名古屋は7本のシュートで1得点、決定機は3度ほど。対する鳥栖は14本で無得点、決定機は少なくとも8回はあった。そして結果は1-0でホーム名古屋が勝点3を獲得した。ゲームの支配率という点では昇格組の鳥栖が優勝候補の名古屋を圧倒した一戦は、勝ち方を心得る強豪がしたたかな戦いぶりが際立った。
週半ばのアウェイ中国でのAFCチャンピオンズリーグから中3日、名古屋は天津泰達との一戦に続いて絶対的な主力を欠いての戦いを強いられていた。中国では守備の要・田中マルクス闘莉王が腰痛のため遠征帯同を回避。その闘莉王は戦列に戻ってきたのだが、今度は前線の核・ケネディが持病の腰痛を悪化させ出場を回避することに。玉田圭司が「ケネディは特別な選手だからね。アイツに合わせてサッカーをする時もある」と言うほどの存在を欠いた時の戦い方は昨季からの懸案事項。彼の高さに頼ることなく勝利した天津での試合はひとつの好例として認められるものだったが、いきなりその収穫を試されることになった。ストイコビッチ監督が選らんだ布陣は4-2-3-1で、ケネディの位置に永井謙佑、空いたサイドハーフの位置には小川佳純が今季初のスタメンを飾った。
鳥栖は水曜日のヤマザキナビスコカップでJ1首位の仙台に完敗。しかもその試合で尹晶煥監督が退席処分を受け、名古屋遠征に帯同できないなど逆境の中での一戦だった。さらにはリーグ前節で左サイドバックのレギュラーである磯崎敬太が負傷し、今節では一列前の金民友がサイドバックを務め、左サイドハーフには野田隆之介がリーグ初スタメンとなった。元名古屋の豊田陽平や池田圭など身体能力の高い選手たちがどれほど名古屋のタレントたちと渡り合うのか、エアバトルの行方にも注目は集まっていた。
試合展開は大方の予想を裏切り、90分のほぼすべてを鳥栖が支配した。キックオフから持ち前の前に出る、というより“ボールを奪いに行く”といった印象の守備が機能し、中盤より前でマイボールにしては速攻を仕掛ける戦術が奏功。豊田のポストプレーは闘莉王や増川、ダニルソン相手でも十分に発揮され、池田や野田、そして水沼宏太らが生き生きと前線を駆け回った。鳥栖のファーストシュートが4分、名古屋のファーストシュートが11分ということを見ても、鳥栖の優勢は明らかだ。ともに1週間で3試合目というスケジュールをこなしてきたが、海外遠征の方がより疲労度は強い。名古屋の面々は目に見えて体が重く、それに伴う判断ミスを連発し自らピンチを招く悪循環に陥っていた。
だが、展開がそのまま結果に結びつかないのがサッカーの怖さだ。鳥栖のキャプテン藤田直之は「勝てる試合でした。でもこういう試合を勝てないのは自分たちの弱さでもあるし、名古屋さんの負けない強さでもある」と試合後に語ったが、まさしくその通り。鳥栖のたったひとつのミスを見逃さず、名古屋が決勝点を得る。27分、ダニルソンが敵陣左サイドでボールを奪うと、すかさず中央へ鋭いクロスを送った。ニアにいたDFがクリアしそこね、ワンバウンドして後方に流れたボールにいち早く飛びこんだのは永井だ。「試合前にコーチから言われていた。ダニが上手くボールを奪って蹴る前に中を見たので、絶対に来ると思って走りました」ときっちり頭で合わせて今季2得点目。今季はスタメンで好調を維持するU-23日本代表のストライカーが、決定力を見せつけた。
先制後から再び試合は動いたが、名古屋が息を吹き返すまでには至らなかった。試合はあくまで鳥栖が支配し、特に後半などはほぼ完璧に鳥栖が押し込んだ。劣勢を挽回、あるいは相手の攻撃の軸となっていたロングフィードへの対応のためか、名古屋は70分にダニエルを投入し3-4-3にフォーメーションを変更したが、中盤が薄くなったことでセカンドボールが確保できず、事態を好転させるには至らなかった。それでも名古屋は強烈な守備の“個人技”で失点だけは許さなかった。鳥栖は66分の金民友のシュートを皮切りに、同66分のCKからトジンがフリーでヘディングシュート、68分にもトジンのミドルシュートがDFにあたりコースが変わったが、いずれも楢崎正剛のファインセーブに阻まれた。69分にも野田がゴール前で決定機を迎えるもDFのブロックに遭い、71分に豊田が「決めた感触はあったんですけど、ナラさんにやられました」と脱帽したヘディングシュートも名古屋の守護神に止められてしまった。終盤は藤田のロングスローからチャンスを作ったが、89分に迎えたこの試合最大のチャンスを交代出場の岡田翔平が外して万事休す。名古屋が虎の子の1点を守りきり、今季のホーム3連勝を手にした。
勝敗を分けたのは決定力の差のみ。試合自体は鳥栖のものだった。それは試合後の名古屋の選手の言葉を見ても一目瞭然だ。「勝って良かった」という一言には、鳥栖が強いチームであったという実感と、その一方で玉田が口にした「J2から上がってきたチームに、去年の柏のように行かれたら、オレはいけないと思う」というプライドも見て取れる。数少ないチャンスを決めきる、そして失点を許さない激しい守備を実現する高い集中力の源は、この強豪としての自負にある。鳥栖のチャレンジャー精神が名古屋の「勝ちたい、負けたくない」という気持ちを超えられなかった。この結果はそう言い換えることができるかもしれない。
名古屋は次節もまた昇格組の札幌を同じホーム豊田スタジアムで迎え撃つ。楢崎の「また同じような結果を出す」という言葉には、今節と同じ難しいシチュエーションできっちり貫録を見せる、という決意表明でもある。贅沢を言えば、内容面でさらなる充実を、といったところ。1週間後の名古屋の戦いぶりが、非常に楽しみになってきた。
以上
2012.04.08 Reported by 今井雄一朗













