言うならば地道な“継続”とダイナミックな“創造”といったところか。新指揮官の下で今季をスタートさせた両者だが、そのチーム作りは実に対照的ものとなっている。
あくまで継続的なブラッシュアップを掲げるのはホーム・磐田。森下仁志監督の指揮するトレーニングは一貫したものがあり、3対2(2対2+フリーマン1)、4対4といったチーム作りの根幹を担うメニューはシーズン開幕前と変わっていない。攻守の切り替えや球際の強さ、グループ間の連動性といった指揮官の要求も不変。インターバル時も給水した後にジョギングしながら次のトレーニングへ移るなど夏場もきびきびとしたムードを維持して練習に打ち込んできた。この夏にハン サンウン、小林祐希という新戦力が加わり、チーム内の競争も一定の水準をキープできている。
ただし、ディティールの部分で強弱はつけている。今節へ向けた調整の中では現体制としては珍しい練習メニューも見られた。逆転負けを喫した前節・鹿島戦翌日、指揮官はパス練習から調整を再開。それも正面の相手とパス&ターンを繰り返すという極めてシンプルなものだった。「あの練習も“球際”の部分」と森下監督は言う。「鹿島戦でも(パスが)ずれているところがあったし、ターンミスして奪われた場面もあった。攻撃のスタートはやはりそこだし、よりボールを動かせるようになっている分、さらに質を上げていきたい」(同監督)。第12節・新潟戦以降、ボール保持率で相手を上回ったゲームは多くあっただけに、自らのスタイルを貫きつつ、そのクオリティーをさらに高めていく構えだ。
継続的なトレーニング、選手間の競争、そしてディテールの追求。この3点を維持する新チームはここまで順調に段階を踏んできていると言える。だからこそここ数試合の結果、順位はもの足りない。前節鹿島に敗れ、ここ3試合勝利なし。仮にこの試合を落とせばシーズン序盤から積み上げた貯金も底をつき、9勝4分9敗と星勘定は全くの五分となる。強さを見せたホームゲームでも第14節・神戸戦で今季ホーム初黒星。以後、リーグ戦7試合で2勝1分4敗とやや伸び悩んでいる感もあるが、ここで踏ん張ることができるか。代表組の前田遼一、駒野友一、ロンドンオリンピックを終えたペク ソンドンは17日までにチームに合流。駒は揃っている。
一方、アウェイ・C大阪はこの夏に攻撃の中核を担っていた清武弘嗣、7得点のチームトップスコアラー・キム ボギョン、チームトップの4アシストをマークしていたブランキーニョがいずれもチームを離れることになった。
シーズン途中に主力選手がダイナミックに出入りする様はヨーロッパのビッグクラブの移籍劇を見ているかのようだが、とはいえ、このクラブには香川真司、乾貴士といったエース格の選手がシーズン途中にチームを離れたという過去があり、今夏も一つのモデルケースにすぎないのだろうか。現に高い能力を持った即戦力を複数補強しており、全体のバランスは崩していない。ここに五輪組の扇原貴宏、山口螢、杉本健勇の3選手が今週チームに合流。ここからシーズンの“第2章”をスタートさせる。
注目の新戦力はやはりイタリアの名門ASローマより電撃加入したブラジル人ボランチ・シンプリシオである。第20節・札幌戦のJデビュー戦から実力通りのパフォーマンスを見せており、セリエAで8シーズンを過ごし、200を越える試合に出場してきたキャリアは伊達ではないことをすでに証明済みだ。とにかくミスが少なく、安定感は抜群。正確かつパワフルなミドルシュートも威力十分だ。もともとこのチームのボランチを担当していた扇原、山口がカムバックしてもなおベンチに置いておくにはあまりに惜しい人材だが、指揮官はどんな決断を下すのか。清水より加入した枝村匠馬も前節の大阪ダービーで2得点をマーク。草津より加入したヘベルチもこの試合で先発し、加入後初出場を果たしている。もちろん新戦力のみならずエースストライカー・ケンペス、C大阪アカデミーが生んだ最高傑作との呼び声も高い柿谷曜一朗もさらなるブレイクを狙っているだろう。連係面ではまだまだ手探りな部分があるかもしれないが、グループ間のコンビネーションは必ずしも共有した時間の長さに比例するわけではない。能力の高い選手同士であればなおのこと短期間で“あうん”の呼吸を生み出してしまうことも珍しくない。
夏の一大イベント・ロンドンオリンピックも閉幕。ここからは天皇杯を挟みながらシーズン終盤戦へ向けて一気にカウントダウンしていくことになる。五輪後初のJリーグを制し、波に乗るのはどちらか。
なお、磐田はこの試合を「東日本大震災復興支援デー」と銘打ち、先月クラブ公式HP上で開催したチャリティーオークションの収益金をもとに岩手県山田町、大槌町、野田村の子どもたち約65名をこの試合に招待。試合前には同県の特産品も販売され、選手が応援メッセージを書き入れたフラッグも掲げられる。
以上
2012.08.17 Reported by 南間健治
J’s GOALニュース
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