勝者のメンタリティー。最下位の昇格組にそれを求めては酷というものかもしれないが、せめてリードを守るための心の準備ができていれば、結果は違ったものだったかもしれない。名古屋が大分に逆転勝利を収めた背景には、そうした心理面での大きな差があった。要するに名古屋は勝つことを知っており、大分はそれに慣れていなかったのだ。
大分にとっては会心のゲームになり得た試合だった。前節から中3日で迎えた一戦で、名古屋はやや疲弊したところを隠せずにいた。さらには田中マルクス闘莉王を負傷で欠き、後方からのビルドアップにいつものキレがない。代役のダニエルはそれでも時折、鋭い縦パスを前線に供給していたものの、そこからの連動した攻撃につながっていかなかった。大分は両ウイングバックが下がり、オフェンシブMFの2人がサイドハーフのように開く5-4-1の陣形で守備ブロックを固めてきたが、これも機能し名古屋に隙を見せなかった。「連戦の中で我々のサッカーはできた」と田坂和昭監督は胸を張ったが、確かに前後半でそれぞれシュート5本ずつと、名古屋の攻撃は概ね抑えられていたと言える。逆に名古屋は「リスクをどこで冒すのかを考えている時点で相手のペース」と楢崎正剛が振り返った通り、思うような試合運びをできずにいた。やりたいサッカーをできているという観点からいえば、主導権は能動的に守っている大分にあった。
後半も前半同様の展開が繰り返される中、焦れる展開を打開すべくストイコビッチ監督は2枚代えに踏み切った。64分、中村直志と小川佳純に代え、矢野貴章と永井謙佑。だが前節のC大阪戦で効果を挙げた交代策も、引いてブロックを固める相手に対しては期待値通りの効果が出ず、流れは変わらない。そして大分の先制点は、その隙を突くようにして生まれた。66分、左サイドのコーナーキックからの継続した攻撃の中で、左サイドからのパスを中央で松田力が受けると、反転しながら寄せてくるDFを苦にせず右足を振り抜いた。「感覚で打ちました」という強烈なミドルシュートは低い弾道で名古屋ゴールに突き刺さる。「ニアを抜かれたので悔しいけど、良いシュートだった」と楢崎も認めるスーパーゴールで大分が先制。劣勢にあった名古屋にとっては嫌な予感が漂う失点だった。
しかし、大分は勝敗に対してナイーブすぎた。名古屋は失点後から「火が点いたように」(楢崎)猛攻を開始。前半にはあまり見られなかったアーリークロスをはじめ、シンプルな攻撃で大分のDFラインを攻め立てる。リードを守ろうとするあまり防戦に回った大分は押し込まれ、75分、ついに築き上げた守備ブロックが決壊してしまう。右サイドの深い位置に侵入した田中隼磨がクロスを上げると見せかけ、単純な切り返しでDFをかわすと左足でクロスを中央へ。これをケネディが落ち着いて胸でトラップし、豪快に蹴り込んだ。前節ではことごとくチャンスを外し、この日も徹底マークに苦しんでいたエースストライカーだったが、「最初はヘディングも考えたが、コントロールした」と、DFがクロスにかぶるミスを見逃さずに確実なフィニッシュを選択。冷静な判断によって生まれた同点ゴールは、チームを勇気づけ、相手をさらなる混乱へと導いた。
得点後すぐの76分には藤本淳吾の鋭いくさびのパスをケネディがダイレクトで玉田圭司にスルーパス。「あれは決めないといけなかった」と決定機を外した玉田は顔をしかめたが、この時間帯は大分の守備に明らかな綻びが生じていた。そして79分、左サイドからのコーナーキックをケネディが難なく頭で合わせて逆転。ケネディはこれでシーズン10得点に乗せ、リーグの得点ランク10傑の仲間入り。失点後から13分間で試合をひっくり返し、2得点はわずか5分の間で奪うという怒涛の巻き返しを見せた名古屋はそのまま試合をシャットダウン。手にしたリードに対しても大分のようなナイーブさは一切見せず、反撃をきっちり抑え込んだ。勝利を知る者の、抜かりない試合の締め方だった。
大分の田坂監督は粛々と試合を分析し、敗戦の理由を「得点して勝点を得なければというプレッシャーを感じてしまう。心に余裕がない」点に求めたが、それは選手たちも同様に感じていることのようだ。司令塔・梶山陽平も「前半からディフェンスラインとの間でボールは回せていたので、得点後も落ち着いて回すことができていれば。そういう余裕を持ってやりたかったですけど、みんなが同じ意識を持たないと、相手にはめられるだけ。次、また先制できれば余裕を持ってプレーして、相手が食いついてくれば裏が空いて追加点といういい形にしたい」と余裕をもったゲームコントロール、判断の部分が勝点を逃した要因と考えていた。いまだ最下位と苦しい戦いが続くが、試合内容自体がそこまで悪いわけではないだけに、着実なステップアップが課題克服への近道だろう。
これで名古屋は8試合連続無敗で順位を1つ上げたが、ストイコビッチ監督の記念すべき監督100勝目という節目の勝利でもあった。就任193試合での達成は西野朗(180試合)、トニーニョ セレーゾ(189試合)両氏に次ぐ史上3番目のスピードで、彼が名古屋からその経歴をスタートさせた指揮官ということを考えれば、この記録は驚くべきものだと言えるだろう。「この5年半、多大な努力をしながらプレーをし続け、素晴らしいパフォーマンスで共に戦ってきてくれた選手達に感謝の気持ちを贈りたい。この5年半は私にとっての“誇り”です。ただ、この記録をここで止めたくはない。これからも勝ち続けていく」。チーム一の負けず嫌いはさらなる躍進を宣言した。次節は中2日でアウェイ鳥栖に乗り込むが、ここでも狙いは勝点3のみだ。気づけば4位C大阪、5位鹿島との勝点差は3。6位大宮とは勝点2差となり、次節の結果次第ではジャンプアップも望める。名古屋の追い上げは、ここからが正念場だ。
以上
2013.08.29 Reported by 今井雄一朗













