそうだ。
大分も昨季のチーム得点王が復活の狼煙を上げたことで、いまだ手の届かない今季初勝利はより近づいたと言えるだろう。「高松大樹・西弘則のコンビには負けていない」と豪語した森島の舌は実に滑らか。過信を捨て、自信を取り戻した点取り屋は次戦でスタメン復帰を狙う。大分は森島はじめ、この日チャンスを得たメンバーが躍動したことでチーム内の競争力が上がったことも、今後への好材料と言えるだろう。
この結果を受け、予選Bグループの首位にはC大阪が浮上。名古屋は鹿島と勝点で並んでの2位となり、勝点差1でF東京の追撃を受けることになった。次戦はアウェイで鹿島との対戦となり、そこが予選リーグ突破を分ける戦いにもなり得る。かつて鬼門と呼ばれたスタジアムでの一戦は指揮官の言う通り厳しい戦いになる。勝てば単独首位だったチャンスを逃した影響は、大きい。
そして名古屋は中2日で迎えるリーグ第6節へ向け、疲労度が気にかかるところだ。温存するつもりだったメンバーを使わざるを得ず、ここまで入れ替えの少なかったDFラインにも疲労がたまってきている。新潟には高さがそれほどないことを考えれば、ルーキー本多勇喜のセンターバック起用も含めたローテーションも十分にあり得る話といえる。15日間で5試合という過密日程は、ここまで1勝3分の無敗。最後を勝利で飾ることができるかは、コンディショニングがひとつの鍵となりそうだ。
以上
2013.04.11 Reported by 今井雄一朗
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