5月28日(土) 2011 J1リーグ戦 第13節
浦和 1 - 1 新潟 (14:02/埼玉/25,272人)
得点者:22' エジミウソン(浦和)、70' 鈴木大輔(新潟)
スカパー!再放送 Ch181 5/31(火)後09:00〜
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ペトロヴィッチ監督がついに動いた。初めてスタートから4−4−2のフォーメーションを採用。4−3−3が一番好きだと話す指揮官は開幕からずっと3トップを使ってきたが、選手たちの声を聞き入れてシステム変更に踏み切った。
前半はその決断が奏功した。浦和は4−4−2、新潟も4−4−2で対面したため、フォーメーションの噛み合わせ的に両サイドバックとボランチ2枚がフリーになりやすい形となったが、その特徴を浦和は生かしていた。新潟がDF4人とMF4人で2ラインを敷いてコンパクトにブロックを作る戦い方を基本線としたため、浦和はDFラインでボールをつなぎながら、ボランチを起点にサイドに展開するという流れで押し込んだ。
システム変更の利点は他にもあった。4バックに対して2トップという形だと、相手のセンターバック2枚に対してFWが2枚いるので中央が数的同位となる。FWがそれぞれ一対一の駆け引きで優位に立てれば相手の守備対応はそれだけ苦しくなるのだが、そのメリットが特に生かされたのが空中戦だった。身長183cmのエジミウソンは五分五分くらいの争いだったが、188cmの高崎寛之は181cmの鈴木大輔と183cmの千葉和彦に対してヘディングの競り合いで負けることはほとんどなく、セカンドボールを味方に有利な場所に落とすことが多かった。
「レッズの2トップがすごくヘディング、競り合いに強くて、セカンドボールが五分じゃなくて、浦和に有利な形で落ちていたのがすごく多かった」。ベンチで試合を見守っていた小林慶行も劣勢の原因をそう分析する。さらに新潟はボランチの三門雄大が前に出てバイタルエリアを空けることが少なくなかったため、浦和がより一層セカンドボールを拾いやすい形になっていた。
システムの噛み合わせで言えば新潟にも同じ利点があったが、ブルーノロペスとミシェウの2トップは空中戦で永田充、スピラノビッチのツインタワーにまるで歯が立たず、最終ラインでのビルドアップに関しては押し込まれた状態からのスタートが多かったので苦し紛れに蹴ってしまうことが多く、ボランチの三門雄大、本間勲に対しても浦和の中盤のプレッシャーがかかっていたので落ち着いてパスを捌くことができなかった。
試合を優位に進めた浦和に先制点が生まれたのは22分。FKのチャンスを得たマルシオリシャルデスがゴールに向かうボールをGKの少し手前に入れると、エジミウソンが石川直樹との競り合いをわずかに制してゴールマウスに流し込んだ。シーズン前の期待とは裏腹にこれまでマルシオのセットプレーでなかなかゴールを奪えていなかった浦和だったが、奇しくもマルシオ、エジミウソンの元新潟コンビでようやく決めた。
前半は浦和のゲームだった。リードを奪った後に何度か決定機を作られはしたが、柏木陽介が酒井高徳のミラクルクリアがなければ1点というシュートを放ったり、相手センターバック2枚がスローインに対してかぶって後逸するという信じられないミスから高崎寛之がビッグチャンスを迎えたりと、追加点のビッグチャンスを作っていた。
だが、試合の流れは前後半でガラリと変わってしまう。浦和は突如眠りに落ち、新潟が目を覚ます。試合がひっくり返る最初のきっかけを作ったのは新潟・黒崎久志監督。「三門が出て1ボランチになっていたところをシステムが変わった浦和にうまく使われて攻撃されていた」と改善できるポイントを正確に洗い出し、ハーフタイムで三門を下げて小林慶行を投入した。
すると小林が指揮官の期待、あるいは期待以上の働きを見せた。「もう少しDFラインと近いところでポジションを取った方がいいと感じた」と的確な判断でバイタルエリアの穴を埋めてセカンドボール回収率を高めると、攻撃の際には守備以上に強い存在感を放った。小林はプレッシャーを受けても決してあわてない。じっくり相手を引きつけて、バランスが崩れた隙を逃さずに前にボールを当てることができる。散らすべき場面では簡単にはたいてリズムも作れる。目を引くプレーが多いわけではないが、1つ1つのプレーに意味があった。
小林が中盤を落ち着かせたことで、チーム全体も落ち着きを取り戻す。そして、パスが回り始めることで前半は消えていたミシェウ、ブルーノロペスが特徴を生かせるようになっていく。特にミシェウは「相手の10番がライン間で動くのに苦戦した」とペトロヴィッチ監督が唇を噛んだように、DFとMFの間、各エリアのギャップにタイミングよく顔を出す回数が増えた。
ミシェウの存在感が増したのは、中盤から縦パスが入るようになったこととも連動している。ビルドアップの中核を担っていた小林に縦パスの意識を持っていたのかどうか尋ねると、特別強く意識したわけではないと語りつつも「あそこでミシェウをどれだけ気持ちよくプレーさせるかがチームとして一番大事なこと、そして自分の仕事だと思っている。そういうパス(縦パス)が何個が出たから、彼もそういうポジションを取ることができたんだと思う」と胸を張った。
一方、新潟に主導権を奪われた浦和は、いつもの悪い癖が顔を覗かせるようになる。リードしているにもかかわらず、前後分断で中盤が間延びしてしまい、不用意にスペースを与えてしまう。「1点リードしたなかの戦い方がなんとなくうまく運べてなくて、そこに僕らの付け入る隙があった。勝点3を取りたいがために、後ろが引いて前の選手が前にいることになって間があいたというのもある。勝ち慣れているチームだと、全体でもっと引いてカウンターを狙う、わざと持たせるというのが生まれてくると思う」。小林の見解は正鵠を射ている。勝利からすっかり遠ざかっていた浦和は冷静さを欠いていた。
そして70分、新潟が同点に追いつく。藤田征也のFKはGK山岸範宏にはじかれたが、こぼれ球を石川が折り返すと、ゴール前に飛び込んでいた鈴木大輔が押し込んだ。山岸の処理は雨に濡れたスリッピーなグラウンドで手前でワンバウンドしていたので責めるのは酷だ。気になるのはフィールドプレーヤーの動きだ。藤田が蹴った瞬間、石川の近くにいたファーの高崎、中央のエジミウソン、永田はすぐに足を止めてしまっている。FKに対してゾーンではなくマンツーで見る浦和の対応は以前から危ういものがあったが、マンツーでケアすると決めた以上は飛び込もうとする選手をしっかりとつかまえないといけない。ボールがGKに直接飛んでいったので問題ないと思ったのかもしれないが、集中力の欠如と言われても仕方のない場面だ。「3人くらいマークが外れていたし、集中力の問題」と柏木も肩を落としていた。
尻すぼみに調子を落とした浦和は選手交代で喝を入れようとするが、最後までリズムを取り戻すことはなかった。後半のシュート数はわずかに1本。前半で追加点を奪えなかったことが大きく響く結果となった。これで浦和はホーム3連戦を3引き分けで終え、リーグ戦6試合勝ち星なし。自分たちの時間帯を作れるようにはなってきているが、進歩の度合いは小さくジレンマが続く。今は我慢の先に明るい未来があると信じて戦い続けるしかない。
以上
2011.05.29 Reported by 神谷正明













