93年5月15日に開幕したJリーグ。当時からJリーグに携わっていた山内雄司氏(元週刊サッカーダイジェスト編集長、現在フリーライター)が、開幕前夜の様子をレポート。Jリーグが始まる直前のあの日の熱気がよみがえる。
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「おいっ、明日だな。本当に明日から始まるんだよな」
受話器の向こうの声は、明らかに興奮していた。1993年5月14日夜、落ち着かない気持ちを誰かに伝えたいと思っていた矢先、そんな私の気持ちを察したかのように電話のベルが鳴った。「もしもし」を言う間もなく、いきなり彼は早口でまくしたてた。
「山ちゃん、開幕戦行くの? 行くんだろ、いいよな、羨ましいよ。これからずっと試合観に行けるんだろ。そんな仕事ありかよ。羨まし過ぎるよ」
彼とは、数年前に共通の友人を介して知り合った。ともにサッカーが好きというだけで一気に親密となり、共通の友人抜きで頻繁に会うようになった。出会った頃は、互いにこの選手は、あの選手は、と海外リーグのスターの凄さを言い合い、最後にはいつも「日本はプロリーグがないからなぁ」と、ふたりして嘆いていた。
しかし……、明日からはもう違う。
「本当に始まるんだな、本当に。明日だもんな、参っちゃうよな」
彼はひとりごちて電話を切った。その気持ちは十分に理解できた。オレだって、明日から始まるなんてまだ信じられないんだからさ。
去年のことだ。翌年始まるリーグのプレ大会として開催されたヤマザキナビスコカップに出場したあるベテラン選手は、こそっと打ち明けてくれた。
「なんだか夢みたいなんだよ。今までガラガラのところで試合していたのに、急に応援されちゃって、正直なところ面喰ってる。信じられないよ。でもさ、精一杯やるよ。死ぬほどやるよ。あんだけ声援くれるんだから。しっかしさ、開幕なんてことになったら、オレ、どうなるだろう。想像もつかないよ。きっとビビっちゃうね。情けないけど」
日本リーグの猛者から「ビビっちゃう」なんて言葉を聞かされるとは思わなかったが、選手にとっても信じられないくらいの勢いで物事は進んだ。一気にサッカー熱が高まった。そして明日、いよいよ日本にプロリーグが開幕する。本当に? まだ夢のような気がする。
「鹿島アントラーズ、浦和レッドダイヤモンズ、ジェフユナイテッド市原、ヴェルディ川崎、横浜マリノス、えっとそれから横浜フリューゲルス……」
はやる気持ちを静めるために、Jリーグチームを読み上げていく。明日から、これらのチームによって、毎週毎週、この日本でプロのサッカーが観られるんだ。口元が自然とゆるんでくる。
「清水エスパルス、名古屋グランパスエイト、ガンバ大阪、サンフレッチェ広島っと」
おっと、いけない。明日に備えて早く寝なきゃ。編集長も「明日からは今日までとガラッと変わるぞ」って言ってたよな。どう変わるんだか分からないけど、とにかく新しい毎日になるような予感はある。明日から、本当に明日から始まるんだよな。本当に?
目が冴えてまったく眠れない。
「横浜マリノスとヴェルディ川崎か。くーっ、まったく歴史的な一戦に相応しいカードだよな。マリノスの長短織り交ぜたパスワークも捨てがたいけど、やっぱりヴェルディだよな。ラモスがちょこっと出して、カズがシュート。井原が止めてもこぼれ球に武田が突っ込んでゴールかな。待てよ、木村和司のフリーキックがあった。ディアスもいるし……。ヤバい、分かんねぇー」
横になっても、翌日のことがちらついて仕方がない。すると突然、けたたましく電話のベルが鳴った。なんだよ、早く寝なきゃいけないっていうのに。
「おいっ、本当かよっ! 山ちゃん、明日からずっと取材しに行くんだよな。オレ、羨ましくてさぁ〜」
再びまくしたてる友の声を聞きながら思った。きっと今この時間、日本中で私たちと同じような会話をし、眠れない夜を過ごしている人も多いのだろうと。そう、それだけ僕らは夢見ていたのだ。明日という日が訪れることを。
1993年5月15日、ついに日本のサッカーが新たに生まれ変わる。その瞬間に立ち会える幸運に震えが止まらない。もう寝てなんていられるかっ!
「おお、いよいよ本当に明日だぞ。お前、どっちが勝つと思う? オレはなぁ……」
ガバッと起き上がり、友に負けじと私も早口でまくし立てていた。
以上
Reported by 山内雄司
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