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【J2:第17節 甲府 vs 徳島】レポート:甲府の逆転勝利、そして真実をサッカーの犠牲者にしないために。(09.05.24)

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5月23日(土) 2009 J2リーグ戦 第17節
甲府 3 - 1 徳島 (16:03/小瀬/9,252人)
得点者:26' 佐藤晃大(徳島)、68' 藤田健(甲府)、71' オウンゴ−ル(甲府)、83' 井澤惇(甲府)
スカパー!再放送 Ch182 5/25(月)07:30〜(解説:塚田雄二、実況:横内洋樹、リポーター:石河茉美)
勝敗予想ゲーム
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いつまでも歌っていたい気分の逆転勝利。しかし、記者会見で安間貴義監督は「今日は何人かの選手を庇わないといけないんですが…」と話し始めた。最初に名前が出たのがFW・森田浩史で、「フィジカル的に厳しい状況の上、頭を7針縫っているのによくプレーしてくれた」と褒め、2番目に名前の出たDF・池端陽介については「CBが本職なのに、慣れないSBで精一杯戦った」と称えた。そして、3人目は秋本倫孝。おそらく一番強調したかったのは彼のこと。森田はゴールが決まっていない時期でも、3トップの中央で貢献しているし、池端は天然素材なので、普通の基準では評価なんか出来ない。秋本については、「(攻撃の)テンポが落ちるのはわかる」、「彼を(先発から)外した方がいいんじゃないかというのもあるかと思うが…」と、浅くて深い部分も同時に曝け出した。

浅いのはミスを理由に起こる批判と非難。プロ選手が背負う宿命であり、分かりやすい。深い部分は、秋本のストロングポイントとその有効性を正当に評価して欲しいということだ。ディフェンダーやGKがミスをすれば白木のテーブルの上にこぼしたケチャップのように目に付く。徳島戦でのポジションはMF(アンカー)だったが、彼がハンマーヘッドで弾き返したシーンは記憶に残り難く、パスミスは多くの人の脳味噌に鮮明に残っているだろう。そして、そのシーンに落胆し、怒り、それが声に出る。会見で安間監督が、「スタンドの反応に敏感になっている選手がいる」と言ったのは、おそらく秋本のこと。どんどんプレーが萎縮していった。それがミスに輪をかける。選手のプレーにため息をついたことはあるけれど、何千人もの人にため息をつかれたことはないから想像するしかない。追い込まれた選手が受ける重圧を。

前半は甲府も徳島もそれぞれのやりたいサッカーは出来なかった。ただ、徳島の方がよりそれに近いところまで行っていたし、倉貫一毅は相変わらず決定的な仕事をする嫌な選手。前半の決定機には石原克哉が倉貫によく付いて行って防いだが、26分の佐藤晃大のゴールはやりたいサッカーに近づいた徳島に対する褒美のように、素晴らしい先制ゴールになった。甲府は森田がシュート2本、池端が1本と決定機は作ったが、強烈なシュートにはならなかった。それでも、30分くらいまでは内容のある展開だったが、それを過ぎるとお互いに連戦で消耗しているからか、ミスをミスで助け合う友愛精神を発揮する場面が少なくなかった。そして、甲府は40分過ぎにはガス欠になったかのように動きがなくなっていた。後半、リードしている徳島は自陣にボールが在ることが罪深いことかのように、ビルドアップをやめて甲府陣内にシンプルにロングボールを入れ始めた。美濃部直彦監督は試合後、S級同期の佐久間悟GM(甲府)と、「上位チームと引き分けて守備に自信が出てくると、守ろうとする要素(気持ち)が出てくることがある」という話をしたことを教えてくれた。その言葉通り、徳島は積極的に2点目を奪いに行くメンタリティをチームとして持つことが出来なかった。しかし、これは徳島が成長しているからこそ出会えた課題。去年なら「守備に自信が出てくると…」なんてことを心配する必要はなかった。

徳島は成長の代償として、藤田健と井澤惇をヒーローにしてしまう。安間監督は、徳島の状況を見極めて早めに勝負をかける決断をし、輪湖直樹(53分)と井澤(55分)を投入。彼らが運動量を生かしてプレーしたことで、徳島の攻撃から怖さがほとんど消えた。そして、68分のFK。藤田は蹴る直前に判断を変えて、直接ゴールを狙った。GKの直前でグッと落ちる弾道のボールがネットを揺らす。「枠に飛ばす自信はあった」と言う藤田。活力の戻った甲府は、71分のCKに松橋優が飛び込んでオウンゴールを誘い、83分には輪湖のダイナミックなドリブル突破が井澤のプロ初ゴールに繋がりダメ押し。「(輪湖→キム・シンヨンと繋がったボールを)ダイレクトで打ったらディフェンダーに当たって入った」と言う。藤田の同点ゴールから井澤のゴールまでの怒涛の15分間。盆と正月とクリスマスが一緒に来たような時間。

しかし、頭の中に残っている映像で気になったのは3人目の交代選手・松橋(67分)と入れ替わる秋本の姿。藤田のFKが決まる1分前だから、急いでピッチを出ることは当然だが、その出かたが「逃げるように」だったように思えてきた。書きたいことに都合がいいように記憶を塗り替えているのかと自問しても、「ピッチに残ってプレーを続けたいという未練を感じさせない出かた」、「バスを降りる乗客のようにピッチから出て行った」と、少し表現が軟らかくなるだけ。水戸戦(第13節、1−1)の秋本の同点ゴールは印象に残っているが、相手の攻撃を跳ね返した姿は当然だと思っているから、すぐに忘れる。しかし、ミスは忘れない。ただ、湘南の反町康治監督が甲府のアンカーに秋本が入ることを嫌がった理由は、ボール捌きよりも彼の守備力の高さを評価しているから。「テンポが落ちるのはわかる」と安間監督は言ったが、逆の言い方をすれば、テンポが上がれば秋本がいないことで増える失点を上回る得点が入るのか、ということ。高さのない藤田では90分を通じて跳ね返せないし、セットプレーは何度もある。今年の甲府のテーマのひとつは「セットプレーからの失点を減らす」ということで、その成果は出ている。

第15節(1−2)の富山戦後のロッカールームで安間監督は秋本の胸倉を掴んで怒鳴った。秋本という信頼できる選手をフィルターにして、チーム全体に伝えるために。そして、その結果の2連勝。口数の少ない秋本は、記者を喜ばせるようなことまず言わない。記者の質問を宙ぶらりんにはしないが、それが「どうやって心臓を動かしているの?」だったのかと思うほど、答え難そうにすることが少なくない。良くても悪くてもぶっきらぼう。しかし、現状が堪えていることは確か。プロ選手だから同情は必要ない。ただ、彼が果たしている役割を正当に評価して判断したい。安間監督は秋本に未来永劫ポジションを約束しているのではない。今の甲府が勝点を重ねながら熟成するために必要だと思っているだけ。上位チームの中で変わる余地を一番残している甲府の熟成の過程で秋本を超える選手が出れば代えるだろうが、安間貴義の信じる真実をサッカーの犠牲者にしないために「今日は何人かの選手を庇わないといけないんですが…」と話したんだと思う。

以上

2009.05.24 Reported by 松尾潤
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