川崎Fの熱意にほだされて。そしてそれまでの仕事に関わる人たちからの理解と後押しを受け、川崎Fからのオファーを受けた風間八宏監督による新体制がスタートした。
練習初日となった24日は、ウォーミングアップなしにいきなりボール回しを開始。練習前のウォーミングアップは「本来、行うべきものでありそれが常識である」と勝手に考えていたが、そうした既成概念を打ち破る形で練習が始まる。またこの4対4にフリーマンを3人付けたボール回しでも、サッカーの基本中の基本となる止めて蹴るを意識させており、そうした基本的な練習をプロの選手たちが心を引きつけられるような教え方によってできているという点で興味深いものとなった。
このボール回しに限らず風間監督の練習は、目的をはっきりとさせ、その目標を目指した方法を取るという点で特徴的(当たり前のことではあるのだが)で「その手があったか」と手を叩きたくなるような、そういう衝動を与えてくれる練習が続いた。
そんな風間監督の練習を終えた選手たちから頻出してきた言葉が「ボールを失わない」(登里享平)「イージーなミスをしない」(森下俊)といった、マイボールの時間を長くするというテーマだった。これは風間監督の「ボールを失わなければ(危険なことは)何も起きない」という発想に基づいた考え方で、「理想というのはもちろん、90分間ボールを持ち続けて選手が伸び伸びやること。堂々と自信を持ってボールを持つサッカーをしていってほしい」と述べていた。
ということは、ポゼッションが自己目的化してしまい、横パスとバックパスが多用される前にボールが入らないサッカーなのか、との疑問を持つ方も出てくるかもしれない。しかしボールを失わないという教えはポゼッションするためのパス回しを意味している訳ではない。サッカーをやる以上その目的はゴールを奪うこと。その目的を達成するために最適なのがボールを失わないことであるとの考えに基づいた指示なのである。その点については「ボールを失わないというのは逃げるということではありません。簡単に言うとサッカーは横パスもバックパスも要らないと思っています。ボールを失わないでずっと点を入れていれば、相手からボールを奪うのは自分たちが得点をとった後ということになる。それがすべて。そこまで目指すということです」と述べている。
もちろんサッカーは相手があることであり、またサッカーの特性からそれが実現することはない。ただ、そうした着地点があるのだとの意識付けから練習をスタートさせたのは興味深い点だと思う。ただし、筑波大学で2〜3年かかったチーム作りがそう簡単に進むものとも思えない。その点について風間監督は「大学生とプロとの違いは?」との質問に対し、こう答えている。
「(プロの川崎Fの選手たちに)期待しているが、あまり期待しすぎてもね。2〜3年くらいで作ったものを、3ヶ月でやってもらえれば。まあ欲を言うと、4日間でやってもらえれば嬉しいですが(笑・この練習日から4日後が広島戦にあたる)。筑波では半年は全然ダメだった。でもそれは同じではない。同じというと、どちらにも失礼ですしね」
パターンを教える訳ではないという風間監督は、そのサッカー理論を土台の部分から積み上げ、それによって試合の環境に臨機応変に対応できるようにしている。だからこそ、大学生をして年単位の時間が必要なレベルで難しさを抱えている。ただし、そこはプロの選手たちである。基礎能力の高さをベースに、一桁少ない時間軸で習得してほしいと本気で考えているところがスゴいところ。
ちなみにこの風間監督のサッカー理論を受け入れる側の選手たちは次のようなコメントを口にしている。たとえば小宮山尊信。
「頭は使いますね。みんなこれまでにサッカーをやってきているから、こうだっていうの(セオリー)はありますが、それとはまた違う。だからプレーの時に、これはこうだという事を考えてやっているところがある」
また田坂祐介は次のような言葉を残している。
「体はそんなでもないが、頭は集中しないと追いつけないかなと思った」
いずれにしても、頭をフル回転させなければついて行けない練習になっていることがわかる。なお、練習では組織的な守備の練習は一切ない。今まではボールの取りどころを決め、奪い取るための組織戦術を徹底して来ていただけにそのチーム作りは特異であると言えそうだ。
風間新監督のチーム作りがスタートしたばかりの川崎Fが等々力に迎えるのが風間監督の古巣でもある広島で、監督は森保一氏である。その点について就任会見でも質問が出たが、それについて風間監督は「広島の人たちはみんな好きですが、それほどなにかを意識をすることはとりあえず無いと思います」と話しつつ「森保監督に対しては、彼が就任した時にも電話しましたし、一緒にいいゲームをしたいと思います」と述べている。古巣であるという事実や、共に戦ったという過去は、その事実があるのみでだから特に何かがあるということはなさそう。
ちなみにその森保監督率いる広島は現在4位と好調を維持している。その好調の要因は守備。新加入の千葉和彦を中心とした3バックは固く、GKの西川周作とともに7試合で5失点(リーグ2位)と堅守を誇っている。またボランチの青山敏弘、森崎和幸のコンビが守から攻へとスイッチを入れる役割を担っており注意が必要だろう。右サイドのミキッチの驚異的な運動量と、そこからの決定的なパスも怖い。
攻撃に目を転じると、先日行われたヤマザキナビスコカップで川崎Fとしては久しぶりに失点を喫した佐藤寿人はもちろん、敗色濃厚だった前節の名古屋戦をディフェンスながら引き分けに持ち込むミドルシュートを放った森脇良太のような選手も控えている。受けに回ると怖い相手であるのは間違いない。
組織的にボールを奪うための陣形や戦術を練習してきたわけではないが、その一方で風間監督は守備の局面において相手のパスコースを切るように指示してきている。ボールを持つ選手に対し、まずはタテ方向にボールを出せないように守備をするのである。そういう意味で、パスの起点となる選手たちをどうケアしていけるのか、注目したいところ。ちなみに川崎Fの選手たちは、風間監督から「うまくやれ」と指示されているという。その「うまくやる」事の内容を選手個々が理解し、ピッチ上で表現することが求められている。
なお風間監督は、広島の戦力を分析したミーティングを行わなかった。相手がどうこうという事ではなく、自分たちがどうするのか、というポリシーを貫いて試合に臨むことになりそう。順位では川崎Fの10位と広島の4位とでは大きく離されているが、勝点差はわずかに3。一気に勝点で並べるチャンスである。そんな初陣でどこまで風間イズムを出せるのか、注目したいと思う。
以上
2012.04.27 Reported by 江藤高志
J’s GOALニュース
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