「あそこまで前からハメてくると思わなかった」（興梠慎三）

新潟は浦和対策としてマンツーマンディフェンスをやってきた。それもフィールドプレーヤー全員が人に付く、オールコートマンツーを仕掛けてきた。

攻撃時に４−１−５になる浦和に対し、新潟はオールコートマンツーマンで戦っているので守備時は当然５−１−４になる。１アンカーの鈴木啓太がボールを回すためにＤＦラインに落ちれば、マークを担当したレオ シルバもついていくので、中央のエリアに敵味方とも誰もいないという光景があったほど新潟は徹底していた。

新潟は攻撃面でも狙いが明確だった。自陣深い位置でボールを奪ったら無理をせずシンプルにロングフィード、高い位置でボールを奪えたら素早くゴールに迫るというリスクの少ない攻撃をしてきた。この選択は後方からボールをつなごうとする浦和に対して効果的で、前半は浦和よりもチャンスの数が多かった。

前半の浦和は新潟のマークにハメられて苦労するシーンが多かった。全員にマークがついているので縦に蹴るしかなくなり、興梠が舞行龍ジェームズに潰されるというパターンが何回も見られた。興梠は「前からハメられていたので、なかなか後ろから運べず、ロングボールが多くなったけど、前には僕しかいないので、そこに目掛けて蹴ってきても、相手はデカくて体が強いので苦戦した」と振り返っている。

しかし、浦和もチャンスが全く作れなかったわけではない。フルコートマンツーなので、マークが１つ外れれば、その選手はドフリーになる。たとえば２０分の場面、センターライン付近でフリーでボールを持った森脇良太は誰もマークについていない状況だったので、簡単にゴール前までボールを運んで宇賀神友弥の決定的なシュートにつなげることができた。

また、新潟は浦和の特殊なフォーメーションに形を合わせることになるので、守備陣形のバランスが悪くなる。そしてその状態でマークを外してしまうと、不自然にできている大きなスペースを使われやすくなる。浦和が３６分に作った決定機はまさにその形から生まれたもので、左サイドでフリーになっていた鈴木啓太に柏木陽介が展開すると、鈴木は敵が誰もいない左サイドを悠々とドリブルで駆け上がり、ゴールライン付近までボールを運んで折り返すことができた。

「正直、非常にやりづらかった」と森脇が振り返ったように、新潟の戦い方に浦和は苦しんだ。だが、その戦い方はマークが１つ外れると、とても危険な形になりやすかった。浦和の先制点、そして結果的に決勝点となったゴールもマークが外れたことが原因で生まれた。

それはリスタートの局面だった。FKのためにセットしたボールに柏木ともう１人の選手が並んで立つ。その時、新潟は壁役に１人しかいなかったので、プレーを始めると局面２対１で浦和が有利となり、柏木がフリーで前を向いてボールを持った。その時も新潟の選手はマンツーマンで対応していたが、興梠を見るはずの舞行龍は柏木の持ち運びに気を取られ、ボールウォッチャーになっていた。

その瞬間を興梠は見逃さなかった。目線を切った舞行龍の背中を取り、死角から柏木のパスを引き出して勝負あり。ペナルティエリア内でフリーでボールを持ちだすと、「あそこはたぶんループしかなかった」と飛び出してきたGKの頭上を浮き球で抜いた。

試合は我慢比べの様相を呈したが、浦和が一瞬の隙を突いて出し抜いた。「内容はあまりいいサッカーではなかったかもしれないが、両チームともハードに、ベストを尽くした締まったゲームだった。最後まで勝敗がどちらに転ぶか分からないゲームだった」とはミハイロ ペトロヴィッチ監督の試合評。確かに新潟にもビッグチャンスはあった。１７分に阿部勇樹のクリアしたボールがもう少し内側に転がってポストに嫌われなければ違った展開になっていたかもしれない。だが、浦和の選手たちが横浜FM戦とは比べ物にならないくらい粘り強く戦えたことが勝利につながったのは間違いないだろう。

以上

2013.09.01 Reported by 神谷正明