その歴史はまだ1ページ目の、それもまだ1行目に文字を印し始めたに過ぎない。しかし物語はきっと分厚くて、壮大になる。北九州と福岡のダービーのことである。
未だ福岡ダービーと呼ぶべきか、福北ダービーと呼ぶべきか、北福ダービーと呼ぶべきか、または別の名前にするべきなのか――、そういう論を聞く段階なのだから、私たちが1行目に立っていることは受け入れるべき現実だろう。そして、それゆえに、ギラヴァンツ北九州とアビスパ福岡に関わる人のすべてが歴史を己の手で刻んでゆける。このダービーのどこに楽しみや醍醐味を見いだすか。それさえ自由だ。ただ、ダービーが歴史を刻み、日本中、世界中に轟く魅惑的なリージョナルダービーに育つためには、歴史書の書き手として、私たちは責任を負うことにもなる。
北九州・三浦泰年監督は「福岡市と北九州市の地域の特性を考えると、静岡ダービーよりもプライドを懸けた大きなものになるかもしれない」と話す。ただ現状は北九州『市』が勝つか、福岡『市』が勝つかというような「土地の話にとどまっている」とも指摘する。
2大都市のプライドをぶつけるという意味で『北九州市』と『福岡市』の対決構造はダービーの重要な一面だ。それでも三浦監督は「どんなサッカー、どんなスタイルを追求しているか。もっとサッカーを知ることが大事だ」と話す。勝点3をどちらの『市』が得るかという勝負だけではダービーは円熟しないかもしれない。互いがそれぞれのサッカーを追求し、サポーターもそれを後押しし、勝敗のみならず、内容面、雰囲気、感情のあらゆるものがぶつかり、雌雄を決する。それがこのダービーが目指すべき着地点であり、永続性への挑戦に他ならない。
前置きが長くなってしまったが、もう少し話しておきたい。
今戦では北九州サポーターが本城を満員にしようとチラシを作ったり、フラッグで黄色に染めようと草の根の活動が広まっている。これまでホームジャックをされていた北九州が、ピッチ上の勝敗論から抜け出す好機だと言えるだろう。ホームの「雰囲気」までもがダービーにふさわしいものになっていくか、私は重要なターニングポイントになると思っている。
試合を展望していこう。
北九州は前節、大分と対戦。2試合続けて早い時間に退場者を出す苦しい試合になったが、10人になってからも4−3−2という攻撃的な布陣を貫き、リスクを顧みずに攻めに出た。これが奏功し、川鍋良祐のクロスを池元友樹が頭で合わせて83分に先制。ディフェンス陣も大分の何度もあったセットプレーを体を張ってしのぎ、1−0で勝利した。
この勝利は、攻撃的なパスサッカーの継続と決定力不足の克服を目指す北九州に大きな自信を与えた。木村祐志は「試合を重ねるごとに前への意識やシュートへの意識は高くなっている。もうちょい得意な位置でゴールに近づいていくことが大事」と話し、池元友樹も「チームとして構築できているものはあるが、ゴールを向いているときの最後の精度とアイデアをもっと上げていかないといけない」と指摘する。
木村、新井涼平らが軸となるパスワークはJ2の中でもトップクラスと言っても過言ではなく、今節も従前同様に前線まで運ぶことはできるだろう。あとは決定力。ゴールネットを揺らす可能性を高めるべくフィニッシュにはこだわり、枠に飛んだり、セカンドボールを自分たちのものにしうるようなシュートを放ちたい。
福岡との前回対戦が示すようにボールポゼッションは決して低くはないし、守備面でもハードワークができる。詰まるところ、勝敗のカギを握るのはフィニッシュの1点に懸かっている。
対する福岡。ダービーは過去3戦すべてに完封勝利しており、今戦も決して落としてはならない試合だ。ただ前節はホーム戦でありながら湘南に1−3で完敗を喫し、現在は16位。北九州の後塵を拝している。
湘南戦では守備面に残した課題が大きく、湘南のスピードへの対応、サイド展開へのケアは後手に回り、相次いで失点した。FWオズマールの加入などで攻撃はある程度計算が立つだけに、福岡としては守備陣がどこまで踏ん張れるかがポイントとなる。
ポゼッションで優位に立つ北九州が、相手守備のほつれを突けるか。あるいは福岡が相手のハードワークをかいくぐってゴールに押し込むか。点が動くとすればそういう展開になるかもしれない。それはロースコアの決着を予期させる。しかし何が起こるかが分からないのがダービーだ。モチベーションの高まりは思わぬ力をもたらしもするし、思わぬミスも誘発する。すべては90分のお楽しみだ。
ただ、思わぬ出来事が起きるためには、真っ向勝負こそが必要。三浦監督は「両チームがアグレッシブに戦う、攻撃的な守備、攻撃をする。そのために我々はアクティブなサッカーを仕掛けていきたい」と意気込む。花を咲かそうが、花と散ろうが、すべてはダービーの歴史を刻むべく、自分たちのサッカーを真正面からぶつけていく。「例えは悪いが」と前置きしたうえで、三浦監督はマンチェスターダービーを例に「きっと赤色を着ていたら水色を殴りたくなるような、そのくらいのチームへの愛情、プライドが覗いてくればダービーに近づいてくるだろう。そういうことが起こりうる地域だ」と話した。
ダービー4戦目。歴史の書き手は、選手であり、監督であり、サポーターだ。すべての北九州と福岡に関わる人たちが本城に集うことを期待し、試合の幕開けを待ちたい。
以上
2012.08.18 Reported by 上田真之介
J’s GOALニュース
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