11月4日（日） 第87回天皇杯4回戦
磐田 6 - 1 順天堂大学　（13:00／ヤマハ／4,189人）
得点者：18' 前田　遼一（磐田）、23' 岡本　達也（順天堂大学）、37' 太田　吉彰（磐田）、52' カレン　ロバート（磐田）、56' 茶野　隆行（磐田）、79' 成岡　翔（磐田）、86' カレン　ロバート（磐田）
テレビ中継：NHK BS1で15：10〜17：00（録画）
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　その瞬間、磐田の選手、サポーターはどういう気持ちだっただろうか。磐田１点リードで迎えた23分、順天堂大学はFKのチャンスを得る。伊藤大介が蹴ったボールはゴールラインを割るかに見えた。GKの松井謙弥はもちろん、ピッチに立っていた選手誰もが思った瞬間かもしれない。だが、順天堂大学の背番号13だけはあきらめていなかった。ファーへ抜け出した岡本達也はボールに追いつくと、頭で押し込み値千金の同点ゴールを磐田のサポーターの目の前で決めてみせた。

　ジャイアント・キリングという言葉が日本で最も多く使われるこの大会。磐田にとってこれが初戦ということもあり、大学生相手とはいえ決して気の抜くことができない試合である。立ち上がりは順天堂大学が守備をがっちり固め、ゴールに蓋をする。だが早い時間に磐田はそれをこじ開けてしまう。18分、1ヶ月ぶりに復帰したファブリシオからのクロスに前田遼一がうまくトラップし、落ち着いてゴールを奪う。主導権は完全に磐田だった。

　その5分後に順天堂大学はゴールまでおよそ35m付近でFKを得る。それまで自陣からボールを運び出せずにいたチームにとって、久々の攻撃機会だった。「マークについていた前田さんが一瞬ボールを見たのがわかったのでファーに抜けて、謙弥くんが出てきたのをみて、いけるかと思って突っ込んだら入りました」と岡本の言葉通り、ラインを割りそうだったボールに頭で合わせ、飛び出していた松井の裏を抜いて同点ゴールを決める。前日の練習で右足に違和感を覚えた川口能活がベンチにも入らないアクシデント。急遽スタメンに入ったことが災いしたのか、判断が中途半端になってしまった松井には辛い失点となった。磐田サポーターとしては岡本に１点は取られてもいいという気持ちがあったかもしれない。だが、恩返ししたかったという岡本にこの状況で取られることは予想外だったのかゴール裏は一瞬静寂に包まれる。

　その後試合は膠着状況に陥る。ポゼッションは明らかに磐田だが、ゴール前を固める順天堂大学になかなかシュートまでもっていけない。見ている側としてはひょっとしたらという思いが頭をよぎった。だが、磐田の選手に焦りはなかった。「まだ同点だったしそんなに焦ってはいなかった」と太田吉彰が語るように、37分、自らドリブルで中に切れ込み、空いたところを左足で振りぬいて勝ち越しゴールを決める。まっすぐドリブルしただけだったと太田は振り返るが、スピード感ある横の動きに順天堂大学のDFがついていけなかった。このゴールにより、ほぼ勝負が決してしまったといっていい。再び同点にしようと順天堂大学が前がかりになったところにスペースが生まれ、磐田の選手は面白いようにパスやドリブルで空いたスペースを使い出す。

　後半に入ると疲労も重なったのか、順天堂大学の選手は足が全体的に止まり、押し上げることもできなくなってしまった。そこを磐田はどんどん突いていった。52分にカレンが3点目を決めると56分には茶野、79分には途中出場の成岡が次々とゴールを奪っていく。最後はカレンがとどめとなる２点目で締めくくり、終わってみれば６−１と大差で磐田が勝利し、プロとしての貫禄を見せ付けた。

　同点に決められても焦ることなく、冷静に相手を崩していった磐田に対し、得点シーン以外シュートすら打てなかった岡本をはじめ、力の違いを見せつけられた順天堂大学の選手たち。だが、これはきっといい経験となって、将来Jの舞台に立つ時に役に立つだろう。磐田のサポーターに温かい拍手をもらい「涙が出そうになった」という岡本は１番の目標にJ復帰を掲げた。プロの力をまざまざと見せつけられたが、その表情は悔しいという言葉とは裏腹にどこか清々しさが感じられた。

以上