5月19日(土) 2007 J1リーグ戦 第12節
甲府 0 - 0 清水 (19:04/小瀬/12,422人)
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清水にとっては第12節を終えて2位・浦和に並べたはずの試合を引き分けて“しまった”試合。だが、甲府にとっては、評価に幅が出る引き分けだった。清水の試合を軸にJリーグを見ている静岡在住のある記者は「清水は今シーズン最悪の試合。甲府は勝てた試合。あのチャンスに決めないとね」と感想を話した。おおむね「Yes」なんだが、全面的に「Yes」でもない。
前半、風上に立った甲府は優位にポゼッションをして試合を進めた。決定機は少なかったものの、ゲームとしての安定感、プレーの質は高かった前半だった。清水はカウンターで甲府のディフェンスラインの裏を狙ってくるが、甲府の守備は効果的な攻撃を発揮させなかった。「ボールを奪っても、甲府の守備への切り替えが早くて引っかかった。ボールを失いたくなくて少し(攻撃が)雑になった」と市川大祐は話した。清水のカウンターは非常に脅威だったが、攻守の切り替えの早さと湧き出すようにボールに次々とアプローチする守備はそれを封じた。
今シーズンは ― やられた場面も少なくはないが ― 積極的な守備にトライしながら徐々に結果を出しつつある。チーム全体の守備の意識が確実に進化していくと、メンバーが同じでもディフェンスラインの個の能力の問題が小さくなるのだ。そのなかで目を引くのは増嶋竜也だ。CBとしてのフィジカル的なアドバンテージは大きくない選手だが、各チームのエースFWを相手に果敢に挑む積極性が魅力。今節も、「清水の2列目に対して引かないで出て行った」と言うように、ズルズル引いてスペースを与えるのではなくプレスの空白を作らないように前でボールを奪いに行った。前線からの守備の連携があったからこそできることだが、増嶋がリードする甲府のディフェンスラインのプレーぶりは(攻撃参加を含めて)甲府の守備の理想形を見せてくれる。強烈な個を持つ攻撃陣を止めるにはどうすればいいのかという理想を。後半は足が止まって押し込まれた時間帯があったが、清水のシュートミスに助けられたのではなく、甲府がギリギリのところで守りきって失点を0に抑えたと言っていいだろう。
清水は兵働昭弘を発熱、好調の岡崎慎司を膝の故障で欠いたが、フェルナンジーニョ、チョ ジェジン、藤本淳吾というレベルの高い個が前線に揃う。彼らを相手に甲府が90分間無失点で居続けることは難しく思えたが、カウンターからゴールを決められなかったのは痛かった。それ以外では点が取れそうな場面はなかったからだ。先発のチャンスを貰った杉山浩太、枝村匠馬ら清水ユース出身選手が何度か素晴らしいスルーパスを出したが、これも得点には繋がらなかった。長谷川監督はツートップの距離が離れていたことと、前線でタメが作れなかったことを無得点の理由に挙げる。甲府陣内に押し込んだときでも、崩すのではなくてボールを動かしてプレッシャーをかわしているだけで、最後はチョら前線の個の強さに頼らざるを得なかった。優勝争いの舞台に居続けるには、強烈な個に頼るのではなく、生かす必要があるだろう。守備面では高さと強さがあるセンターバックが甲府の攻撃を跳ね返し、決定的な危機はボランチの伊東輝悦がカバーした。伊東のプレーは攻撃の芽を摘むというよりも、花が咲く直前に摘むという職人芸の守備で、高い評価に値するものだった。
冒頭の記者の感想に、全面的に「Yes」でない理由は、カタカナ無しということだ。甲府は5月3日の第9節以降、ナビスコカップを含めて12節の清水戦まで外国籍選手は先発どころかベンチにも入れていない。頼りになる外国籍選手を擁するチームと決定力が違うのは仕方がない。もっと言えば、J1クラブの平均予算の約半分の予算で戦っているのが甲府。練習環境を含めて、よくやっているという気持ちは強い。だから勝てなくてもいいとは思わないが、全力で戦った末に出てきた結果なら受け入れたい。刹那刹那で観れば不甲斐ないと感じる部分は有るが、長い目で見ればやはり「右肩上がり」になりそうな手ごたえは感じる。ただ、サブやベンチ外メンバーの成長という新陳代謝は必要だから、サテライトリーグや水曜日のトレーニングマッチで喝を入れるのが新陳代謝を促す一番のサポートかもしれない。
「大木監督がいるうちにいいFWを取るべき」とも前出の記者は話したが、これについては全面的に「Yes」。しかし、Jリーグで実績のあるFWに更に高いギャランティーを提示して獲得できるのはビッグクラブだけ。どこかにFWのアウトレットモールがあって、箱に傷が付いたワシントン(浦和)やマグノアウベス(G大阪)でも売っているなら夜から並ぶのだが、今は与えられたメンバーで個とチームとしての質を上げることで得点力アップを目指すしかない。ゴールデンウィークの連戦で身体の芯に乳酸が染込んだ状態でキレがよくないが、日本人選手だけでもう少しはやれる感じはする。今節の勝点1で対戦した全てのチームから勝点を挙げた甲府。5月19日は、そう悪くない夜だったんではないだろうか。
以上
2007.05.20 Reported by 松尾 潤
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■注目プレイヤー: 増嶋 竜也選手(甲府)
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