9月26日(日) 2004 J1リーグ戦 2ndステージ 第7節
広島 3 - 0 東京V (15:00/広島ビ/8,141人)
得点者:'0 大木勉(広島)、'62 李漢宰(広島)、'83 田中俊也(広島)
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静かな、かなり静かな、キックオフだった。
通常、試合前の練習から、サポーターの野太い声が、ピッチに響き渡る。メンバーに入った一人ひとりの選手のコールが起こり、広島コールや応援歌がこだまする。それが、通常の光景だった。
しかし、この日。サポートのリーダーシップを握るグループは、応援を拒否した。選手に奮起を促すためだ。もちろん、その結論にいたるまでは、様々な議論があった。「こんな時こそ、力強く応援した方がベターだ」「いや、そうじゃない」。激しい意見の交換もあった、と聞く。しかし、結果として、すべてのサポーターグループが「応援拒否」に同調した。しかも、90分間、たとえ広島がゴールをあげても、応援するのはやめよう、と。
「高い理想はまず足元からじゃ!」などという厳しい言葉を書いた横断幕が掲げられる一方で、紫のフラッグもなければタスキもなく、立って選手たちを迎えることもない。サポーターたちは、選手を厳しく突き放した。
声援のない、静かなキックオフ。しかし、そのわずか18秒後、広島ビッグアーチの静寂はあっさりと打ち破られた。茂木のクロスがDFに当たってフワリと浮いたボールに飛び込んだのは、大木。フライングボレーシュートで、その浮き球を押し込み、広島が先制する。その瞬間、スタンドから自然発生的に歓声があがった。そして、拍手、声援、叫び。確かに「大木コール」は巻き起こらなかった。しかし、素晴らしい先制ゴールをあげた大木に対して、惜しみのない拍手が贈られたのである。
「僕たちが頑張っていい試合をして、自然に応援が起こるような雰囲気にしたい」
応援拒否のことを知らされた森崎和が、試合前に語った言葉である。そしてそれは、チーム全体の想いだった。サポーターの苦渋の決断はしっかりと選手に伝わっていた。だから、どうしても勝ちたかった。泥臭く食らいつき、攻撃に出たい気持ちをグッとこらえ、相手の攻勢にも気持ちを切らさず、かみつくような守りで周囲を鼓舞する。この日、3バックのセンターを任された小村が、鬼のような形相で東京VのFWをつぶしにかかった。根っからのストライカーで守備に自信のない茂木が、右サイドで東京Vのパス回しに翻弄されそうになりながら、その都度身体と気持ちを奮い起こし、相手につっかかっていった。後半立ち上がりの東京Vの猛攻を、彼らに代表される全員守備で耐え切ったことによって、スタンドはますますヒートアップしてきたのだ。
「頑張れ!」「負けるな!!」「そこ、あぶない!」「よし、クリアだ」
次々とスタンドから自然に巻き起こる歓声。広島の選手がボールを奪う度に、巻き起こる拍手。歯を食いしばって戦う選手の姿が、自然とサポーターの叫びを誘った。さらに、スタンドのあちこちから「サーンフレッチェ!チャチャッチャチャッ」というコールまで、巻き起こった。組織的じゃないから、決して大音量のものではない。しかし、その声は、疲労にむしばまれ始めた紫の戦士を、確実に奮い立たせた。
62分、高い位置で田中がボールを奪い、盛田がドリブルで攻め上がり、ベットがペナルティエリアの中で高い個人技を見せ、そして50mものフリーランニングを敢行した李が、J1初ゴールを叩き込む。勝利に大きく近づく2点目に、スタンドは沸き返る。
82分、攻守に大奮闘したベットが選手交替のためピッチから去ろうとした時、スタンドを埋めたサポーターが一斉に大拍手を贈った。その直後、右サイドでボールを奪った木村が、絶妙の切り返しからDFを置き去りにしてクロス。それを受けた田中が、一度DFから逃げた上でスペースをつくり、そこにボールを落とすことで相手を翻弄。詰めてきたDFをあざ笑うかのような、冷徹なタイミングで放ったシュートが、ネットを揺らした。その瞬間、ビッグアーチは総立ちとなり、大歓声が鉛色の空に突き刺さった。試合開始の頃の静けさを、もうほとんどの人が忘れていた。
試合後、ヒーローインタビューのために、サポーターへの挨拶が遅れた盛田と服部が、サポーター・リーダーたちの前に近づく。
その時だった。「盛田!盛田!」「服部!服部!」そして「ヒ・ロ・シマ!ヒ・ロ・シマ!」
いつもの、大音量の声援がこだました。この日、ゴールの瞬間ですらコールを我慢し、信念を貫き通したサポーターたちが、一斉に声をあげたのだ。
応援しないことに対して、様々な場所で議論が起こり、批判もあった。内部でも葛藤があった。これで本当にいいのか、という自問自答も、きっとあったはずだ。しかし、サポーター自身も苦しみながら出した結論に対し、選手たちは結果で応えた。負傷者が続出し、代表に主力をとられ、満身創痍でボロボロになったこのチームの危機的状況を理解しながら、あえて厳しい行動にうって出たサポーターの賭けに、選手たちがしっかりと応えた。最後の最後に鳴り響いたサポーターのコールは、それに対する返答だったのだろう。
「この勝利は大きい。いいきっかけになるはずだ」
敵将・アルディレス監督に「素晴らしい選手だ」と絶賛されたベットは、試合後、こう語った。そう、広島にとってこの試合は、ひとつの分水嶺となるかもしれない。選手とサポーターが、共に試練を乗り越えた、という意味で。
以上
2004.09.26 Reported by 中野和也
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