8月28日(土) 2010 J1リーグ戦 第21節
広島 2 - 1 山形 (19:04/広島ビ/12,393人)
得点者:54' 森崎浩司(広島)、59' 増田誓志(山形)、73' ミキッチ(広島)
スカパー!再放送 Ch181 8/30(月)後00:00〜
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ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の幸運は、ミハエル・ミキッチという選手がベンチに存在していたことだ。そして小林伸二監督の不運は、戦術的な交代枠が実質1枚となってしまったことである。
コンビネーションプレーをベースとする広島にあって、ミキッチは異質な選手だ。選択するプレーが周囲と合わないこともしばしば。しかし、縦に抜ける速さは群を抜き、スピードに乗った彼を止めることはまず不可能だ。チーム・プレーヤーが多い広島では数少ない、突出した「個人能力」を持った選手である。Jデビューとなった昨年の開幕戦では、横浜FMの堅陣をそのスピードでズタズタに引き裂き、広島のJ1復帰戦を勝利に導くMVP的な活躍を見せた。
昨年の終盤、ミキッチは股関節の痛みを訴えた。グロインペイン症候群である。彼はドイツに渡って手術を受け、母国クロアチアでリハビリに務めた。順調に回復すれば今季の開幕戦には間に合ったはずだが、キャンプ中に今度は恥骨結合炎を発症し、チームから離脱。6月、ようやく復帰したものの、練習試合中に足を負傷。7月14日の対C大阪戦で9ヶ月ぶりのリーグ戦出場を果たしたものの、8月1日の対京都戦で左足肉離れ。ディナモ・ザグレブ(クロアチア)時代は18歳でチャンピオンズリーグでのゴールをゲットし、リーグ・カップ含め14回のタイトル獲得を経験するなど、栄光に包まれた「幸運な男」が、広島では「ケガ」という不運にまみれた。
山形戦に向けてのチーム練習に、約3週間ぶりの復帰を果たしたミキッチは、輝きを見せていた。主力組の右サイドに入り、ゴールも決めた。「モウ、ダイジョウブ」。日本語で語る彼の目には、「絶対に結果を残す」という決意に満ちていた。
ペトロヴィッチ監督が彼を投入したのは、59分に山形が見事なサイド攻撃から広島を崩し、増田誓志が今季初得点を決めた3分後だった。小林監督としては、ここでミキッチの対面となる左サイドの守備を強化したかった。前からのプレスに加え、時には最終ラインまで戻って守備に参加するなど、激しい上下動を見せていた左FW宮沢克行の疲労は顕著。しかし、既に宮本卓也と秋葉勝が負傷による交代を余儀なくされたため、切れるカードは1枚のみ。宮沢の他にも疲労が見えた選手も何人かいた。慎重にならざるをえない。
ミキッチ登場から10分後、小林監督はついに決断し下村東美の投入を準備する。その時ピッチでは、宮沢のクロスが横竹翔にカットされていた。山崎雅人がそのボールを拾い、佐藤寿人や丸谷拓也らのコンビネーションによってボールが運ばれ、ミキッチがペナルティエリア前でボールをキープした。
ここでミキッチに迷いが出る。パスを出したいが、出せる選手が見当たらない。ドリブルも右足も、石川竜也にケアされている。
後にビデオで、彼が次のプレーに移るまでの時間を計測すると4.1秒。ゴール近くでこれだけ時間がかかってしまうと、普通は何も起きないものだ。しかしそこでミキッチは、山形も、そして味方である広島も予測していない「左足でのシュート」を選択する。
ミキッチの左足は怖くない。そういうデータは、山形にもあったのだろう。彼の左足に対するケアは、それほど厳しくはなかった。実際練習でも、左足での有効なプレーはほとんど見たことがない。それがこの大事な場面で、彼の左足に天使が舞い降りた。放たれたボールは美しい軌道を描き、「ここしかない」コースをまるで約束されていたがごとく、正確に辿ってゴールネットに吸い込まれた。
山形は、組織として素晴らしい闘いを見せた。3トップを形成する両ウイングまでが時に最終ラインに戻って守備をする一方、ボールを奪えば速いパス回しでゴールに迫り、決定機を幾度となくつくった。前半先制点をねらって飛ばしてくる広島の攻めを我慢してはね返し、相手の足が止まった後半に勝負をかける。ゲームプランもはまっていた。
しかし、組織的なミスはほとんどなかったにもかかわらず、山形はミキッチに決勝点を許してしまった。これがサッカーの怖さ。組織だけでなく個人。個人だけでなく組織。この車の両輪が揃わないと、勝ち抜けない。その厳しい現実を、まざまざと見せつけられた。
この日のヒーローは、大天使ミカエルを連想させるファーストネームを持つ陽気な男だった。少年時代、旧ユーゴスラビア紛争において空爆の恐怖にさらされながらもプロサッカーへの夢を忘れずに努力を重ね、ケガの不運の中にあっても明るさと努力を忘れなかった右サイドの天使に、幸運が舞い降りてくるきっかけとなる。そんな予感を共有できた広島ビッグアーチのライトが消えた時、空には星が満ちていた。
以上
2010.08.29 Reported by 中野和也













