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【ヤマザキナビスコカップ 磐田 vs 浦和】レポート: “思い”を背負った者同士のぶつかり合いとシーソーゲームの展開、ピッチには常にドラマがある(12.04.05)

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後半途中、山田大記、松浦拓弥が同時投入されたチームは一気にギアを上げた。今季ここまで全てのリーグ戦に出場している彼らの動きをおそらくベンチから食い入るように見つめていたのだろう。両選手に代わりピッチを去ることになった黄誠秀は言う。「(終盤に)逆転した力はすごい」。1点ビハインドの状況での途中交代。そこからゲームが大きく動き、チームはシーソーゲームを制した。少々複雑な思いもあったかもしれない。ただ、試合後はプラスのモチベーションで満ち溢れていた。「今すぐにでも練習したい気持ちになりました」。試合後、健闘を称えるスタンドへ向かって深々と頭を下げていたMFは、チームメイトとの差を素直に認め、前を向いてプロデビュー戦を終えた。

プロ3年目にしてようやく掴んだチャンスである。がちがちに緊張していたそうだ。ぎこちなさをピッチ上で隠しきれない。先発メンバーとして中盤2列目・右に入ったが、不用意なトラップミスも見られた。ただ、相手の足元へ転がりかけたボールに懸命に足を伸ばし、味方へつなごうとする。試合開始直後の先制点は山本康裕の正確なフィードも、駒野友一のピンポイントクロスも、前田遼一の決定力も素晴らしかった。ただ、その前の場面で相手からボールを奪った背番号34の献身的な守備も見逃すことはできない。リズミカルなパスワークを目指すチームにおいて一人くらい“汗かき役”がいてもいい。
朝鮮大ではFWとして活躍。だが、プロのレベルはやはり高い。10年のプロ入り後はFW登録ながら主に後方のポジションを担当することがほとんどだった。プロ入り1年目でもらった背番号は今と同じ「34」。当時、チーム内で最も大きな背番号をつけたルーキーのキャリアはまさに“34番目”からのスタートだった。
「この2年間一緒に厳しい練習をやり続けてきました」。試合後、森下仁志は当時を振り返るように語る。この2年間、サテライトコーチとして彼に接してきた分、様々な思いもあったかもしれない。だが、“情”だけでピッチに立てるほどプロの世界は甘くはない。指揮官は「僕がチャンスを与えた、というより出ている選手が自分たちで掴んでいる状況」とチーム内で活発なアピールがあることを説明していた。
母校との練習試合にサイドバックで出場し、後輩たちに驚かれたこともあった。昨季は天皇杯でデビュー濃厚と目されながらも、試合直前の練習試合で満足いくプレーができず、掴みかけたチャンスを逃したこともあった。時に挫折を味わい、時に回り道することもあったが、加入当時、森下がその将来性をG大阪・明神智和に見立てたルーキーはプロのピッチを踏むまでに成長した。「今日という日は一生忘れないと思います。ただ、今日で終わりたくないという思いもあります」。24歳。もう若手と呼べる年齢ではないことも、チーム内で厳しい立場にいることもよくわかっているのだろう。4月4日。ここが全ての始まりである。

同じく浦和にも並々ならぬ思いでピッチに立った選手がいた。この日、3バックの一角を担った野田紘史である。09年、阪南大より浦和へ加入した大卒選手は岡山への期限付き移籍を経て、昨年4月にJ1デビュー。今季はこの試合が公式戦初出場となった。監督が交代し、システムも変わった浦和は今、チーム作りの最中にある。チームの“枠組み”が固まる前に勝負を懸ける思いもあっただろう。シーズン序盤のこの時期は特に神経をすり減らす部分があったかもしれない。試合後は「今季初出場でしたし、気持ちを込めていましたが…」と語り、言葉に詰まらせた。
痛恨のミスだった。79分に高橋の豪快なヘディングシュートで同点とし、迎えた82分、自陣で磐田・山田大記にボールを奪われ、そのまま失点。結果的にこれが撃ち合いに終止符を打つ決勝ゴールとなった。試合後、彼へのコメントを求められたペトロヴィッチ監督は「サッカーをしていれば起こること。全く問題ない」と言及。2失点目のマーキングミスを引き合いに出してまで彼をかばおうとした。それでも本人にとっては悔やんでも悔やみきれないワンプレーだっただろう。「前半逆転できたのに、僕のミスでこういった結果になってしまった」とうなだれた。4月4日。脳裏に苦い記憶が刻まれることになった。「しっかり前を向いていきたい」。この先、この試合をどう生かしていくかは本人にしかわからない。

この試合、直近のリーグ戦から磐田は7名、浦和は10名を入れ替えているが、ゲームのクオリティーが低かったとは言えない。合わせて7つのゴールが生まれた素晴らしき90分を“ターンオーバー“という言葉だけで片付けることはナンセンスだ。
「ニューヒーロー賞」というヤマザキナビスコカップ独自の賞が設けられているので、見る側もリーグ戦とは少々異なる角度でこの大会を捉える部分もあるかもしれない。だが、選手にとってはリーグ戦もカップ戦も人生を左右する重要な公式戦であることに変わりはない。無駄にできる試合など一つもない。幾多の思いを抱いてピッチに立つ11人は常にチームの代表であり、“ベストメンバー”である。

以上


2012.04.05 Reported by 南間健治
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