1月21日。チーム始動日に行われた今季初のミーティングで、小野剛監督はホワイトボードに、一言だけ書きなぐった。
「タイトル」
今季の広島の想いのすべては、この言葉に集約される。
昨年、一時はリーグ2位に浮上する躍進を見せた広島。後半に失速してしまったものの見事に7位入賞を果たした。順位やデータだけでなくその内容でも一昨年よりも大きな前進を果たした広島にとって、もう目指すものは「タイトル」、その夢を現実に変えることしかない。
その目標のために、今季の広島はピンポイントの補強を仕掛けた。昨年18得点と大ブレイクを果たした佐藤寿人とコンビを組み、前線で起点となって佐藤寿や中盤の得点力を引き出し、かつ自分でもゴールを狙えるストライカーとして、2003年J1得点王のウェズレイを獲得。さらに、リーグ第2位のパス本数を記録し名実ともにチームの大黒柱となった森崎和幸が本来持っている攻撃力を引き出すために、強烈な中盤の守備力とビルドアップ能力を持つ戸田和幸を獲得。また彼の獲得によって、これまでの広島にはなかった「激しさ」と「声」を付加することも狙った。この二人の加入に加え、もう一人大きな戦力がチームに戻ってきた。昨年は怪我とコンディション不良でほとんど活躍できなかったアテネ五輪代表・森崎浩司である。
昨年の広島は、確かに攻撃面で大きな成長を果たしていたが、しかしそれは佐藤寿をはじめとして、昨年39得点を記録したFW陣の活躍によるものが大きい。一方でMF陣のゴールはわずか7。この状況を放置しておけば、今季は攻撃に手づまり感が出てくることは明らかだ。
その課題解決のためには、例えばG大阪の遠藤保仁のようなパンチ力のあるミドルシュートを持ち、C大阪の森島寛晃のように2列目からスペースに飛び出してゴール陥れることができる攻撃的MFが、中盤の攻撃力アップにはどうしても必要だ。そしてそれは、一昨年まで2年連続でチーム得点王の座にあった森崎浩が戻ってくれば一気に解決できる課題。実際、森崎浩はキャンプから積極的に自分のプレイをアピール。復活、というより1ランクスケールアップした、強烈な印象を与えている。
タイトル、という言葉を噛み締め、キャンプでも実にモチベーションが高かった広島。充実した実力を持つ主力に加え、若手が台頭して層に厚みを増せば、広島が今季掲げた夢が実現する可能性が、さらに広がってくる。
【注目の新戦力】
●FW10 ウェズレイ
33歳という年齢に加え、ここ2年は彼らしい活躍ができていなかったことから、ウェズレイの加入には期待の反面、疑問符をつける声もあった。しかしその不安を、ウェズレイはキャンプでのパフォーマンスで、まず払拭している。左右両足から繰り出す強烈なシュートは、どんな体勢からでもゴールに叩き込める。正確無比なFKはほぼ百発百中の威力を示し、チームメイトを唖然とさせた。ドリブルやスルーパスも強烈で、さらに前線からの守備にも果敢にトライし、気持ちの高さを見せている。
彼の加入は、まずベットに強い刺激を与えた。ウェズレイというパートナーの存在により、昨年はやや迷いが見えた彼のプレイに確信が生まれた。実際、キャンプ中に見せたベットとウェズレイのコンビプレイは興奮に満ち、広島のサッカーにエンタテイメント性が加わっていく可能性すら、感じさせた。
またウェズレイが前線でボールをキープすることで、MF陣の「飛び出し」の頻度が格段に増えた。横浜FMとの練習試合ではウェズレイキープ→飛び出し、のパターンで横浜FMのDFラインをズタズタにした。シュートの正確性さえあれば大勝できたゲームを演出したのは、間違いなくウェズレイだった。
彼の加入により、広島の攻撃に「怖さ」が加わったことは、間違いない。あとは、長くて厳しいシーズンを、33歳の彼がどう乗り越えるか。しかし、そこも経験豊富かつ生真面目なウェズレイに、不安はあるまい。
【日本代表へイチオシ】
●DF17 服部公太
日本のサイドアタッカーには、突破に特徴を持つ選手が多い。しかし正確なクロスで得点を演出できる、いわば「ベッカム型」のアウトサイドは、意外に少ない。その数少ない「ベッカム型」の選手が広島の両サイド、駒野友一とそして服部公太なのである。
ただ、スピード系のクロスを得意とする駒野に対し、服部の場合はフワリとあがって大きく曲がり落ちる球質に特徴を持つ。FWの動きを読みきり、DFが届かない絶妙の空間に正確にクロスを曲げ落とす。しかも、そのボールの回転とスピードをFWにとってシュートを打ちやすいレベルに自在に変化させる細かさもある。以前、広島でコンビを組んでいた久保竜彦(横浜FM)は、服部に対して『自分の頭の数センチ前にクロスが欲しい』と細かな要望を出していた。そして服部はその要求に応え続けた結果、彼のクロスによって久保は得点を量産したのである。
その久保はもちろん、高原直秦や鈴木隆行といった高さを武器にする代表FWにとって、服部のクロスは「おいしい」はず。また、大黒将志に代表されるスピード型FWにも、佐藤寿人に対してのアシストで対応可能であることが実証された。
強いフィジカルとクレバーなポジションどりで守備も強い服部は、3バックでも4バックでも対応できる。109試合連続フルタイム出場を記録中など、タフネスもある。とにかく一度でいいから、この広島史上最高の左サイド=服部公太に代表のユニフォームを着させてやりたい。そう感じている人は、決して広島サポーターだけではあるまい。
【開幕時の布陣予想】
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さて、この主力組に挑む選手たちだが、FWにはドリブルとアイディアに満ちたプレイが得意のファンタジスタ・前田俊介や高さと運動量のある上野優作、テクニックと知性に長け、MFとしても活躍できる大木勉がいる。MFでは正確なクロスに才能を感じさせ始めた李漢宰が虎視眈々とポジションを狙い、また1対1に強さを発揮し「将来は今野泰幸(F東京)のような選手に」と期待の大きい高柳一誠も着実に成長を見せている。
そして、もっとも厳しい競争が勃発しているのがCBだ。昨年、一時は平均失点ゼロ点台をキープしていた小村徳男・ジニーニョの実績組に加え、昨年後半に台頭してきた西河翔吾や吉弘充志といった若手もいる。さらに、FWから転向した盛田剛平が、その強靭なフィジカルと高いモチベーションを武器にアピールを続け、小野監督も盛田の開幕スタメンについて「可能性はある」と言及した。今年30歳を迎える盛田のDF転向がもし成功すれば、それは一つの歴史となる。
Reported by 中野和也
2006開幕直前 クラブ別キャンプ・戦力分析レポート














