戦前、「スタイルが似ているチーム同士の対戦。ガチンコの戦いになると思う」と本間幸司が言っていたように、自らアクションを起こすスタイルが激突。前半から激しく中盤でプレスをかけあう展開となり、目まぐるしく攻守の入れ替わる緊張感に溢れる攻防が続いた。
時間とともに「似ている」中にも異なった特徴が出始める。相手のプレスをポゼッションでかいくぐろうとする水戸と、高い位置からプレスをかけ続け、ボールを奪ってからスピーディーに手数をかけずに攻めようとする千葉。徐々に千葉のプレスが水戸に牙をむいた。5分、12分と水戸DFからボールを奪い、チャンスを作り出すと、その後も水戸の最終ラインにまでプレスをかける千葉の勢いに水戸は押し込まれることとなった。
水戸はなんとか攻撃の糸口を見つけようと前線の鈴木隆行にボールを集めて起点を作り、2列目の選手が絡んで厚みのある攻撃を繰り出そうとするものの、巧みなラインコントロールを見せる千葉のDFを崩せなかった。「相手を見ながら自分たちの状況に応じたラインコントロールすることで、我々の根幹である高い位置でプレーするということが今日はよくできていた」と木山隆之監督が振り返るように、積極的な守備を貫いたことによって、リズムを作りだした千葉が水戸を押し込んで行った。
「メンタリティのところで相手の勢いを受けて跳ね返す強さがなかった」という本間の言葉通り、千葉のプレスを押し返す強さを備えていなかったことが水戸の敗因となった。千葉のハイプレスによってプレーを判断する時間を与えられず、マイボールになってもミスを連発。中盤でボールを奪われ、千葉の怒涛の攻撃を浴び続けた。そして71分、右サイドを突破されて入れられたクロス。一度はDFがクリアするものの、ファーサイドに走り込んだ大岩一貴にこぼれ球を拾われ、ゴール前に折り返される。そのボールを途中出場の田中佑昌に冷静に押し込まれて千葉に先制点を許してしまう。
終盤、3試合連続無得点の水戸はなんとかゴールを奪おうと、鈴木雄斗、吉原宏太を投入して、4−3−3に変更して反撃を仕掛けようとする。序盤から激しくプレスをかけてきた千葉の足が止まれば、必ず水戸にチャンスが来るはずであった。しかし、「相手はバテていたけど、プレスは早かった」と途中出場の内田航平が語ったように、千葉のプレスの勢いはそがれることなく、水戸を苦しませ続けた。最後まで水戸は千葉のプレスをかいくぐれずに試合は終了した。
J2屈指と評される個の能力に頼るのではなく、最後まで走り切る、戦い続ける意識をチームに浸透させた木山監督の手腕はさすがであった。苦手のアウェイ戦を克服し、これから「J1昇格」に向かって走り続けることを予感させる勝利。千葉にとって大きな1勝となったことは間違いない。
水戸にとっては苦しい敗戦だ。「ここで勝てば上位に行けた。すごく重要な試合」(市川)と位置づけていただけに悔やまれる結果となった。これで4試合連続無得点、4試合勝利なしという状況になってしまった。チームには停滞感が漂っている。ただ、ここで怖いのはチームが自信を失ってしまうこと。これまで培ってきたサッカーを変えてしまうことである。
木山監督は水戸をこう評した。「本当に力をつけていいチームになっている」と。これは偽らざる本音だろう。だが、あくまで水戸はまだ「いいチーム」の段階である。これから「強いチーム」へと進化を遂げないといけないのだ。この苦しみはそのための試練である。目指すべきサッカーに間違いない。その中でいかに1試合でも早くこの試練を乗り越えるか。そこに水戸の命運は懸っている。
殻を破るために苦しみもがく選手たちの様を見逃してはいけない。市川は言う。「誰かが助けてくれるわけではない。自分たちで乗り越えて成長していかなくてはいけない」。苦境なくして感動はない。今季の水戸はここからが面白い。
以上
2012.04.09 Reported by 佐藤拓也
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