5月28日(土) 2011 J1リーグ戦 第13節
柏 3 - 0 神戸 (14:03/柏/6,855人)
得点者:21' 田中順也(柏)、24' 田中順也(柏)、73' レアンドロドミンゲス(柏)
スカパー!再放送 Ch185 5/29(日)後10:30〜
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試合終了後のミックスゾーンで報道陣に囲まれた大谷秀和は、いかにも彼らしく淡々と戦況を分析しながら、「チームとしてしたたかさは出てきたと思う」と話した。これまでもチーム戦術の成熟度の高さに関しては、試合を観た者の多くを唸らせる試合運びを披露してきた柏。神戸戦での勝利は、そんな老獪さをより印象付けたものになったのではないだろうか。
序盤は明らかに神戸のペースだった。前節の広島戦同様コンパクトな陣形を敷き、後方からのフィードと鋭いカウンターで柏を押し込む。特に、柏は左サイドバックのジョルジ ワグネルが高いポジショニングを取るため、その背後に広がるスペースはあらゆるチームが狙う急所となる。3分と11分に神戸に訪れたカウンターのシーンは、ジョルジ ワグネルの背後、つまり神戸にとっての右サイドオープンスペースを突いた狙い通りの展開。前者はバイタルエリアでボールを奪ってから、大久保嘉人のスルーパスに森岡亮太がフリーで抜け出してシュートを放つも枠外へ。後者も、まるで7分前の既視感にでも捉われたかのような酷似した形を迎え、フリーで抜け出した朴康造の折り返しを再び森岡がシュートを放ち、柏DFがクリアする。また、15分には松岡亮輔が柏のパスを奪い、都倉賢を経由したショートカウンターから、最後は森岡がシュートを狙うがここは柏GK菅野孝憲がキャッチした。この3つのシュートシーンの他にも、2列目、3列目の選手がスピードを上げた状態でスペースを突く神戸の攻撃が目立ち、柏を圧倒していた。
ただ、ここでポイントとなるのは、冒頭で述べた大谷の言葉、「したたかさ」である。「劣勢」に追い込まれている心理状態を持つのではなく、「仕方がないから、ここは割り切って我慢して守る時間」(大谷)と捉え、守備に重心を置く。そして耐えながらも組織を再構築し、選手間の距離を整えながら反撃の機会を窺う。以前は、ハーフタイムにネルシーニョ監督の施してきた修正点だったが、ネルシーニョイズムの浸透によって選手自身がピッチ上でその修正を図ることが可能となり、それを体現する。
大谷と栗澤僚一を起点に、ピッチ全体をワイドに使ったパス攻撃が徐々に姿を現すと、前線の選手たちも神戸のコンパクトな陣形の狭間に生じるゾーンに顔を出してはテンポ良くパスをつなぎ、リズムを引き寄せる。そして21分、神戸の形成する密集地帯のわずかな隙を見出した近藤直也が、縦への鋭いクサビのパスを大津祐樹に通す。前線の絶妙の距離間とパスワークが神戸の守備網を綺麗に崩し、レアンドロ ドミンゲスのスルーパスを受けたフリーの田中順也が左足で落ち着いてゴールへ流し込んだ。さらにその3分後の24分にはカウンターから再び田中。今度は豪快な左足の一撃を叩き込み、2−0とリードを広げた。
神戸は、今週のトレーニングでは対柏用として4−1−4−1のシステムを試し、手応えをつかんでいた。実際に前半にはその陣形を試したが、「アンカーの周りのスペースを突かれて自由にプレーされてしまった」(松岡)と思うような効果は発揮されず、近藤岳登の負傷交代もあって従来の4−4−2へシステムを戻した。
後半スタートから神戸はホジェリーノを投入しただけでなく、石櫃洋祐、茂木弘人の両サイドバックが頻繁に高い位置で張り、ボランチも攻撃へのサポートを強めた。攻撃の手を強めた神戸が1点を返せば、試合の流れが変わる可能性は十分にあっただろう。だが、神戸・和田昌裕監督が「後半、(柏の)試合運びは上手いという印象を持った」と語るように、際立ったのは柏の巧みなゲームマネージメントである。攻撃の比重を高めた神戸に対し、柏は統率された守備組織で破綻の隙を見せず。しかもゲームの流れをコントロールし、大きくボールを動かし、プレスに来る神戸の選手をボールホルダーに食いつかせると、今度は巧みにスペースを突いてカウンターを繰り出していった。次第にレアンドロ ドミンゲスの前を向くプレーの回数が増し、それに絡む形で右サイドバック酒井宏樹の豪快なオーバーラップがチャンスを生み出した。73分の3点目は、前傾姿勢になった神戸の背後を突き、目論見通りのカウンターをレアンドロ ドミンゲスが沈めたものだった。
和田監督をはじめ、各選手たちが「決めるところを決めないといけない」と口を揃えた部分には、間違いなく勝敗の行方を左右したポイントが秘められている。確かに先に神戸がゴールを奪っていれば、その後の展開は大きく変わっていただろう。しかし、それは裏を返せば、自分たちが苦しい時間帯にいかに失点せずに耐え抜くか、そして先に失点をしてしまった場合、いかにしてそのビハインドを返すのか、「正直、柏さんの方が(成熟度の)現状は良い状況だと思っています」と和田監督も認めざるを得なかったように、柏のゲーム運びの巧さが際立つ一方で、神戸にとっては3連勝中には露わにならなかった課題を指し示すゲームになってしまったようだ。
柏は失点することもなく、3−0でゲームをクローズさせて盤石の試合展開を見せた。状況に応じた戦い方で流れを引き寄せる術は、ネルシーニョ監督が「去年からの継続」と言及するとおり一貫して進めてきたことである。以前はネルシーニョ監督の采配に頼ってきたことを今では選手たちが理解し、ピッチ上で修正できる点は非常に頼もしい。今や柏の選手たちの姿には多大なる自信が漲っている。
以上
2011.05.29 Reported by 鈴木潤
J’s GOALニュース
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