タイムアップの瞬間、NACK5スタジアム大宮は居心地の悪い静寂に包まれた。耐えきれなくなったかのように、おずおず……という感じで甲府サポーターが「コーヒールンバ」を歌い始めるが、ホームのゴール裏は沈黙したままだった。リーグ16戦無敗、公式戦4連勝中。相手は開幕から調子が上がらず、ヤマザキナビスコカップでも下位に沈み、先日ようやくシーズン初勝利を挙げたばかり。沈黙は、受け入れ難い敗戦への怒りというより、予想外のスコアへの戸惑いに見えた。
15日間で5試合を戦う過密日程の4戦目にあたるということで、両者ともベストメンバー規定ぎりぎりまでメンバーを入れ替えた。大宮は直近のリーグ戦から片岡洋介、長谷川悠、清水慎太郎、宮崎泰右、上田康太、村上和弘の6人が代わって出場したが、甲府に至っては4日前にシーズン初勝利を挙げたリーグ大分戦から11人が総入れ替え。その事実と、ここまでの戦績から見ても、大宮の優位は間違いないものと思われた。
実際、序盤は大宮ペースだった。互いに4−4−2の陣形でDFラインを高く保ち、前線からアグレッシブにプレスをかける。大宮は甲府のプレスをくぐってボールを運び、渡邉大剛と渡部大輔の右サイドからたびたびチャンスを作った。甲府もボールをつないで攻撃する意図は見えたがミスが多く、10分に水野晃樹がミドルを放った以外は攻め手がなかった。
それでも先制点は甲府。青木拓矢が「ふわっとしていた。メンタル面の問題」と悔やむ24分、左サイドのスローインを受けた金子昌広がペナルティエリアで2人をかわしシュート。こぼれ球を河本明人が押し込んだ。
スタート時は金子が2トップの一角で河本明人が右サイドハーフに入っていたが、20分ごろからベンチの指示でポジションを入れ替えていた。スピードで裏への飛び出しを期待されていた金子だが、甲府は大宮のDFラインの背後へ有効なボールをほとんど入れられていなかった。そこで「河本は前に張ってキープできるので、そこにDFラインやボランチからパスを入れて収めるというチームの形」(新井涼平)にし、金子のキレのあるドリブルをサイドで生かすねらいが当たった格好だ。
さらにその5分後、ペナルティエリア手前右22〜3メートルの位置で甲府がフリーキックを得る。直接ねらうと思われたが、ゾーンで守る大宮のファーサイドで菊地光将が2人を見る格好の数的不利を水野晃樹は見逃さなかった。上田と菊地の間へ正確なボールを水野が送り、河本が2点目となるヘディングを流し込んだ。
2点のリードで甲府は勢いづき、守備の集中力も増した。35分の青木のスルーパスに清水が抜け出してあわやPKかと思われた場面以外は大宮にチャンスを作らせなかったが、後半は大宮の怒濤の反撃にさらされる。
大宮はハーフタイムに清水に代えてズラタンを投入すると、51分に右コーナーキックからズラタンのヘディングで1点を返す。しかし56分にオルティゴサのクロスがペナルティエリア内で片岡の手に当たってしまい、PKを与えるとそれをオルティゴサが沈めて再び2点差。
大宮は59分に宮崎に代えて富山、65分に上田に代えて金澤慎を送り出して猛攻をかける。しかし青木が「ボールを中盤くらいまでは持てていたけど、前線に入ったときにうまく崩せなかった」と振り返る通り、崩してのチャンスはほとんど作れなかった。確かに決定機は何度もあったが、すべて渡邉のフリーキックから。コンビネーションというより強引に人数をかけての突破だったり、DFも待ち構えている状態でのクロス勝負だったりで、中央を固める甲府の守備を崩すには至らない。甲府は押し込まれてはいたが、ラインを押し上げる意思は捨てなかった。ゆえに大宮にとってはスペースもないわけではなかったが、そこを有効に使うことができなかった。大宮の攻撃にダイナミックさを加えた富山を、サイドハーフではなくFWの位置で使えていれば、また違った展開があったかもしれない。大宮は終盤に菊地を前線に上げてパワープレーを仕掛けるが、すべて甲府にはね返された。
試合後、青木は悔しそうな表情で「スコアほどやられた感じは、正直ない」と語った。上田も「失点の仕方が良くなかった」と唇をかむ。シュート数は15対6、コーナーキック数は9対4。データ上は大宮のゲームだったし、内容も大宮は決して良くなかったが、甲府がそれ以上に良かったわけでもない。ただ、要素を切り取ってみれば甲府の守備は素晴らしかったし、大宮の攻撃は拙かったのは確かだ。ベルデニック監督も「なぜうまくいかなかったかというのは説明し難い、はっきりとした理由を言うのは難しいゲームだった」と、歯切れが悪かった。もやもやした思いはゴール裏も同じで、それが終了後の沈黙となって表れていたのだろう。
甲府はリーグ戦初勝利に続く連勝、それも控えメンバーで現在好調の大宮にスコア上完勝したことは、チームに大きな勢いを付けた。シュート数、流れの中での決定機の少なさは課題だが、PKとはいえ期待のオルティゴサに初ゴールが生まれたことは好材料だ。すぐ土曜日に控える柏戦に、メンバー起用を含めこの日の収穫がどう表れるか楽しみだ。
対照的に大宮は、気分が重い。さまざまな面で思惑が外れ、徒労感が残った。一つは磐田が勝利したことによってグループリーグ突破がかなり厳しくなったこと。もう一つ、この日抜擢した新戦力が途中交代となったこと。さらに、前半で2点リードされるというおそらくは想定外の試合展開に、後半開始という早い段階でズラタンを投入せざるを得なくなり、少なくとも後半途中から休ませたかったであろう渡邉と青木をフル出場させざるを得なくなったこと。こちらもすぐ土曜日には、アウェイでC大阪戦が控えている。引き分け以上ならリーグ戦の連続無敗記録1位タイに並ぶ大事な一戦だけに、しっかり切り替えて準備したい。
以上
2013.04.11 Reported by 芥川和久
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