「自分たちが持っている力、良さを出せるかどうか」――。25日の練習後の囲み取材で、高木琢也監督はそう口にした。
この日のトレーニングは、ウォーミングアップを経て、攻撃陣と守備陣に分かれポイントを絞ったメニューに取り組んだ後、紅白戦という内容。通常、公式戦の2日前に行う紅白戦は、先発が予想されるメンバーにオプションや交代としての起用が考えられる数名を加えたAチーム、それ以外の選手で対戦相手の布陣を模した配置となるBチームに分かれ、20〜30分程度行うのが今までのパターン。ゲームの流れでアウトオブプレーになれば、そこからコーナーキックやフリーキックのリスタートを何度か織り交ぜる、または改めて紅白戦の後にセットプレーの時間を設けて守備の対応や攻撃時の入り方を確認し、最後に左右のクロスからシュートを行って全体練習を締める、というのが常。時間にして2時間程度のものである。
ところが、25日の練習は始まってから終わるまで2時間半を越え、その中でも紅白戦には40分以上の時間を費やした。レストの合間にAチームの選手たちが輪になって話し込む時間があり、全体トレーニングを締める前にも、約10分に渡って高木監督が選手たちに話をする場面があった。9試合勝ちがないという事態をひもとくとき、1つ1つのゲームにおいては内容的にもいい形を作れていないわけではないため、「雰囲気は悪くない」との声が選手たちからは聞かれる。だが、特にこの日の紅白戦におけるAチームのパフォーマンスは低調で、練習後に高木監督が「メンタルについて話した」こと、その上で今節に望むにあたって冒頭の言葉を述べたこと等も踏まえると、チーム状態は決していいとは言えない。
そうしたなか、J1柏レイソルから北嶋秀朗が期限付き移籍で加入することが発表されて、得点が少ない状態に光が差したのは確か。ただ、彼が加わりさえすれば事態が好転するかといえば、もちろんそうではないし、登録手続きを済ませて実際にピッチに立てるようになるまでの2ヶ月弱の間、さらにいえば、離脱している南雄太や藤本主税が戻ってくるまでの間に(あるいは戻ってきても簡単にはポジションを奪い返されないように)、この苦しい現状を打破できる、打破しなければいけないのは、「いま」プレーしている選手たち以外にはいない。4年ぶりの対戦で首位の山形を迎える今節、熊本に問われるのは、前節の千葉戦で今季最多の4失点を喫した守備、後半に盛り返して同数に近いシュートを打ちながらもゴールを割れなかった攻撃の両面で、いかに修正できるかという点だ。
山形に関しては、萬代宏樹を筆頭に前線については「早くて強い」との認識で一致している。最終ラインでその3トップにしっかり対応すべきなのはもちろんだが、左の石川竜也らのクロスからの形は山形の得点パターンの1つであり、前節の千葉戦でもクロスから失点していることを受け、守備面ではゴール前で人を外さないことがポイントの1つとして挙げられる。ただ、前節に関して「前の3人とボランチの間にスペースができてしまった」(吉井孝輔)ことから、宮阪正樹を初めとする「アンカーが広く散らしている」(廣井友信)山形に攻撃の起点を作らせない対応が、まずは重要。そこで求められるのがプレスの連動性だ。
山形の戦いぶりを見ると、先制を許しながらも流れを引き戻して逆転勝ちをおさめた前節の岐阜戦をはじめ、決して大勝ちはしないものの安定した試合運びを見せて勝点を積み上げている。シビアな戦いとなったJ1での経験も加味され、「ハードワークするし、コントロールされた対応も含めて堅実」(廣井)なチームであることは、ここまでの戦績からも明らか。最終ラインはもちろんのこと、チーム全体の守備もバランスが取れているだけでなく、攻守の切り替えにおいても熊本のそれとは一段違う。後方からのロングボールをトップの萬代に当てて中島裕希と山崎雅人が絡んでくる場面もあるが、主に前の動き出しのスイッチを入れているのが中央の3枚。スペースがあればボールを供給し、前に収まればサポートに入って厚みを加え、アプローチが緩ければドリブルで運び、コースがあれば積極的にミドルも狙ってくる。
熊本としては、出どころに対してプレスをかけることに加え、前線のサポートにも入るこの中盤をしっかり捕まえることが最大のミッション。前の組合せも含めて今節は先発に変化がありそうだが、後方からのフィードを安易に出させないためのアプローチ、中盤から後ろの連動と合わせたプレスバック、さらに切り替わってからの背後への飛び出しと、特に前線の選手には状況に応じた判断、そして豊富な運動量が必須。合わせてウイングバック含めた中盤は、「セカンドボールの争いと球際で負けないこと」(原田拓)が最低条件。前述したが、練習時の紅白戦の途中に選手たちが意見を交わしたのも、そうしたプレッシングについて、「前が行くなら連動して、追いきれないならセットする、そういうイメージを共有すること」(廣井)がテーマだったようである。
攻撃に関しても、状況判断が必要なのは同じだ。今シーズン開幕時に掲げたのは、ボールをつないで崩していくという形。その点に関しては継続しているとはいえ、最終目的はあくまでゴールであり、例えば手数をかけずに背後を取れる場面であれば、つなぐことに固執する必要はないし、逆もまた然りである。現在採っている1トップ2シャドウの形とそのポジションでプレーしている選手の特徴を考慮すれば、どういう形がチャンスになりやすいかは自ずと浮かび上がってくるが、冒頭の「持っている力、良さを出せるか」という高木監督の言葉の真意はそこにある。
前節の千葉戦で数度迎えた決定機と言える場面でいずれもネットを揺らせなかった武富孝介は、意図した動かし方からチャンスを作れていることに対して手応えを感じている一方で、「個でそういう場面を作れそうな時は、作らないといけないと思う」と話した。それぞれがぞれぞれの持ち味を発揮して、時にリスクを伴った判断で相手のいやがるプレーをチョイスし、そうしたトライする姿勢を見せること。高木監督が山形について評した「1人1人が大人」という部分を、1つ1つの局面で負けずに表現していくこと。90分+αの戦いを終えてもたらされる結果は、その積み重ねにかかっている。
以上
2012.05.26 Reported by 井芹貴志
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