2点リードを追いついたとはいえ、大宮にとっては完敗といえるゲームだった。柏は徹底的に研究して大宮の良さを消し、ミスを誘ってのカウンターで次々にゴールを奪った。大宮は監督交代の劇薬も空しく、ついに連敗は7を数えた。
21日(水)に柏がACLを戦っていることで、体力面では大宮が有利かと思われた。しかし柏は、コンディションを考慮してクレオ、レアンドロ ドミンゲスを温存し、田中順也と澤昌克を前線に並べた。これによって、「試合を作ってくるレアンドロをどうケアするかが中心だった」と複数の選手がいう、事前スカウティングの大部分が水泡に帰した。レアンドロはボールを持たせれば恐ろしいが、広範囲に動き回ってボールを引き出すわけではないため、ボールの入るコースを切り、入ったときはボランチとセンターバックで厳しく当たることで対策を準備していたが、左右はもちろん裏に走ったり中盤に下りたり神出鬼没に動き回ってボールを引き出す澤の存在に大宮は最後まで手を焼いた。
逆に大宮のスタメンは、柏にとってほぼスカウティングの通りだったろう。もちろん大宮で最も警戒するところはノヴァコヴィッチとズラタンの2トップとなるが、柏はその2トップそのものを止めるというよりも、「チームに新しい力を加えるため」(ネルシーニョ監督)に起用した、前線のフレッシュな選手を中心にハイプレスを仕掛け、2トップにボールを入れるルートを徹底的に遮断した。中盤の底で青木拓矢に自由を与えず、前線との接着剤になっている右サイドの渡邉大剛に入れば厳しくフィジカルで潰しにいき、左サイドでチョ ヨンチョルがボールを持てば縦を切って中に追い込む。集中した柏の守備に、大宮はボールを前につなぐことができなかった。「もうちょっとボールを持って、落ち着いてつなぐ時間が作りたかった。サイドハーフやボランチに厳しくくるなら、センターバックやサイドバックからFWに一発で入れたりできれば、相手のねらいをかわしながらいけたと思うんですが……」と下平匠が振り返るが、柏の勢いに押され、大宮はバタバタしたままミスをくり返した。
実際、柏は大宮のボールの運び方を読み切っていたように思える。4分の柏の先制点は青木のサイドチェンジをジョルジ ワグネルが奪い、田中が見事なミドルシュートを叩き込んだものだが、ヨンチョルが左サイドで行き場を失ったときに、サイドチェンジして右から攻めるのは大宮の一つの形で、第14節のホーム鳥栖戦でも青木がサイドチェンジからゴール前に走り込んでゴールを奪っている。そのサイドチェンジが完全に狙われた。27分の柏の2点目、65分の澤の逆転ゴールも、渡邉大剛のFWへの縦パスが読まれ、奪われたところからカウンターが始まっている。柏は「順也(田中)と澤の裏に抜ける動き、澤が引いてきて落ち着かせてからまた飛び出す形が効いていた」(栗澤僚一)。裏に抜ける動きで大宮の最終ラインを下げ、バイタルエリアを澤とジョルジ ワグネルが自由に使うことで、ねらい通りの形でゲームを進めたといっていいだろう。
ただ大宮も、良い時間帯はあった。35分過ぎからは柏の運動量が落ちたこともあって、ボールを奪う位置が高くなり、2トップにボールが入るようになってきた。1点差に追いついた前半終了間際のPKは、大宮の一つの武器である下平のアーリークロスからノヴァコヴィッチがペナルティエリア内で倒されたもの。後半に入っても良い流れは継続し、50分には渡邉大剛の縦パスをスイッチにノヴァコヴィッチが右にはたくと、右サイドバックとして今季初スタメンの片岡洋介がたどたどしくはあったが橋本和を突破してグラウンダーのクロスを送り、渡邉大剛の同点ゴールを呼び込んだ。
ここから10分間は大宮のペースで進み、コンパクトな守備から柏にボールを下げさせ、ロングボールを蹴らせ、セカンドを拾って攻撃を仕掛けた。しかし、悪い時間帯での、選手間の修正力でも柏が上回った。「2トップを縦関係にして、一人が相手のボランチをケアして、一人がセンターバックにプレスをかけるようにした」(澤昌克)ことで、大宮の攻撃を再び寸断すると、60分ごろには再び主導権を握り返し、勝ち越しにつなげた。大宮は新加入のニールに加えて長谷川悠を投入し、終盤には菊地光将を前線に上げてパワープレーの猛攻を見せるが、柏ゴールをこじあけることはできなかった。
柏にとっては、試合に飢えていたフレッシュな選手を5人起用しての勝利だけに、天皇杯やACLもからむ過密日程を戦い抜く上で非常に大きな勝利となった。シュート数では大宮14、柏15のほぼ互角だが、大宮はねらった形というよりも行き詰まった末の力攻めが多く、対して柏は大宮を守備ではめ込んでのカウンターという意図通りの形。大宮にとってはその事実が、スコア以上に疲労感を募らせる。「サッカーは難しいスポーツで、今日は難しいゲームになるなと思っていたが、予想以上に難しいゲームになった」という小倉勉新監督の述懐は、偽らざる心境だろう。立て直すにはあまりに時間は短いが、それでもすぐに次のゲームはやってくる。
確かにチームワーストタイ記録となる2005年以来の7連敗は喫したが、指揮官も「そこが一番成長したところ」と語るように、追いつくために最後まで気持ちを前面に出して選手たちはプレーした。アディショナルタイムのコーナーキック、ゴール裏の地鳴りのような後押しに感じた一体感は、このところ忘れて久しい感覚だった。試合後のゴール裏にブーイングがなかったのは、新監督への遠慮というよりも、短い時間ながらその一体感を共有したことが大きいはずだ。確かに前半戦に感じたそれには及ばないかもしれないが、まだ大宮はやり直せる。もう一度、ここから始めよう。
以上
2013.08.25 Reported by 芥川和久
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